『護衛任務』

「今回の任務は飽くまでも隠密にぺぺローナ博士を護衛する事にある。
 君達にはバードスタイルを解いて密かに博士を守って貰いたい」
南部博士の今回の指令は、ギャラクターにその頭脳を狙われているペペローナ博士の護衛である。
「博士は女性なので、ジュンは秘書として付き、彼女の傍から離れないようにしてくれたまえ」
博士がスクリーンに映してくれたペペローナ博士は、40代に差し掛かった女性である。
知的でなかなか美しい。
髪は普段は束ねてあるが、ふわっとカールさせてあり、研究熱心なばかりではなく、お洒落にも気を遣っている事が窺われる。
「ギャラクターの目的は彼女に人間の脳をサイボーグ化させるマシンを作らせる事にあるのだ」
「脳をサイボーグ化だって!?俺が見たギャラクターのサイボーグは脳だけは人間の物でしたよ。
 だからギャラクターの奴らは彼女の心を制御出来なくなったんだ…」
ジョーは以前、サーキットで再会した少女の事を思い出していた。
「また恐ろしい事を考えやがって…!」
ジョーは壁に握り拳を叩き付けた。
眼の前で粉々に爆破されたルシーの姿を忘れる事はなかった。
「博士、確かにジョーが接触したサイボーグはそうでした。
 でも、ペペローナ博士にはそれが出来ると言うのですね?」
健が眉を顰(ひそ)めた。
「その通りだ。彼女はその力をマントル計画に於ける危険な作業の場にアンドロイドを投入する為に使おうとしているのだ。
 つまりぺペローナ博士は完全なる『無』の状態からアンドロイドを造り出そうとしていると言う事だ。
 ギャラクターはその技術を人間の脳をサイボーグ化させる事に転用しようと考えている」
「ペペローナ博士をいつどこで狙って来るか解らないと言う訳ですね?」
ジョーは南部博士には比較的丁重だ。
博士はジョーに頷いて見せると彼らに指示を出した。
「健とジョーは影のように姿を見せずに博士に付き、護衛してくれたまえ。
 甚平と竜は市井の人々に紛れて遠くから周囲を警戒し、状況を逐一健とジョー、ジュンに連絡するのだ」
『ラジャー!』
5人は声を合わせて答えた。

博士が護衛の為の衣装を用意してくれていた。
健、ジョー、ジュンの3人はそれぞれスーツを着用している。
健はブルーグレイのスーツに白いワイシャツ、ネクタイは黒と白のボーダー。
ジョーはブラックのスーツに深いグレーのワイシャツ、黒地に金色のドットが小さく入ったネクタイ、と2人ともなかなか決まっている。
ジュンは深い紺色のジャケットに濃いグレーのタイトスカート、白いリボンタイの付いたブラウスを着用した。
「ちょっとヒールが邪魔だけど、仕方がないわね」
ジュンは姿見で自分の姿を確認しながら言った。
髪は秘書らしくアップにアレンジしてある。
それぞれ着替えを済ませて司令室に一旦集合した。
甚平と竜は市井に潜り込むので普段の姿だ。
「ほぉ〜馬子にも衣装と言うが、3人とも様になっとるのう」
竜が顎に手を当てながら3人を眺めている。
「兄貴もジョーの兄貴も上背があるからスーツが似合って、かっこいいなぁ〜。
 でも、もうちょっと体格が良かったら貫禄が出るのに、惜しいよなぁ〜。
 2人とも細マッチョだからね」
甚平の頭に軽くジョーの拳骨が降って来た。
「ぼやぼやしている場合じゃねえ!行くぜ!」
「そうよ、2人共ホントに暢気ねぇ!」
ジョーとジュンが後姿で2人を急かした。
その更に向こうを既に健が走っていた。
「いいか?ギャラクターを深追いするよりも、ペペローナ博士の護衛が俺達の最優先任務だ!」
健が決意を込めた瞳で正面を見た。

ペペローナ博士が移動する時の運転手はジョーが務める事になった。
後部座席には博士を挟んで右手に健、左手にジュン。
ジョーの右横のナビゲート席には本物の秘書が乗っていた。
車には強化ガラスが用いられている特注品だが、一度(ひとたび)ギャラクターの標的になってしまえば、おもちゃのような物だろう。
ジョーはG−2号機を使いたかったが、スポーツカータイプの車では敵の眼を引きやすい。
見掛けは普通の黒塗りの乗用車であるこの車を使わざるを得なかったのだ。
『今の処、怪しい奴はおらんようじゃ』
『こっちも異常なしだ!』
竜と甚平からの通信が入って来た。
それを聞いてジョーはステアリングを握り締めた。
「いざと言う時にはちょいと乱暴な運転をする事になるかもしれません。
 シートベルトを着用して、いつ襲って来てもいいように身構えていて下さい」
ジョーは後部座席の博士に向かってそう言うと車をスタートさせた。
ペペローナ博士の姿を見た時、ジョーは何か懐かしい雰囲気を感じていた。
イタリア系の女性だ。
ジョーの母親が生きていれば、彼女と同年代位だろうか…。
初めて挨拶した時に『Ciao,grazie!(こんにちは、宜しく!)』と声を掛けると、彼女は母国の言葉で話し掛けて来たジョーに優しく微笑んでくれたのだ。
ISO本部から、博士の研究所までは1時間程の道程である。
「健、ジュン!嫌な予感がする…。
 カーチェイスになったら博士の両脇を固めてくれぐれも宜しく頼むぜ!」
ジョーが低い声で言った。

ジョーの予感は当たる事が多い。
この場合も例外では無かった。
10分程走って郊外に出た途端に追跡者が居るのに気付いた。
『ジョーの兄貴!後ろから変な車が追って来てるぜ!』
甚平の声が響いた。
「解ってる!」
ジョーはステアリングを切った。
『ジョー、敵は3台で来とるわ。高性能な車だぞい。どんどんそっちに近づいとる!』
「それも解ってる!健、ジュン、荒々しい事になるから頼むぜ!」
「解った!」
「ラジャー!」
健とジュンが空かさず答え、ペペローナ博士をシートに伏せさせ、その身体の上にジュンが覆い被さった。
ジョーはナビゲートシートに座っているペペローナ博士の秘書にも姿勢を低くするように求め、アクセルを踏み込んだ。
敵の車が横に並んで来た。
左右を挟まれる格好だ。
ジョーはボタンを押し左右の窓を半分開けた。
防弾ガラスになっているとは言え、どうせギャラクターの攻撃には持ち堪(こた)えられない。
片手で運転をこなしながら、器用にエアガンを取り出す。
彼の狙いは正確だ。
左側を走る敵の車の運転席に向かって狙いを定め、引き金を絞った。
敵の車が暴走を始め、遅れて行った。
その間に健は右側の車にブーメランを放っていた。
こちらも運転席のギャラクター隊員にフロントガラスを割って直撃した。
「残るは後1台だぞ、ジョー!」
「ああ…」
後方を走っていた1台が彼らの車を飛び越えて前に回り込んで来た。
しかし、ジョーのドライビングテクニックは敵の上を行っている。
ステアリングを切ってそれを交わすと、先程運転手を倒して横転した車をジャンプ台代わりにして、そのまま走り抜けた。
さすがのジョーも今日はギャラクターに対して深追いはしない。
ペペローナ博士を守る事に専念したのだ。
『ジョー!最後の車はおら達が爆破する!先を急いでくれい!』
「おう!任せたぜ!」
竜の声を聞いて、ジョーは研究所へと急ぐのであった。

博士の護衛は研究所に無事に着いたからと言って終わりはしない。
科学忍者隊であると言う正体はペペローナ博士にも秘密であったが、彼らの獅子奮迅の闘い振りを見て、彼女は5人の素性を見抜いていた。
しかし、そう言った事を口に出すような無配慮な女性ではなく、5人を丁重に持て成してくれた。
だが、5人は決してくつろいだり警戒を解いたりはしない。
ギャラクターはどこから忍び寄って来るか解らないのである。
任務を解く指令が出るまでは、彼らは黙々とそれを遂行し続けるのだ。




ぺたる様より戴きましたイメージイラストです。
ぺたるさん、どうも有難うございました。
ぺたるさんのブログ『イメージ画あれこれ』はこちらからどうぞ。




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