『美容体操?』

「おい、竜。さっき牢から脱出する時におめぇだけ引っ掛かっただろ?」
ゴッドフェニックスでの帰還の途で、ジョーが竜の操縦席の真後ろに腕を組んで立った。
竜は後ろから『ゴーっ』と言う効果音を聞いたような気がして竦み上がった。
「美容体操って何だ?」
ジョーがニヤリと笑った。
「何だい、ジョーには背中に眼と耳があるんかいのう?」
「いや、おいらも聞いたよ」
「私もよ」
健だけはトップドームの上に出たままで、まだ戻って来ない。
レッドインパルスに変装したベルク・カッツェに騙され掛けたのだ。
『寝た子を起こすような事件だった』とジョーが述懐する程、健には胸痛い事件だった。
ジョーの気遣いで、健は1人になる事が出来た。
今頃、密やかに涙を流しているのだろう。
「でもさ〜。危機一髪だったよな〜。もう少しで全員あの世行きだったよ」
甚平が恐怖を取り戻したように呟いた。
「そうね。ジョーと健がやってくれなかったら…」
「まあ、4人は無事だったとしても、此処にいる1人は危なかったかもな」
ジョーが竜を揶揄している。
「それはいいとして、『美容体操』だ」
「何を言いたいんじゃ?」
「竜、お前、いつから女になったんだ?」
「へぇっ?」
「美容体操ってのはな。女がするもんだ。なあ、ジュン」
「ええ…、まあ、そうね…」
「だからおめぇが言うと気持ち悪いんだよ」
「でも、そんな事に突っ込むのはジョーの兄貴位なもんだぜ」
「要は竜が自発的に体操をする気になったと言う事が大切なのよ、ジョー」
ジョーは言葉に詰まった。
2人が竜の味方に付くとは思わなかったのだ。
「……じゃあ、百歩譲ってやる。今日から『美容体操』とやらをするんだな?」
「す…するともさ。おらだけあんな場所に取り残されて死んだんじゃあ、話にならんもんなぁ」
「でもさ。もし竜があそこで引っ掛かったままだったとしても、ジョーの兄貴は何だかんだ言い乍ら逸早く助けに戻ると思うな…」
甚平が竜の肩を叩いた。
そのショックで操縦桿から竜の手が滑り掛けた。
「おいおい、甚平!まだ健がトップドームに居るんだぜ!気をつけてやれ」
ジョーが甚平の頭に軽い拳骨を落とした。
「あ…。ごめん。……おいら、兄貴を傷つけちゃったな…。戻って来たら謝らなくちゃ」
甚平がその事をまた思い出して涙を浮かべた。
「大丈夫よ、甚平。そろそろ吹っ切れて戻って来る頃よ。
 健は自分自身でカッツェの変装を見抜いて一矢報いたんですもの」
「そうだ、甚平。ほっとけよ。謝ったりされるより、そっとして置いて欲しいと思うぜ」
「んだ。健なら大丈夫だわさ」
竜は話が『美容体操』から逸れてホッとしていた。
ジュンはジョーの背中を見詰め乍ら、彼の優しさを改めて感じていた。
(ジョーは口は悪いけど、本当は仲間思いなのよね…。
 健にいろいろあってから、サブリーダーとして頼り甲斐が出て来たわ…。
 お父さんが亡くなった事は健にとって大きな試練だった。
 けれど、ジョーにとってもある意味試練だったのかもしれないわね。
 2人がこれを乗り越えてくれれば、科学忍者隊も一皮剥けて成長出来るでしょう)
意外にも一番冷静で大人なのは、ジュンなのだ。
健はともかくジョーはその事を知っていた。
(健への恋愛感情を差し引いて考えても、お前は大人だぜ。一番しっかりしてやがる…)
ジョーはジョーで後ろに居るジュンに呼び掛けていた。

やがて健が戻って来た。
その瞳や頬に涙の跡は無かった。
凛としたリーダーたる顔つきに戻っていた。
「俺は帰ったら南部博士に謝らねばならん。また冷静さを欠いてみんなに迷惑を掛けてしまった」
「もういいって事よ。俺達は人間だ。感情に押し流されてしまう事もある。
 人間らしさを忘れちまったら終わりだぜ。
 感情に流されてもそれを自分で押し殺す力が俺達1人1人に必要なのさ」
「ああ…。俺もさすがに懲り懲りしたぜ」
健が真っ直ぐにジョーの眼を見た。
(そうだ、その眼だ!それがガッチャマンだぜ、健…)
ジョーが少し感動していると、健が竜に向かって呼び掛けた。
「ところで、『美容体操』って何だ?竜…」
竜が操縦席から転げ落ちそうになり、ゴッドフェニックスは怪しい動きで空を飛んで行くのだった。




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