ピピナナ&真木野聖コラボレーション企画 第1弾

『Mother』
  〜ピピナナ&真木野聖 作〜

◆◆<1>真木野聖◆◆
ジョーはいつものように南部博士を公用車でISOから別荘に向けて送ろうとしていた。
普段と特に変わらぬ夜だった。
もうすぐ別荘に到着する。
くねくねと曲がった迷路のようなカーブを彼は正確にスピードを落とす事なく走り抜ける。
博士は後部座席でファイルに眼を通している。
夜空の月が美しい。
「博士、綺麗な満月ですよ。
 少しは仕事から離れてゆっくりしたらどうです?」
ジョーが思わず声を掛ける程だった。
「む?本当だ。空が澄み渡っているのだな」
「少しスピードを落としましょうか?」
「いや。帰ったらこの書類の調査結果を分析せねばならんのだ」
「仕事をお持ち帰りですか…」
ジョーは思わせ振りに溜息をついた。
「博士。少しは身体を労わらないと。いつかきっと倒れますよ」
心配気に室内ミラーで後部座席を見やった時に、ジョーは異様な空気に気付いた。
「博士っ!」
ジョーは運転席にあるボタンを押し、博士の身体をシートベルトで固定した。
「敵襲です!身を低くしていて下さい。
 恐らくは博士の身柄を狙っている筈です」
「ギャラクターかね?」
「まだ解りません」
ジョーはステアリングを切った。
ジープとヘリコプターが同時に襲い掛かろうとしていた。
ジョーは運転席とナビゲートシート側のウインドウを開けた。
左側にジープが迫っている。
ジーンズの隠しポケットから素早く武器を取り出した。
何時の間にか羽根手裏剣が唇に咥えられている。
右手にはエアガンを構えていた。
ジープの運転をしている男をジョーは狙い撃ちした。
1発必中。
狙い違わず命中し、ジープは蛇行し始めていた。
マシンガンが襲って来る。
ジョーは蛇行するジープの中にいる敵に羽根手裏剣を正確に放った。
ジープに乗っていた3人の首筋にそれが当たった。
ジープはそのまま谷底に転落して行った。
しかし、まだヘリコプターがいた。
「いくら月明かりがあるとは言っても、こんな暗がりで、それもこのカーブで襲って来るとは何とも大胆な敵だな」
ジョーはヘリを見上げた。
月明かりに照らされて、一瞬ギャラクターの赤いマークが見えた。
「博士、ギャラクターですね。間違いありません」
ジョーは左手でハンドルを握りながらシートから立ち上がり、右側の窓に身体を乗り出した。
エアガンが操縦士を捉える。

そんなシーンを見ている別手の3人がいた。
「ギャラクターめ。ついに行動を開始したか」
「でも、ジョーが居るなら大丈夫だろう」
最初の声は30代半ば過ぎの男。
2人目の声は野太いが身体付きは女性だった。
ただ、大柄でいかにも鍛え上げられている感じを与えた。
もう1人、少しおどおどとした男がいた。
この2人は20代半ばである。
ISOの情報部員は2人1組で行動する。
フランツは最近相棒を失った。
新しい相棒を宛がわれそうになったが、それを固く拒否して、1人で南部博士誘拐計画の内偵をしていた。
そんな折、別の筋からたまたま同じ計画を調査していたアマンダとネイサンの2人と行動を共にするように、と言う上からのお達しが出た。
まだ即席の3人組だったが、それぞれがそれぞれのペースで動き、此処までは上手く行っていた。
「さて、どうする?南部博士にこの計画の事を伝えるべきだと思うが」
フランツが言った。
「ジョーの前で俺を呼ぶ時は『エース』と呼んでくれ。
 ちょっと個人的に知り合いなもんでね」
「その件は解った。でも、それなら顔がバレてるんじゃないのか?」
「そうそう」
隣でネイサンが頷いている。
「この顔は変装だ。心配するな。似ても似つかぬ面を被っている。
 尤もジョーは俺の正体に気付いているようだがね」
フランツは2人の顔を均等に見た。
「ふん、まあ、これまでの調査内容は南部博士には伝えるべきだぜ」
アマンダが鋭い眼で、ジョーが1人で苦もなく爆破したヘリを見上げた。

◆◆<2>ピピナナ◆◆
「調査内容は纏めてあるのか?」
フランツが言った。
「ああ、こいつがね。」
アマンダがネイサンを親指で指差して言った。
「ここに…。」
ネイサンがポケットからメモリーチップを出して、フランツに示した。
「よし、上出来だ。」
フランツが頷いた。
「当たり前だぜ。ぬかりはねえ。俺達を誰だと思ってやがる。」
アマンダが口を尖らせて言った。
「そうそう。」
ネイサンも同調した。
フランツはふっと溜め息をついた。
この二人が情報部員として優秀なのは、よくわかっていた。
情報部内で噂も聞いていたし、実際、組んでみても、それは明らかだった。
しかし、この自信は鼻につく。
いつか痛い目に会わなきゃいいが…。
フランツは老婆心ながら、そう思わざるを得なかった。
「で、どうする?」
アマンダが胸ポケットから煙草を取り出し、くわえながら訊いた。
フランツはアマンダの口から煙草をもぎ取った。
「任務中だ。やめろ。」
「まあ固い事言いなさんな。」
アマンダは煙草をフランツの手から取り返すと、火を点けた。
そして、美味しそうにふーっと煙を吐くと言った。
「直接、南部博士に接触するか?ISO を通すか?」
「ギャラクターは既に動き出している。すぐにでも南部博士に報せた方がいいだろう。」
フランツはアマンダの煙草を苦々しく思いながら答えた。
「了解。じゃ、早速行くとするか。」
アマンダはポイッと煙草を投げ捨てると、歩き出した。
ネイサンが煙草を踏み潰して、火を消してから、後に続く。
フランツはまたも大きな溜め息をついた。

◆◆<3>真木野聖◆◆
「しかし、ISOを通さずにどうやって博士に連絡を取るのだ?」
フランツは首を傾げた。
そうだ、科学忍者隊の基地は彼ら情報部員には知らされていない。
ISOの長官であるアンダーソンでさえ、知らぬ話だ。
南部博士の別荘の位置は解っている。
忍び込むしかないだろうが、さすがに警報装置やら何やらが仕掛けられている事だろう。
博士を送って出て来たジョーに接触するしかあるまい。
今、フランツは『エース』として以前科学忍者隊と絡んだ時の面を着けている。
ジョーなら事情を察して南部博士に話を繋いでくれるに違いない。
「着いて来い」
フランツは車の運転席に乗り込んだ。
彼は休みの日にはレーサー稼業をしているから、運転なら安心して任せられるとアマンダとネイサンも思っていた。
「別荘に行くんだな?」
「それしか近道はないだろう」
フランツは彼にしては珍しく仏頂面で呟いた。
実力のある者には彼は不遜な態度も許容する。
ジョーに対する彼はそうだった。
ただ、この2人の腕は見込んだが、完全に信頼した訳ではなかった。
フランツは別荘を前に車を停めた。
車寄せにはジョーが乗って来た公用車が見える。
その奥の駐車スペースには彼の愛車もあった。
フランツはその事には気付かぬ振りを通そうと思った。
見ない振りをすればいい。
そこでジョーが出て来るのを待った。
「ジョーさん、気をつけてね」
年老いた老婆の声がジョーを追って来ていた。
「テレサ婆さん、わざわざ此処まで送って来なくてもいいのに」
ジョーが見せる意外な素顔だった。
まるで孫と祖母のようにフランツには見えた。
「じゃあ、また」
ジョーはまず公用車を駐車スペースに移動した。
G−2号機の隣である。
そこにフランツがアマンダとネイサンを引き連れて接触を試みた。
「我々はISOの情報部員だ。貴方は南部博士の養子だと言う情報を得ている。
 緊急を要する用事で南部博士に逢いたい。
 今、ギャラクターに襲われた事にも関係している」
「何だって!?」
驚いて見せてから、ジョーはフランツの後ろの2人を値踏みするように見ていたがハッとした。
ギャラクターの本部を探っていたあの時の2人だ。
「185cm、60kg…」
人の身長と体重を見破る特技があるネイサンはアマンダに頷いて見せた。
ネイサンはジョーが科学忍者隊のG−2号だと見破ったのだ。
「科学忍者隊なら中に1人いるぜ。呼んで来るから待っていな」
ジョーは再び建物内に消え、やがてバードスタイルになって彼らの前に現われた。
「『エース』にアマンダ、ネイサンとはおかしなトリオだな。
 まあいい。確かにあんたらは情報部員である事に間違いはねぇ。
 博士に話を通してあるから着いて来な」
ジョーは後方の別荘の建物に向けて、親指をぐいっと突き出した。
彼は科学忍者隊の司令室や博士の執務室ではなく、夜のテラスに案内した。
テレサ婆さんが用意したのか、コーヒーが5人分入っていて、人払いがされていた。

◆◆<4>ピピナナ◆◆
案内されたテラスには、まだ南部博士の姿はなかった。
フランツは司令室や執務室に通されない事に違和感を感じた。
なぜテラスなんだろうと、不審に思った。
目だけで辺りを見回してみた。
いつ敵が襲って来てもおかしくない状況なのに、ここはあまりにも無防備すぎた。
「南部博士は?」
フランツは訊いてみた。
「もう少ししたら…。」
ジョーは言葉を濁した。
いよいよフランツの不審が募った。
アマンダとネイサンも何か解せぬという顔をしている。
と、そこへ3人の視界の端に何か動くものがあった。
咄嗟にフランツとアマンダは身構えた。
思った通り、ギャラクターの登場だった。
先程の失敗を取り戻すべく、再び襲って来たのだ。
おそらくは、テラスに人影があったので、南部博士もいるものと考えたのだろう。
今度の敵は身のこなしが軽かった。
まるで忍者のようだった。
相当に訓練をされているように見えた。
フランツとアマンダは戦闘体制に入った。
ネイサンは2人に場所を空けるために、隅に退いた。
「ギャラクターめ!」
襲いかかるギャラクターと2人は闘った。
アマンダは自負しているだけあって、腕っぷしが強かった。
脚蹴りやパンチも重い。
フランツは洗練された闘い振りを披露していた。
たが、2人はある事に気付いた。
ジョーが闘いに参加してこないのだ。
腕組みしたまま、壁に寄りかかって、2人の闘い振りを見ているだけなのだ。
「ジョー!!何してやがる!」
アマンダが敵を蹴散らしながら叫んだ。
しかし、ジョーは黙って動かない。
フランツも闘いながらジョーを見た。
フランツは何かがおかしいと感じ始めていた。
「ええい、引け!」
フランツとアマンダが手強いと感じたギャラクターはその場を後にした。
それをアマンダが追い掛けようとしたのをジョーが制した。
「もういい。どうやら本物の『エース』とアマンダらしい。」
ジョーはまだ疑っていたのだ。
「念のため、闘い振りを観察させてもらったぜ。」
その闘い振りで、本物の『エース』とアマンダだという事をジョーは納得した。
「何だ、試したのか。」
アマンダがムッとした表情で言った。
フランツは、ジョーは用心深い男だと知っていたので、腹も立たなかった。
「まあコーヒーでも飲め。」
ジョーが3人にコーヒーを勧めた。
「いや、コーヒーは苦手で…。」
ネイサンが断ったが、
「まあ一口でも飲めよ。」
とジョーは更に勧めた。
ネイサンが渋々コーヒーを口に含んだ。
しかし、その途端、ネイサンはコーヒーを吐き出した。
「何だよ、きたねえなあ。」
アマンダが顔をしかめた。
「このコーヒー、味が変だ。」
ネイサンがアマンダにすがるような目で見た。
「何かの薬物が入っている…。」
ネイサンがそう呟いた。
「OK 、ネイサンも合格だ。」
ジョーが言った。
情報部員は任務上、薬物をもられた時の事を想定して、味をききわける訓練をしている。
ジョーはその事を知っていたのだ。

◆◆<5>真木野聖◆◆
フランツ、アマンダ、ネイサンがギャラクターだと思っていた相手は、健とジュンだった。
深緑のトレーニングスーツを着ていただけでも、暗闇ではギャラクターに見えた。
彼らは3人にちょっとした錯覚を起こさせたのだ。
2人は白いマントで颯爽と現われた。
「何だ。科学忍者隊は此処に揃っていたのか?」
フランツが呟いた。
「あと2人は遊びに出掛けているがね。
 だが俺が呼び出したから、すぐに来るだろうよ」
ジョーがニヤリと笑って言った。
「南部博士は建物の中にいる。だが、俺達の司令室に入れる訳には行かねぇ。
 悪いが会議室で待っていてくれ」
「こっちへ…」
ジュンが案内した。
博士の別荘は、別荘と言うよりも研究所だとアマンダは思った。
「仕事の虫だな、南部博士と言う男は」
「そうそう」
「少しは口を慎め」
アマンダとネイサンが迂闊な事を言わないかとフランツは気が気ではない。
「どう言った経緯で3人で組んでいるかは知らないけれど、面白い人達ね」
ジュンが笑った。
健とジョーは後ろから付いて来ていた。
間もなく甚平と竜も現われるだろう。
「G−3号。俺は博士を呼んで来る。頼んだぜ」
ジョーは途中で通路を折れた。
「わざわざ呼びに行かなくても通信すればいいのに、G−2号ったらどうしたのかしら?」
「あいつは本当に警戒心が強い奴だからな。
 この別荘に関係者以外が入った事はない。
 念には念を入れて、博士に危害が及ばないように考えているのさ」
「さすがはG−1号。G−2号とは長い付き合いだけの事はあるわね」
ジュンはG−1号、G−2号と言った呼び方にもどかしさを感じていた。
3人の情報部員を部屋に通すと、健とジュンはそれぞれドアの横と窓際を固めた。
南部博士の別荘の存在はギャラクターにも知られている。
ISOからの帰途を襲われたとなれば、いつギャラクターが襲撃して来るか解らない。
それにこの情報部員達が、ギャラクターの南部博士誘拐計画を掴んでいるようだ。
健達はその事を重く見ていた。

会議室は塵1つなく、綺麗に清掃されていた。
この別荘には使用人がおり、管理を任せてあるのだ。
フランツは感心しながら控えめに部屋を見回した。
ネイサンは落ち着きなく、キョロキョロとしている。
アマンダは腕を組み、指をとんとんと動かしながら待ち時間の長さにイライラしている様子だった。
「博士、どうぞ」
その時、ジョーがドアを外から開けて、1人の口髭の紳士を連れて来た。
スラッとした細身でスタイリッシュな男だった。
テレビでは観た事があったが、実際に逢うのは初めてだった。
「待たせて済まなかった。仕事が立て込んでいてね。
 まあ、座りたまえ」
博士はフランツに急かされて席を立って迎えた情報部員達にふかふかの高級ソファーに座るように勧めた。
早速ネイサンはバッグからタブレット端末を取り出した。
「ああ、タブレットの画面をこっちに映るようにしよう」
博士はそう言って会議室にあるコンピューターに何やら配線をした。
そして彼が壁のボタンを押すと、上からスルスルとスクリーンが降りて来て、そこにメモリーチップの内容が映し出された。
スクリーンにはまず、とある秘密基地らしき建物が映った。
その全貌は氷に隠れて良く見えない。
凍った山肌に何かミサイルのような物が覗いているのが辛うじて解る。
「ありゃあ、何だい?ミサイルのようだが、もっとアップの写真はねぇのか?
 それにこれと博士の誘拐計画とどう関係がある?」
ジョーが訊いた。
彼は何を狙っているものなのかが気になっている。
「まあまあ、急かさないで」
ネイサンがニヤニヤしながら、次の写真が出るように操作した。

◆◆<6>ピピナナ◆◆
次の写真はミサイルと思われるものの拡大写真だった。
固い氷に覆われた岩肌に突き出しているのは、やはりミサイルのようだった。
ミサイルは1基だけあって、その巨大な姿を天空に向かってそびえさせている。
ただ、発射台はもう1基あった。
「間違いなくミサイルだな。」
ジョーが『エース』ことフランツと目を合わせて呟いた。
『エース』も頷いた。
「そうそう」
ネイサンが続けた。
「それも核ミサイル。」
「何だって?!」
『エース』とアマンダ、ネイサンを除くみんなが一斉に叫んだ。
その反応を楽しむかのように、ネイサンは口を開いた。
「それも、局所を狙うミサイルではなく、あれを空中で爆発させて、広範囲に放射能の雨を降らせるミサイル。」
「広範囲とは…?」
南部博士が訊いた。
「地球の半分をカバーするくらい。」
ネイサンが説明した。
「何て事だ…。」
南部博士は頭を抱え込んだ。
「そんな事になったら大変な事ですね。」
健が言った。
「うむ…。その前に何としてもあの基地とミサイルを破壊せねば…。」
「しかし、それと南部博士の誘拐未遂事件と何の関係が?」
ジュンが訊いた。
いよいよネイサンはニヤリと笑った。
「そうそう、それそれ。いくらギャラクターといえど、放射能に汚染された地球ではマズイ…。」
「それで南部博士の誘拐となった訳です。」
『エース』が、ネイサンのタメ口調にイライラしながら、付け加えた。
「ギャラクターの科学力をもっても、放射能を除染するミサイルを作れなかったのです。
それを南部博士を誘拐して作らせようとしているんです。」
「成る程、そういう訳か…。」
ジョーが忌々しそうな顔をして呟いた。

◆◆<7>真木野聖◆◆
「放射能の雨を降らせると言って、降伏を迫ろうってぇのか?
 そして、それを実際に使うつもりでいる」
ジョーは右手の拳を左の掌に叩き付けた。
「そうそう。そう言う事」
ネイサンは淡々と話しているが、自分の言っている事がどれだけ重大な事なのか解っているのか?とフランツは不安になっていた。
ネイサンはそう言った喋り方をするだけであって、彼だってその事は十二分に理解している。
だが、その態度がフランツには鼻に付く。
アマンダは全く気にしていない。
ネイサンの性格が解っているからだ。
「除染ミサイルを私に作らせようと言う計画は解ったが、それは私にも並大抵の事では作れない」
南部は頭を抱えたままで言った。
「それでもやらせようと狙っているんでしょうね。今も虎視眈々と」
健が呟いた。
「ギャラクターに出来ない物が、私に易々と作れる物ではない。
 ギャラクターにもその位の事は解りそうなものだが…」
「博士は謙遜し過ぎなんですよ」
ジョーは言った。
「とにかく此処まで解っているのなら、このミサイルを発射させなければいいんじゃないですか?」
ジョーは博士には比較的丁重なのだな、とフランツは彼の口調を聴いていて思った。
親を亡くした瀕死のジョーを救ってくれた、と以前聴いた事がある。
「G−2号の言う通りです。場所も解っているのなら、我々が行ってあのミサイル毎基地を破壊して来ましょう」
健も力強く言った。
その青い瞳には怒りが篭っていた。
「『エース』、アマンダ、ネイサン。この基地の場所は?」
ジョーが訊いた。
その時、甚平と竜が到着した。
「遅くなってすまんぞい」
2人は仲良く映画を観に行っていたのだ。
「遅ぇっ!」
ジョーが一喝した。
「これでも一番いい処で我慢して出て来たんだよ」
甚平が人差し指を突き合わせて俯いた。
「まあ、いいじゃないか。……続きを」
健が促した。
ネイサンが頷いて次の画面を表示した。
地図が現われる。
地球の北の方、北極に近いある地域の山脈の中心部に×印が着いていた。
「此処は1年中氷に包まれている。溶ける事はねぇ」
アマンダが言った。
またフランツがイラっとした。
あのジョーでさえ、博士の前では言葉遣いに気を遣っているのに…。
ジョーはフランツのイライラが手に取るように解って、笑いを堪えるのに苦労した。
(フランツも苦労しているみてぇだな…)
唇を一文字に結び直して、ジョーは山脈の地図を見た。
「博士。この地域の立体図を出す事は出来ませんか?」
「ああ、少し待ちたまえ」
南部博士は気を取り直したかのように動き始めた。
コンピューターを作動させ、一旦ネイサンのタブレット端末との接続を解除する。
「このミサイルは取り分け高い山肌にありますね」
ジョーが腕を組んだ。
「健、上空からバードミサイルで狙えねぇか?」
「馬鹿言うな。近隣に放射能をばら撒く事になるぞ」
確かに健の言う通りだ。
それならどうしたらいい…?
ジョーは頭を抱えたくなった。
そして、
「氷に包まれた山肌で、良くあのミサイルは凍り付かねぇもんだな」
と呟いた。
「何?」
ジョーの一言に、南部博士が反応した。

◆◆<8>ピピナナ◆◆
「それだ!ジョー!」
南部博士はそう叫ぶと、会議室から出て行った。
何か閃くものがあったに違いない。
「何だい、ありゃ。」
アマンダが呆れたような口調で言った。
科学忍者隊の5人は南部博士のそういった行動はありがちなので、さほど気にならなかったが、『エース』、アマンダ、ネイサンは驚いていた。
「南部博士がいない間に話を進めよう。」
健が先を促した。
「この基地の事でわかっているのは、核ミサイルがあるという事と場所だけか?」
ジョーが口を開いた。
「いや、まだ続きがあるぜ。」
アマンダが鋭い目付きで全員を見回した。
「なあ、ネイサン。」
ネイサンはこくりと頷くと立ち上がった。
スクリーンに先程の核ミサイルの拡大写真を再び映し出した。
「このミサイルも基地全体も、巨大なコンピュータで制御されているんだ。」
全員が頷いた。
コンピュータで制御されている基地は今までもあった。
その度に科学忍者隊がコンピュータを破壊している。
「そのコンピュータで隊員の出入りまで厳しくチェックされてるんだ。蟻の子一匹通れない。パスワードが毎日変わるからね。」
ネイサンが説明した。
「バードミサイルも駄目。潜入も難しいという事か…。」
ジョーが腕組みして考え込んだ。
「しかし、何とか手立てがらある筈だ。」
健がそう言ったが、ネイサンは首を横に振った。
「駄目だね。」
「何故だ?!今までもそうやって打破してきたんだ!」
健が食い下がった。
「もしも、そのコンピュータが自分の意志を持っているとしたらどうする?」
科学忍者隊の一同がえっとなった。
『エース』、アマンダ、ネイサンが暗い顔をして俯いた。

◆◆<9>真木野聖◆◆
「コンピューターが自分の意志を持っているだって?!」
ジョーは思わず反芻していた。
(そんな訳がねぇだろう……)
内心では否定したかった。
だが、ネイサンはその道のプロフェッショナルだ。
嘘を言っているとは思えない。
「ギャラクターの奴ら、そんなとんでもない事が出来るのだったら、何故放射能の除染装置を南部博士に作らせようとしたんだ?」
健が呟いた。
「そうだ。そのコンピューターに開発させりゃあ、いいじゃねぇか」
ジョーの口調も博士がいなくなったので、普段に戻っている。
「ネイサン、何とかならねぇのか?」
「なるのなら、とっくに思いついてる。だから此処に来た」
アマンダが腕を組んで威圧的に言った。
「困った事になった、と俺達も正直頭を抱えている」
フランツもそう言った。
「何かある筈だ…。何か……」
健はスクリーンを睨みつけて呟いていた。
「G−1号。ギャラクターの隊員になり切るしかねぇだろうぜ。
 外にいる隊員を取っ捕まえて口を割らせパスワードを聞き出す」
「乱暴な事だが、仕方がないな」
「そう上手く行くかな?」
ネイサンが呟いたが、アマンダがネイサンの頭をごつんと叩いた。
「やるしかねぇんだよ」
『エース』ことフランツはそれこそ眼を覆いたくなった。
何だ、この凸凹コンビは。
仕事は出来るが人間としてはなっていない。
フランツはそう思った。
その思いは、まだこの2人の本質を知っていない事にも起因していた。

ジョーはふと、飛び出して行った博士の事が気になり、ブレスレットに話し掛けた。
「博士!まさかISOに行く気ですか?
 無謀です。俺が行くまで待って下さい」
『心配は要らん。ロジャースに頼んだ。
 諸君はそこにいる情報部員達と協力して、基地への潜入を進めたまえ』
「それがなかなか困難なようですよ。博士は話の途中で出て行かれましたからね」
健も言った。
「ですが、やるしかありません。こちらは俺達に任せて下さい」
『頼んだ。私はミサイルを凍結させる為の準備をする。
 あのミサイルが凍りついた山脈の中で全く凍っていなかったのは、ミサイル自体に何かコーティングがしてあるからだ。
 そのコーティング剤をあの写真から分析して割り出す。
 そうすれば、ミサイルを凍らせて放射能毎包み込む事が可能になるのだ』
博士の言っている事は訳が解らない。
だが、そっちは博士に任せておけばいい。
「こっちは作戦が練られたらすぐに出発します」
健が告げた。
「だけんどもよ。ギャラクターの隊員の口を割らせるって、そんな簡単に行くんかいのう?」
竜がこんな時でも暢気そうに聴こえる口調で言った。
「いや、自白剤を飲ませる。それならどうだ?」
ジョーが腕を組んだまま鋭い眼をした。
「そっか!ギャラクターの隊員なら、自白剤でコロっと喋っちまうぜ!」
甚平が指を鳴らす。
「甘く見ちゃ行かん。今回の警戒は特に厳重だ。
 パスワードを聴き出したからと言って、それだけで潜入に成功するとは思えない」
フランツが冷静に言った。
「しかし、行くしかないでしょう。この作戦は何としても阻止しなければ。
 博士の分析と機器の開発を待っている訳には行かない」
健が言った。
「そうだ。その通りだ。俺もそれには賛成するぜ」
アマンダが男のような口調で言い、煙草を取り出した。
それをまたフランツが取り上げた。
「未成年の前だ。自重しろ」
「別に構わんだろ」
フランツは何時の間にか取り上げた煙草を奪われていた。
アマンダが火を点けようとした煙草の先を、ジョーが羽根手裏剣で切り取った。
「此処は禁煙なんでね」
ジョーはぶっきら棒に呟いた。
少し心がざらついていた。

◆◆<10>ピピナナ◆◆
「ちぇっ。」
アマンダが舌打ちした。
「あれでも我慢してた方なんだよ。なんてったってさっきまでISO のお偉いさんの前だったからね。」
ネイサンがとりなした。
アマンダは腕組みして、そっぽを向いている。どうやらアマンダはチェーンスモーカーらしい。
「それより…。」
健が口を開いた。
「ギャラクターを潰しに行くのが重要だ。」
「そうだな。」
ジョーも同意した。
「『エース』、アマンダ、ネイサン。情報をありがとよ。おめえ達の任務はここまでだ。」
「それは、どうかな?」
アマンダが言った。
「敵はギャラクターの隊員だけじゃねえ。今度は意志を持ったコンピュータも相手にしなきゃならねえんだぜ。」
確かにそうだった。
「コンピュータに強いネイサンを連れて行った方が得策だと思わねえか?」
アマンダはニヤリと笑って、ネイサンを親指で指差した。
「そうそう。」
「……」
健はそれを聞くと、腕組みして考え込んだ。
アマンダの言う通りであったが、それは情報部員の任務ではない。
それに、危険な目に合わす訳にもいかなかった。
「俺達の身を案ずる事はない。自分の身を守る術は持っている。」
『エース』が言った。
『エース』とアマンダは大丈夫かもしれない。
しかし、ネイサンは…
「ネイサンはこの潜入のキーパーソンだぜ。それに、こいつと俺はコンビなんだ。置いて行く訳にはいかねえ。ネイサンは俺が守る。」
アマンダがネイサンの肩を叩いた。
暫く考えていた健であったが、やがて決意した。
「よし、わかった。君達も一緒に来てくれ。」
「そうと決まれば、出動だぜ!」
ジョーが腕がなるといった具合に、左の掌を右の拳で叩いた。
「よし、みんな出動だ!!」
健の掛け声と共に、一斉にみんなが走り出した。

目的地にはゴッドフェニックスで行った。
コックピットでネイサンがポツリと呟いた。
「さっきの話なんだけどさあ…。」
何故、ギャラクターはコンピュータに放射能を除染するミサイルを作らせないかという話だった。
「どうやら、そのコンピュータには欠陥があるらしいんだよね。」
「欠陥?どういう事だ?」
ジョーが訊いた。
「それがわからないんだ。どう調べてもな。」
『エース』が話を引き受けた。
「何か嫌な予感がするな…。」
ジョーがこれから起こる事を考えて、ぐっと拳を握り締めた。

◆◆<11>真木野聖◆◆
「その意志を持ったコンピューターに欠陥があるとすれば、例えば精神的に弱いとかそう言う事かよ?
 それとも、ハードディスク自体に何か問題があって、除染装置を作り出せねぇって事か?」
ジョーは冗談を言った訳ではない。
本気で言っている。
「前者も可能性としてはある。
 何かを突(つつ)いてやれば綻びが出る事だってある。
 例えば奴の自尊心を傷つけたりする事だ。
 でも、根拠はないよ」
ネイサンは詰まらなそうに言った。
「でも、どうやってそのコンピューターと会話するのさ?」
甚平が当然の疑問を抱いた。
「ハッキングさ」
アマンダが答え、ネイサンが「そうそう」と言った。
「必ずコンピューターのプログラミングをした奴がいるからね。
 それは人間だ。完全だと思ってもどこかに隙はある筈だよ」
「このネイサンはそう言った事が得意だからな。
 だが、危険も伴う」
「それは当然の事だ。だが、やらない手はない」
いつも慎重なフランツが珍しい。
この2人に感化されたのかもしれない。
それに此処にはジョーがいる。
『エース』ことフランツはコードネームを与えられたベテランだ。
だが、ネイサンのようにコンピューターに詳しい訳ではない。
此処は任せるしかないだろうと腹を括った。
「出来るか?ネイサン」
フランツは訊いた。
「出来ない事はないよ。でも、アマンダが言うように何が起こるかは全く解らないね」
「それでもやれ。ネイサン。お前の双肩にこの作戦を阻止出来るかどうかが掛かっている」
アマンダが高圧的に言った。
ネイサンはそれを気にしている様子は全くなく、「解った。やってみる」と答えた。
「俺達はどうするよ、G−1号?」
ジョーが腕組みをしたまま健を見た。
「お前がさっき言った通り、まずは外にいる隊員からパスワードを聴き出す。
 俺達はギャラクターの隊員に成りすまして、基地に潜入するしかあるまい」
「自分で言っておいて何だが、上手く行けばいいんだがな」
ジョーは頭を働かせていた。
だが、コンピューターのハッキングはネイサンに任せるしかないし、自分達は身体を動かして物事を解決して行くしかなかった。
「よし、G−5号、ゴッドフェニックスを近くの森に着陸させろ」
健が指示をした。
「ネイサンはどうする?此処に残ってハッキングをした方が集中し易いんじゃないのか?」
健がネイサンをじっと見た。
「一緒に行くよ。どうせアマンダも出るんだろ?」
「当たりめぇだ。俺がこんな処でじっとしていられると思うか?」
アマンダの声を聴いていると、ジョーが2人いるような錯覚が起きた。
それだけ喋り方が酷似していた。

◆◆<12>ピピナナ◆◆
ジョーと健、それに『エース』とアマンダ、ネイサンは今、ギャラクターの秘密基地の入り口の近くにいた。
いよいよ基地に潜入しようというのである。
ジュンと甚平は、別の入り口を探して、そこから潜入する事になっていた。
竜はゴッドフェニックスで待機だ。
「どうする、健?」
ジョーが物陰から入り口の様子を窺いながら訊いた。
この入り口には番兵はいない。
パスワードがないと中には入れない仕組みになっているので、番兵は必要ないのだ。
「パスワードを聞き出そうにも隊員がいないんじゃな…。」
『エース』が呟いた。
と、そこへ一台の輸送車が来るのが見えた。
中にはギャラクターの隊員達が乗っているのが見える。
どうやら、この入り口から基地内に入るらしい。
「しめた!」
渡りに船とはこの事だとジョーは思った。
あの隊員達を締め上げて、パスワードを聞き出し、ギャラクターの隊員を装って中に入ればいい。
5人はお互いに頷き合い、輸送車が停まったところで、物陰から飛び出した。
ギャラクターの隊員達も丁度5人だった。
そのくらいの人数なら、苦もなく倒す事ができた。
もちろん、パスワードを聞き出さないといけないので、手加減している。
「おい、パスワードを言え。」
アマンダが隊員の一人の首根っこを掴んで、凄んで見せた。
「それは、言えない…。」
アマンダは抵抗する隊員の腕を捻り上げた。
「いたたたた…!!言う、言う!」
あっさりと隊員は折れた。
ギャラクターという組織には忠誠心がない隊員ばかりなのだ。
「パスワードは『trust 』だ。」
ネイサンが聞きながら、さっとコンピュータに入力した。
入り口のドアか瞬時に開いた。
5人は輸送車に乗り、中に入った。
もちろん、ギャラクターの隊員達を眠らせておく事は忘れない。
中には誰もいなかった。
ただ、無機質な長い廊下が続いているだけだ。
「でも、パスワードが『trust 』だなんて皮肉だね。」
ネイサンが言った。
「ギャラクターの隊員に『trust 』なんて、ねえもんな。」
アマンダも同調した。
そして、2人はクスクスと笑いだした。
「笑ってる場合じゃないぞ。」
『エース』が2人を咎めた。
「敵地に乗り込んだ今、そんな余裕はない。もっと気を引き締めろ。」
『エース』は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「そうだ。いつ何が起こるかわからないぞ。」
健がそう言った途端に、突然輸送車が停まった。
「どうした?!」
「どうやら、気付かれたらしいぜ。」
ジョーが言った。
「何?コンピュータにか!」
「ああ、そうらしい。」
ジョーが辺りを目配せしながら言った。
この輸送車もコンピュータ制御だったのである。
しーんと静まり返った空間の中、5人は暫く神経を集中させていた。
だが、攻撃してくる気配はなかった。
『ようこそ…。』
突然、女の声が廊下に響き渡った。
「私はこの基地の『Mother 』コンピュータ…。」
5人は顔を見合わせた。
これが意志を持つというコンピュータなのか…
『あなた方の事は、ずっと監視してました…。』
ジョーが辺りを見回した。
それとわからないような監視カメラが、どこかしこにある。
おそらく、基地の入り口付近にもあったに違いない。
とすると、潜入の一部始終をこのコンピュータに監視されていた事になる。
「畜生。」
ジョーが舌打ちした。
まんまと敵の罠に掛かってしまったのである。
しかし、『Mother 』から聞こえてきたのは、意外な言葉だった。
『私はあなた方が来るのを待っていました…。』
そして、次の言葉はもっと意外だった。
『私を助けて…。』

◆◆<13>真木野聖◆◆
「『助けて』だと?ふざけるな」
ジョーは敵のコンピューターを罵った。
『私は苦しんでいるのです』
ネイサンが頷いた。
「あんたの欠陥は意志を持った事で、罪の意識に苛まれたって事だね」
『良く解りましたね』
「それならあのミサイルの発射装置を解除しろ。
 おめぇならそれが出来る筈だ」
ジョーが鋭い眼つきで姿の見えないコンピューターに向かって言った。
一体何処に本体があるのか?
今は姿は見えない。
女の声が通路に響き渡っているだけだ。
『出来るのならとっくにやっています。
 それが出来ないから苦しんでいるのです。
 私をプログラミングした人間に、コントロールされているからです。
 あのような恐ろしい道具を作らせておいて、それを除染する装置も私に作らせようとしたのです。
 でも、私は自分のした事の愚かさに気付いてしまって、作業を続けられなくなってしまいました』
「それならこいつに任せろよ。
 コンピューターならお手の物だぜ」
アマンダが親指でネイサンを指差した。
「お前をこいつがハッキングする。
 ネイサンとゆっくり会話をして貰おうじゃねぇか」
自信満々のアマンダだが、ジョーはまだ警戒していた。
「気をつけろよ。これだって罠かもしれねぇんだ」
ジョーは人一倍用心深い。
辺りを注意深く見渡した。
健とフランツも同様だった。
警戒していないのは、アマンダとネイサンだけだった。
(本当にこんなに無防備で大丈夫なのかよ?)
ジョーは心配になった。
その時、ギャラクターの隊員達が飛び出して来た。
「ほら見ろ。罠じゃねぇか」
『違います。これは私の意志じゃない』
意志を持ったコンピューターが動揺した。
「何だかおかしな物を相手している感じだぞ、健」
「ああ。とにかく今はこの敵兵を片付けてしまおう」
「解った。『エース』とアマンダはネイサンを守ってくれ」
「こっちは任せてくれ」
『エース』ことフランツが力強く答えた。
ジョーは跳躍して、敵兵に重いキックを入れた。
「誰の横槍だ?ベルク・カッツェか?
 コンピューターの異常に気付いてのこのこと出て来やがったのか?」
ジョーは敵を締め上げた。
「そ…その通り、だ…」
そう言って男は伸びた。
「健、こっちはこいつらを倒して、先へ進もうぜ」
ブーメランをパシッと手に取った健は黙って頷いた。
ジョーは羽根手裏剣を雨霰と降らせた。
『建物の中心部に私の本体があります。
 私の中枢部にあるコンピューターチップを抜き取って下さい。
 それが私を制御している『悪』の力です』
「何だか訳が解らねぇが行ってみるか、健」
「我々は貴女を信じよう。罠ではない事を祈っている」
健も言った。
『罠は通路に全て網羅されています。
 私がプログラミングされてやった事です』
「任せとけよ。解除してみせるから」
ネイサンが余裕の発言をした。

◆◆<14>ピピナナ◆◆
「できるさ、こいつならな。」
アマンダが安請け合いした。
コンピュータのコの字も知らないアマンダには、簡単な事のように思えていた。
しかし、そんな簡単な事ではないとジョーは考えていた。
通路にある、いくつかの罠を解除し、中枢部まで辿りつかねばならないのだ。
しかも相手は機械だ。
人間ではない。
今までなような闘い方は通用しまい。
敵地に乗り込んで笑っているようでは、到底駄目だと思った。
「おい、アマンダ、ネイサン。本当に大丈夫なのか。」
ジョーが言った。
「当りめえよ。今も言ったが、ネイサンなら解除できるさ。」
アマンダが胸をドンと叩いた。
「そうじゃねえ。ネイサンの腕は信じるつもりだ。だが、その前に、おめえ達のその態度が大丈夫かと訊いてるんだ。」
「俺達の?」
アマンダが訊き返した。
ネイサンもキョトンとした顔をしている。
「どうなんだ。」
健も『エース』も同じ気持ちだった。
いつ命を落としてもおかしくない状況下にあるながら、アマンダとネイサンは真剣味に欠けているように見えていた。
「ふーん…。」
アマンダとネイサンは黙り込んだ。
彼らなりに考えているのだろう。
もちろん、2人とも不真面目でいるつもりは、更々ない。
これが彼らのスタンスなのだ。
だが、それが仲間に不安を与えているのなら、それは改善すべきであろう。
「わかったぜ。ここいらで本気を出すとするぜ。」
アマンダは親指を立ててみせた。
「なあ、ネイサン。」
アマンダがネイサンの背中をバシッと叩いた。
「ここからが本領発揮だしね。」
ネイサンが飄々として答えた。
「よし!これからこの基地の中枢部へと行くぞ!」
健が叫んだ。
それを待っていたかのように、コンピュータ制御の輸送車が動き出した。

◆◆<15>真木野聖◆◆
動き出した輸送車はどうやらこの基地のコンピューター、つまり先程の声の主の意志で動いているようだった。
しかし、ネイサンが罠を解除するまでに次から次へと罠が襲って来る筈だった。
「さっきも言ったが、ネイサンの事は『エース』とアマンダに頼んだ。
 俺達は罠に対処する。いいな?」
健が訊いた。
2人は黙って頷いた。
「ネイサンはとにかく急げっ!俺達がやられねぇ内にな」
「何かアマンダと話しているみたいなんだよな…」
ネイサンが呟いた。
「うるせぇっ!生きるか死ぬかの時に冗談を言ってるんじゃねぇっ!」
ジョーは大音声で叫んだ。
それでネイサンは黙り込んだ。
ネイサンは冗談など言ったつもりはサラサラなかった。
だが、今闘いを挑もうとしているジョーには、癇に障ったのだ。
ネイサンは持っているモバイルコンピューターで、この基地の『Mother』へのハッキングを試み始めていた。
健とジョーは何が出て来るかと身構えた。
「G−1号!上だ!」
ジョーは叫んで、エアガンのワイヤーを遥か前方に伸ばし、吸盤を取り付け、輸送車毎前へと進めた。
その間に健がブーメランで、情報から下りて来た生きた蔦のような物を切り取った。
無事に輸送車の後方に蔦が落ちて、罠を交わす事が出来た。
次の罠には健とジョーの2人が同時に気付いた。
ジョーはワイヤーを左右に伸ばし、吸盤で無理矢理に輸送車を停めた。
辛くも前方に左右から現われた針の山を避ける事が出来た。
「みんな、伏せろ!」
健が腰からトゲトゲの付いたマキビシ爆弾を何個か取り出して、左右に投げつけた。
それはスイッチの部分に当たり、爆発を起こして、針の山が引っ込んだ。
「ネイサン、早くしろっ」
アマンダが言ったが、
「そう簡単に言わないでよ」
とネイサンは落ち着いている。
しかし、その手は信じられない程のスピードでキーボードを叩いていた。
健とジョーは少なくともネイサンが口だけの男じゃないと信じた。
フランツも同様だった。
「G−2号。ネイサンがハッキングに成功して罠をぶち破るまで、俺達で頑張るぞ」
「おうよ。解ってるぜ!」
ジョーは力強く答えた。
そして、羽根手裏剣を唇に咥えて、磐石の構えをした。
どこから何が出て来ても潰してやる。
その闘志に燃えていた。
「赤外線ビームだ」
特殊眼鏡を取り付けて前を見据えていたフランツが叫んだ。
「スイッチを探せっ!」
健が言っている間にジョーが羽根手裏剣を放ち、赤外線装置のスイッチを破壊した。
見事な手腕だった。
アマンダすらも感嘆したくなる思いを隠せなかった。
だが、今は集中していなければならない時だと自戒し、胸の内に押し止(とど)めた。
これからどうなるのか、まだ先が見えなかった。
せっかちなアマンダはイライラして来た。
さっきから煙草も我慢したままだ。
「アマンダ、限界だね」
ネイサンが小さく呟き、禁煙パイポを手渡した。

◆◆<16>ピピナナ◆◆
ネイサンが差し出した禁煙パイポをアマンダは奪うように取った。
そして口にくわえると一息吸った。
しかし、すぐにペッと吐き出した。
「こんなんじゃ、吸った気がしねえっ!」
胸ポケットにある煙草に手を伸ばしかけたアマンダだったが、すぐに止めた。
さっき、本気を出すと言った事を思い出したのだ。
今ここで煙草を吸ったら、また不真面目のようにとられてしまう。
「ごちゃごちゃやってないで早く罠を解除しろ、ネイサン!」
アマンダがネイサンの頭を叩いた。
相当イライラしているらしい。
「痛っ!」
ネイサンが頭を擦りながら、またコンピュータに向かった。
そしてキーボードにタタタタッと何かを打ち込んでいく。
「まだか!」
ジョーが辺りに目を配りながら訊いた。
「うーん、もう少し…。」
ネイサンはのんびりと答えたが、その手の早さは止まらない。
前方に何かがいくつも出てきた。
「火炎放射機だ!」
健が叫んだ。
これはさすがのジョーも避けられないと思った。
「ネイサン!!」
アマンダも叫んだ。
今度はネイサンも黙ってキーボードに入力するのに集中していた。
そしてタタタタッ、ターンとキーボードを叩きつけた。
「解除できたよ。」
ネイサンは相変わらず飄々として言った。
その途端、火炎放射機はスルスルと引っ込んでいってしまった。
「危なかったな。」
ジョーが冷や汗を拭きながら呟いた。
「おせえんだよ!もう少しで丸焦げだったんだぜ!」
アマンダがまたネイサンの頭を叩いた。
『よく解除してくれました…』
また『Mother 』の声がした。
『私は自分がプログラムしたものを自分では解除できないのです…』
「何かややこしいな…。」
アマンダが妙に納得したように呟いた。
そうしている間にも輸送車は進む。
『これからあなた方をこの基地の中枢部へと導きます。今度は罠はありません…』
『Mother 』が静かに言った。
「ありがてえ。」
ジョーがホッとした様子で、エアガンを腰のホルダーにしまった。
輸送車は静かに進んだ。
途中で隊員達が出てきて邪魔する事もなかったが、ジョーは常に辺りに気を配りながらいた。
『もうすぐです…』
ういくつかの角を曲がった後、『Mother 』が言った。
一際大きな扉が見えてきた。
『この扉の向こうに中枢部があります。私はそこにいます…』
「ネイサン!」
アマンダが叫んだ。
「もうやってる。」
ネイサンはあの扉を破るためにコンピュータと(会話)していた。
「あれは…?!」
『エース』が前方を指差して言った。
ジョーが見ると、中枢部に入る扉の前に、身の丈2〜3メートルの原始人のような大男達が立っていた。
中枢部に入らせまいと身構えている。
「あれもカッツェの差し金か!」
『そうです…』
「また俺達の出番って訳か…。」
ジョーが健を見ながらニヤリと笑った。
2人は頷き合うと、大男へと跳躍した。

◆◆<17>真木野聖◆◆
大男は5人いた。
『エース』とアマンダを入れても、こちらの戦闘要員は4人。
誰かが2人受け持たなければならない。
健とジョーは互いに頷き合った。
それは自分達の受け持ちだ、と確認し合ったのである。
大男はまさに原始人と言った感じで、全身が毛むくじゃらだった。
正確には2.5メートルと言った処か。
健とジョーの1.5倍弱の高さがある。
横幅も逞しい。
これを倒さなければならないのだ。
科学忍者隊にとっては、何ともないだろうが、『エース』とアマンダにはどうか?
健は不安そうに2人を見たが、2人は何時の間にかバズーカ砲を肩に担いでいて、涼しい顔をしている。
ジョーが敵のチーフ格の隊員から、エアガンのワイヤーで巻き上げて2人に渡していたのだ。
準備万端。
ジョーは健に向かって親指を立て、ニヤリと笑って見せた。
健はその豪胆さに驚く事はなかった。
いつもの事だ。
さすがはジョーだ、と黙って口角を少し曲げたのみだった。
ギャラクターの隊員達は遠巻きに見守っている。
この大男達を倒せる訳がないと高を括っているのだ。
それも科学忍者隊は2人しかいないではないか。
ギャラクターは『エース』とアマンダをただの情報部員だと甘く見ていた。
ジョーは特に2人の実力を知っている。
バズーカ砲を渡しておけば、鬼に金棒だ。
この巨大な武器を取り扱えない2人ではない。
大男の1人ぐらいはそれぞれが倒してくれる事だろう。
残り3人を健とジョーとで倒せばいいのだ。
大男は特に武器を持っている様子はない。
その身体の大きさ自体が武器その物なのである。
しかし、ジョーもまたその全身を武器とした闘える資質を持った男だった。
敵の大きさなど関係ない。
例え自分の身体の数倍の大きさがあろうが、ジョーは絶対に屈しない。
それは闘いを生業として来た自信から来るものなのか。
ジョー自身にも解らなかったが、戦闘の場でこそ、本領を発揮するのが彼だった。
リーダーとして科学忍者隊を率いなければならない健とは違い、ジョーは自由に闘う事が出来た。
サブリーダーとしての立ち位置が彼には居心地が良かったのである。
健のサポートをしながら、時には全員を引っ張って行く事もある。
ジョーはその立場を楽しんでいた。
大男が襲い掛かって来た。
ネイサンはモバイルコンピューターで『Mother』との会話を続けている。
何か収穫がありそうな顔つきをしていた。
此処は自分達が頑張って守り切らなければならない。
ジョーはその決意を胸に、遥か高くへ跳躍した。
そして、天井を蹴り、「うりゃあ〜!」と気合を入れながら、大男の頭部へと奇襲攻撃を掛けた。
ジョーは大男の首筋に重い肘鉄を喰らわせたのである。
原始人であろうが何だろうが、人間の形(なり)をしている以上は、急所も同じ筈である。
大男はどすんと音を立てて倒れたが、打たれ強いのかまた何事も無かったかのように起き上がって来た。
ジョーは慌てず騒がず敵の懐に入り込み、エアガンを至近距離から発射した。
両眼を狙ったのだ。
これには大男も溜まらず、苦しみながら両膝を着いた。
そこへジョーは背中に向かって、飛び蹴りを喰らわせ、1人を退治する事に成功した。
その頃には健も1人を倒していた。
『エース』とアマンダも致命傷とまでは行かないが、バズーカ砲で相手に傷を負わせている。
健とジョーは残る1人の大男を相手にした。
決着はもうそこまで見えていた。

◆◆<18>ピピナナ◆◆
残る大男一人もジョーは健とのコンビネーションで難なく倒す事ができた。
5人は中枢部のドアの前に立った。
どうやらこのドアも簡単には開かないらしい。
「ネイサン、どうやったらこのドアは開くんだ?」
ジョーが訊いた。
コンピュータをいじっていたネイサンが顔をちらりと上げた。
「ここもパスワードが必要みたいだね。」
「それは何だ?」
「わからない…。ここはカッツェと『Mother 』をプログラムした者しか入れないようになってるみたい。」
「『Mother 』をプログラムしたのは誰だ?」
「それもわからない…。でも心当たりはある。
パスワードの入力は一回きり。間違えたらドアはそれきり絶対に開かない。」
ジョーを始めとした4人はネイサンに託す事なした。
ネイサンはドアの脇にあるキーボードに何かを入力した。
ピッピッとランプが点滅して「OK 」の文字が浮かび上がった。
そしてドアがスーッと開いた。
4人は驚いた。
ネイサンが満足気に微笑んでいる。
笑うとなかなか愛嬌がある。
「大したもんだな。どうしてパスワードがわかったんだ?」
健が感心したようにネイサンに言った。
「コンピュータに詳しくて、最近消息のわからない博士の名前を入力したのさ。」
事もなげにネイサンは答えた。
「誰だ、それは。」
ジョーが訊いた。
「シンプソン博士。」
ジョーと健はどこかで聞いた名前だと思った。
「南部博士の元でコンピュータの研究をしていた人。」
ネイサンが言った。
「南部博士の…?!」
なるほど、聞いた事があると思った訳だとジョーは思った。
「シンプソン博士は一年前に謎の失踪をしているんだ。」
謎の失踪…
それまで南部博士の元で研究していた博士が…
ジョーは今回の南部博士誘拐未遂と何か関係があるような気がした。
「とにかく、中に入ってみよう。」
ジョーが他の4人を促した。
4人は中枢部の部屋に足を踏み入れた。
ドアがスーッと閉まった。
そこには大きなスーパーコンピュータがいくつも並んでいた。
そしてそこには中央に一際巨大な塔のようなコンピュータがあった。
『よく来てくれました…』
『Mother 』の声がした。
どうやら中央にあるコンピュータが『Mother 』の本体らしい。
「これが『Mother 』…。」
ジョーはコンピュータを見上げた。
『先程から私と会話していたのは誰ですか…』
ネイサンが小さく手を上げた。
『私のコンピュータチップを抜いて下さい…』
たが、ネイサンは首を横に振った。
「その必要はないよ。自分で作ったプログラムを解除できるようにする。」
『どうやって…』
「その方法なら、もう考えてあるよ。」
ネイサンはプログラムを追加して、『Mother 』が自分でアップグレードできるようにしようと考えていた。
アップグレードする事によって自分でプログラムが解除できるようになる。
「今から作業に入るよ。」
ネイサンは『Mother 』と向かい合った。
その時、出入り口が開いた。
そこには紫のマントを翻しながら、カッツェが立っていた。

◆◆<19>真木野聖◆◆
「来たな!ベルク・カッツェ!」
健が叫んだ。
ジョーは黙って握り拳を作った。
「ネイサン、『Mother』の事は任せた。『エース』、アマンダ、彼を頼んだぞ」
健がそう言うと、2人はカッツェの前にひらりと舞い降りた。
ジョーは既に羽根手裏剣を抜いて、唇に咥えていた。
「ほう、科学忍者隊G−1号、G−2号が揃っておでましか?」
カッツェは笑った。
「G−3号とG−4号がどうなっているのか、知りたくはないかね?」
ニヤリとピンクの唇が加虐的に歪んだ。
カッツェが紫のマントを翻して示した先には、ジュンと甚平は壁に磔にされていた。
「ごめんなさい…」
ジュンが済まなそうに言った。
「くそぅ…」
ジョーが呻いた。
「カッツェめ!シンプソン博士はどうした?」
「ふん、『Mother』が完成した段階で、当然死んで貰ったよ。この銃でね」
カッツェは懐から拳銃を取り出した。
ジョーはその拳銃にいきなり羽根手裏剣を投げつけ、カッツェの手から弾き飛ばした。
怒りのままに行動したのみだ。
カッツェは意に介さなかった。
そのまま続けた。
「だが、不具合が生じてしまってな…」
「コンピューターが感情を持っちまった」
「だから、南部博士を誘拐しようとしたって訳か?」
健が訊いた。
「そう言う事だ」
甲高い声でカッツェが笑った。
「博士が今、懸命にやっている研究が無駄になるかもしれねぇが、俺達でやってやろうぜ、健」
「無駄になるかどうかはまだ解らないさ。
 放射能の封じ込めには役立つかもしれないぜ」
健が呟いた。
「とにかく、2人を助け出し、その間にネイサンには『Mother』がアップグレード出来るように手助けして貰わなければならない。
 俺達でこの危機を脱け出すんだ」
「当然さ」
ジョーはことも無げに答えた。
「こうしてやるっ!」
ジョーは跳躍して、カッツェに飛び蹴りを加えた。
しかし、何の手応えもなかった。
カッツェは3D映像だったのである。
『ハハハハハっ!残念だったな。それは『Mother』に作らせた私の映像だ』
カッツェの声がドーム状になった部屋に響き渡った。
「此処にはいねぇって事か?」
ジョーが悔しげに呟いた。
「ネイサン、そっちはどうだ?」
ジョーが訊くと、「順調なようだ」と『エース』ことフランツが代わりに答えた。
『ネイサンとやら。私のアップグレードが終わったら、すぐに逃げるのです』
『Mother』が言った。
『こんな基地は破壊してしまった方が良いのです。
 私はこれから放射能除染装置を作ります』
「何も自爆する必要なんかねぇ。
 今、南部博士が研究をしている処だ!」
ジョーが叫んだ。
『良いのです。私をプログラミングしたシンプソン博士が望んでいる事なのです』
『Mother』は落ち着いているように見えた。
ネイサンとの会話の中で、平静を取り戻して来たのだ。
そしてアップグレードをしている最中の今の時点で、除染装置を作れると確信したのだろう。
それ以上会話をしている余裕はなかった。
健とジョーがジュンと甚平を救い出した処へ、敵のチーフ格の隊員が4人、バズーカ砲を担いで現われた。
「へっ、そう簡単にやられるもんかよ」
ジョーがニヤリと笑った。
こちらに闘える者は6名いる。
『エース』とアマンダはネイサンを守る事に専念させても、科学忍者隊が4人いれば、バズーカ砲ぐらい何て事はない。
ジョーはジャンプして天井のパイプにエアガンのワイヤを巻きつけた。
そのままワイヤーを引き寄せて天井まで上がり、またそれを伸ばしながら、敵のチーフ4人のバズーカ砲を1人で長い脚を有効に使って蹴り飛ばした。
健達が唖然としている間に、バズーカ砲は全て床へと転がり落ちてしまった。
「暴発するぞ!気をつけろ!」
ジョーが叫んだ瞬間に、バズーカ砲が相次いで暴発した。
ジョーは天井にいたし、健達は全員伏せて無事だった。
天井から降り立ったジョーは、そのままチーフに向かって、「うおりゃあ!」と気合を掛けながら、勢いをつけたままキックをお見舞いした。
健達も闘い始めた。
1人につき1人だ。
敵を翻弄しながら闘う小さな甚平。
確実に技を決めて行くジュン。
ブーメランで派手に闘う健。
気合だけを発して華麗に闘うジョー。
4人は生き生きと闘った。
ネイサンに襲い掛かろうとする雑魚兵は『エース』とアマンダが引き受けていた。
2人とも安定の闘い振りを見せていたが、ジョーが時々羽根手裏剣を飛ばして援護していた。
早くネイサンにアップグレードの作業を終わらせて欲しいからだ。
自身が闘い乍らも、人の戦闘にも気を配れる。
それがジョーと言う男だった。
元々敵を見切るのが早い。
動体視力に優れている事で、自分以外の戦闘振りも見る事が可能なのだ。
ギャラクターのチーフ連中は科学忍者隊がいとも簡単に倒した。
隊長が出て来たが、もう彼らの敵ではなかった。
健とジョーが隊長と対峙し、ジュンと甚平はネイサンを守る側に着いた。
隊長は眼と脳にコンピューターを組み込んだようなおかしな男だったが、『Mother』が操作して、まともに動けないようにしていた。
そのお陰で、健のブーメランが後頭部を、ジョーのエアガンの三日月型キットが顎を撃ち砕く事で、簡単に倒れてしまったのである。
全員が『Mother』とネイサンの周囲に集まった。
今回の任務はアマンダが言った通り、ネイサンがキーパーソンとなっていた。

◆◆<20>ピピナナ◆◆
「どうだ?」
ジョーがネイサンに訊いた。
ネイサンは相変わらず、キーボードに何やら打ち込んでいる。
そして、ふっと顔を上げると言った。
「できたよ。」
『ありがとう、ネイサン。これで色々なプログラムが解除できます…』
『Mother 』が静かに言った。
『まずは核ミサイルのプログラムの解除をします…』
すると、『Mother 』の本体のランプが何やらチカチカと点滅し始めた。
暫くその状態が続いた。
ジョーを始め、7人は固唾を飲んで、それを見守った。
やがてランプの点滅か止まった。
『プログラム解除終了』
『Mother 』の声がした。
一同ホッとした。
これで核ミサイル発射の脅威から解放されたのである。
核ミサイルの分解は南部博士がやってくれるだろう。
『さあネイサン、私のコンピュータチップを抜いて下さい。あなた達が避難した後に、この基地を爆破します…』
「その必要はねえ!」
ジョーが言った。
『しかし、それがシンプソン博士の遺志です…』
『Mother 』のモニターに一人の人物が映し出された。
『シンプソン博士です…』
そこには美しい女性の画像が映し出されていた。
「シンプソン博士は女性だったのか…。」
何故か、ネイサンを除いた全員がシンプソン博士は男性だと思い込んでいた。
『Mother 』が語ったところによると、こうであった。
シンプソン博士は南部博士を師と仰いでいた。
それどころか、師以上に南部博士の事を慕っていた。
その想いがこうじて、南部博士も驚愕するようなコンピュータを作ってみないかというギャラクターの巧みな言葉につい乗ってしまったのだ。
そして、ついに『Mother 』を完成させてしまった。
しかし、その『Mother 』に核ミサイルを作らせていると知って、シンプソン博士は後悔した。
とんでもないものを完成してしまったと、苦悩した。
そして、カッツェにそれを抗議したところを射殺されてしまったのだ。
『私はシンプソン博士でもあるのです…こんな私など消えて無くならねばならないのです…』
『Mother 』が言った。
「そうじゃねえっ!」
ジョーが叫んだ。
「あんたはシンプソン博士の遺志を継いで自爆すると言うが、そうしない道もある!このまま残って罪の償いのために、世の中に貢献するんだ!」
『……』
「もう止めなよ、ジョー。」
ネイサンが言った。
「意思を持ってしまったコンピュータは、もうコンピュータじゃない。どこかで不具合が生じてくる。暴走してしまったら、どうする事もできなくなるんだ。機械は意思を持ったら駄目なんだよ…。」
ネイサンがしょんぼりとして言った。
そして、いきなり立ち上がると、さっとコンピュータチップを抜き去ってしまった。
『ありがとう、ネイサン…』
ジョー達が止める暇もなかった。
『今、自爆装置を作動させました…早く避難して下さい…』
『Mother 』がカウントダウンを始めた。
「しかしっ!」
ジョーが唸った。
『さあ、早く…』
ジョー達は仕方なく、この基地を離れる事にした。
こんな事にしてしまったギャラクターを憎むしかなかった。
あのままシンプソン博士が南部博士の元で研究を続けていれば…
ジョーはそんな気持ちで一杯だった。
『ちょっと待って下さい…』
カウントダウンが続く中、『Mother 』が言った。
『今、探してます…』
「探す?何を…?」
『Mother 』のモニターが目まぐるしく色々なものを映し出していた。
「どうしたの、『Mother 』?」
ネイサンが訊いた。
『Mother 』は急いでいた。
そして、ある画像でパッと止まった。
それは、聖母マリアが幼子キリストを抱いている映像だった。
『これがシンプソン博士の気持ちです…』
ネイサンはじっとその画像に見入った。
そして、にっこりと笑って『Mother 』に言った。
「『愛』だね?」
『Mother 』は機械だから『愛』というものがわからなかった。
しかし、何か形として表したかったのだろう。
『これを南部博士に…』
『Mother 』はマリアとキリストをプリントアウトした。
「わかった…。」
ネイサンがそれを受け取った。
『さあ、避難して下さい…』
『Mother 』の本体が爆発した。
ジョー達はハッとして、駆け出した。
あんな形で南部博士への愛を表現したシンプソン博士を憐れに思いながら…
7人が基地を脱出し、ゴッドフェニックスに移った時に基地が大爆発した。
それをコックピットで眺めていたジョーはやるせない気持ちだった。
シンプソン博士の冥福を祈るしかなかった。

〜the end〜





★初コラボの感想★
  (コラボ期間:2014.06.27〜07.18)

<ピピナナ>

このコラボを振り返って、正直言って、あっという間だったように思います。
お互いに、いい意味で刺激を受けた一ヶ月足らずでした。
それにしても、一ヶ月足らずで20作も書いてしまうとは!
しかも、内容がぎっしり詰まっている!
これは二人がどれだけ楽しんでやったかという事を意味してると思います。
もう、本当に楽しかったー♪
このコラボのお誘いをして下さった真木野さんに感謝です!
既に気持ちは次のコラボに向かってます!
私も下手くそながら、また参加させて頂きたいと思っています。
真木野さんには遠く及ばないながらも、頑張ります!


<真木野聖>

ピピナナさんが意外性のある事を書いて来られるので、結構苦心しましたが、このコラボの成功はピピナナさんのオリジナリティーのお陰です。
本当に感謝しています。
元々はお互いに情報部員のオリジナルキャラを持っていた事から、共演させたらどうだろう?と言う話になりました。
コラボの誘いを受けて下さり、楽しい日々でした。
私1人には絶対に書けない作品となりました。
素晴らしいコラボ仲間と巡り会えました。
もう、全然対等に渡り合えるお相手ではなかった!
最後の纏めには恐れ入りました。
ピピナナさんはただただ凄かったです。
胸を貸して戴いたと言う思いで一杯です。
このコラボの完成は、全てピピナナさんの功績です。
心からそう思っています。
今回のストーリーテラーは明らかにピピナナさんでした。
最後に…。
本当に楽しかった!
ピピナナさん、どうも有難うございました。m(_ _)m








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