『科学忍者隊の憂い』

「博士。疲れてるんじゃありませんか?」
今日も南部博士の運転手兼護衛を担当しているジョーがバックミラーを覗き見た。
鏡越しに見る博士の顔色が冴えない。
「うむ。この処、徹夜が続いていてね」
「今日は別荘に帰った方がいいのでは?」
ジョーはISO本部へ行くように頼まれてG−2号機を走らせていた。
もう夕焼け空が広がっており、陽が沈もうとしている。
「いや、これから重大な会議があるのだ」
「でも博士の代わりは誰も居ませんからね。
 医者の不養生とも言いますし、そんな会議うっちゃっておけばいいじゃないですか」
「そうはいかん」
「疲れているのは事実なんですから…。
 博士に倒れられたら困るのは俺達科学忍者隊だけではありませんよ」
そう言えば…。
と、ジョーは思った。
南部博士が寝込んだ処などこれまでに1度も見た事がなかった。
身体を鍛えている訳でもないのに、意外と強靭な体力を持っているのかもしれない。
「博士。自身の体力を過信しないで下さいよ。
 これまでは大丈夫だったかもしれませんが、人間なんていつどうなるか解らないんですから」
「ジョー。妙に私を心配してくれるのだね」
「俺だけじゃありません。みんなが心配しているんですよ」
『そうですよ、博士!』
突然ジョーのブレスレットから健の声が響いた。
『私達、博士の事が心配なんです』
『そうだよ、無理しないでよ、博士』
『おらも心配だわ』
それぞれがそれぞれの居場所で、ジョーのブレスレットを通じて2人の会話を聞いていたのだ。
「……そう言う事です。博士、行き先は別荘でいいですね?」
ジョーが運転席からチラッと南部の方を見た。
「ふふふ。仕方がないね。今日の会議は欠席の連絡を入れる事にしよう」
南部は諦めて通信機を取り出した。
『やったぁ!ジョーの兄貴、早く博士を別荘に連れて帰ってね!』
甚平の声がブレスレットから流れて来た。
「おう!」
ジョーが答えた時、南部の眼に変身前のG−4号機が見えた。
気が付けば、健のセスナと竜のホバークラフトが飛んでいて、ジュンのバイクが後ろに付いていた。
「そう言う事だったのか…」
南部の口元が綻んだ。
「最近は物騒になって来たんで、あいつらもこっそり博士の護衛をしてたって訳ですよ」
「全く君達は…」
博士の瞳が揺れた。
「さあ、早くアンダーソン長官に連絡して下さい。
 博士の多忙を一番良く知っている人ですから、欠席に異を唱える事はありませんよ。
 『重要会議』であって、『緊急会議』ではないんですよね?
 別荘へ急ぎましょう。テレサ婆さんが夕食を準備して待っています。今日は早く休んで下さい」
『そうですよ、博士!』
ジョーのブレスレットから健、ジュン、甚平、竜の声が示し合わせたよう聞こえて来た。
既にジョーは別荘へと進路を変えていた。




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