『クロスカラコルムの深い霧』

コンドルのジョーは『ガッチャマン』こと大鷲の健達の敵基地突入直後に巻き起こった地底の異変により、身体を大地に強く叩きつけられ、その衝撃で意識をうっすらと取り戻し、特徴のある瞳を見開いた。

……クロスカラコルムの大地に横たわり、俺は大切な仲間達と永遠(とわ)の別れをした。
俺は最後の力を振り絞って仲間達に短い遺言を告げた。
最後の最後にあいつらにギャラクター本部の入口を教え、短い時間だが別れの言葉を交わす事が出来た。
俺があんなに素直な言葉をあいつらに告げられたのが不思議でならねぇが、人間は死を目前とした時、どうやら心が洗われて行くようだ。

みんな泣いていやがったが、俺にはとうに別れの覚悟が出来ていたからか涙1つ流す事はなかった。
みんなの背中を押してやる事が出来たぜ。
だが、俺を置いて敵本部に突入して行く事を決断した健の事が心配でならねぇ…。
闘いが終わった後、あいつの心に大きな傷を背負わせる事になっちまったな。
許せよ、健。
お前は科学忍者隊のリーダーとして、正しい決断をしたんだ。
そしてジュン、甚平、竜……。
お前ら最高の仲間だったぜ。
俺は自分の生き方を貫いて此処で死んで行く。
これで良かったのさ…。
ギャラクターの、カッツェの最期を見届ける事が出来そうもないって事だけが悔しくて仕方がねぇぜ。

……執念でこの入口まで上がって来たが、どうやら俺もそろそろ潮時のようだな。
濃い霧のせいで何も見えやしないが、あいつらが中に突入した後、大地がやけに揺れやがって、俺の身体も吹っ飛ばされちまった。
健が『俺の心だと思って持っていてくれ』と言って託して行った奴の大切な武器はその時に俺の手の中から離れて行った。
…すまねぇ、健。
最期の瞬間まで持っていてやりたかったぜ。

もう頭の痛みも眩暈も起こらない。
奴らの銃撃によって受けた傷も痛みはしない。
俺の身体からは徐々に五感が消え去って行くようだ。
眼に映るのはクロスカラコルムの深い霧だけだ。
ギャラクターと闘う為だけに生きて来た俺には絶好の墓場だぜ…。
俺の生き方には1点の悔いもねぇのさ…。

南部博士にも心配を掛けちまったな。
でも、俺にはベッドの上で死を迎える事だけは絶対に耐えられなかった。
闘いの中でこうして死んで行く事が出来て、本望なんだ…。
博士、俺の勝手な行動を許して下さい。

健、ジュン、甚平、竜。
ギャラクターが滅びて平和が来たら、お前らは闘いから離れて、普通の若者としてきっと幸せに暮らせよ……。
俺達の力で手に入れる平和なんだぜ…。

ジョーの思考はそこで止まった。

深い霧の中で彼が最期に見たものは科学忍者隊の仲間達と南部博士の幻影だった。
ゆっくりと再び閉じた瞳は2度と開く事がなく、そのまま再び爆風で身体を吹き飛ばされたような気がしたのが、彼が感覚を無くした身体で感じる事が出来た最後のものだった。




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