『健康診断』

「諸君。午前中に行なった健康診断の結果が出た」
科学忍者隊のメンバーが訓練室で一汗流して、隣接するコントロールルームに戻ると、丁度南部博士がファイルを持って入って来た処だった。
「皆、特に異常は無かった。過酷な任務を課しているだけに心配だったが、取り敢えずは良かった」
南部は安堵したように全員の顔を見回した。
全員が汗だくになっている。
ジョーなどは健康診断の結果より、早くシャワーを浴びたいと顔に書いてあった。
「取り敢えずは、と言いますと?」
健がリーダーらしく南部の言葉尻を押さえた。
「うむ。いいかね、諸君。問題はこれなのだ」
南部はファイルを捲った。
「G−1号、普通体重。G−2号、低体重。G−3号、低体重。G−4号、普通体重。G−5号、肥満。
 以上だ、諸君……」
「おらだけ太り過ぎ、ってちゃんとオチになっとるんじゃのう……」
竜がぼやくと、南部が続けざまに言った。
「それより、特に問題なのは、ジョーとジュンの『低体重』と竜の『肥満』だ。
 健と甚平は標準体重よりは低いが辛うじて普通体重の範疇に在る。
 ジュンは女性なのでまあ大目に見るとしても、ジョー、特に君だけはISOでも見逃せない数値なのだそうだ。
 身長185cmの男性としては平均体重を15kgも下回っている」
「でも、ジョーは俺よりも膂力がありますし、筋肉が発達しています。
 体重が軽い方が科学忍者隊としては動き易くて向いている筈じゃありませんか?
 寧ろ脂肪がないだけで、別に問題は無いと思いますが…」
健が言った。
「しかし、ISOの保健部が動く事になった。ジョーに栄養指導を行なうそうだ。
 1週間泊まり込みで指導を受けるようにとの事だ」
「げっ!それって決定事項なのですか?!」
ジョーが眉を吊り上げた。
それでも相手が南部博士だから我慢している。
「ジョー。太り過ぎが良くないのはいつも竜の事を心配している君の事だから良く知っているだろう。
 しかし、君の体重も逆に病気に罹り易い体型と言えるのだ」
「はぁ…」
ジョーはあからさまに困った顔をした。
「俺には今の体重がベストなんですよ。
 今、無理矢理に体重を増やしては却って任務に支障が出ますよ。
 戦闘の勘が鈍っちまうんです!わざわざ体重を増やしてまた1から訓練をし直せとでも?
 博士からそこの処を上手く言って下さいよ」
ジョーは逃げ出すタイミングを計っていた。
健はジョーがその機会を狙っている事を知っていた。
力を貸す気になった。
1週間も監視つきだなんて、精神的に持つ筈がない。
いや、心配なのはジョーではなくて保健部の栄養指導の係員の方だ。
健はジュンと頷き合って、ジュンがスクランブルを発信し、健のブレスレットが鳴った。
「博士、スクランブルです!」
健がわざと博士に水を向ける。
「何?スクランブルを出すべき人間が全員此処にいるのに、そんな事がある筈がない」
博士が言い差している間にジョーが消えていた。
「ジョー!……ふふふ、君達、謀ったね?」
南部が笑い出した。
「まあ、いいだろう。私も健やジョーの言う事が解らない訳ではなかったのでね。
 任務多忙の為、1週間も時間は割けないと回答しておく事にしよう。
 竜、ジョーに精の付く食べ物を食べさせに連れ出してやってくれたまえ。
 ジョーの事だ。竜と同じ物を食べたとて、基礎代謝が違うから恐らくは太るまい」
背中を向けた南部博士はまだ笑い声を立てていた。
「変な博士じゃのう…」
竜が腹を揺すって笑った。
「ジョー!もう解放されたぞ。戻って来いよ」
健がブレスレットに呼び掛けると、「もうシャワールームだよ」と雨音のようなシャワーの音と共にジョーの低い声が返って来た。




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