『囮作戦(前編)』

基地に呼び集められた時、ジョーは沈鬱な表情をしていた。
「ジョー、一体どうしたのだね?」
南部博士がそれを見咎める。
「いえ…別に」
その日、サーキット仲間がレース中に自損事故で死亡したのだ。
両親をギャラクターに殺されたその復讐心は隠す事が出来ないが、それ以外の個人的な感情を、彼は絶対に任務には持ち込まない。
だが、顔色が蒼褪めているのは誰が見ても明白だった。
「ジョー。君がスクランブルに応じた地点はDFA地区のサーキット場だったね?」
南部が静かに訊ねた。
「そうですが…」
「世界各国のサーキット場にて熟練したレーサーが事故を起こして死んでいる。
 その数は20名を超えるのだ」
「何ですって!?」
ソファーに座っていたジョーは思わず立ち上がった。
「君には何も起こらなかったのかね?君も熟練したレーサーの筈だが?」
南部が眉を顰めた。
ジョーは顎に手を当てて、眼を閉じて暫し黙考する。
健やジュン、甚平、竜も心配そうな表情を彼に向けたが、ジョーの思考を邪魔しないように押し黙っていた。
「そう言えば…。突然おかしな光を見て、一瞬気を失い掛けました。
 事故があったのはその直後の事です。俺は辛うじて脱しましたが、アルバートが……」
「やはりそうか。君の表情が冴えない理由はそう言う事だろうと思っていた…」
南部が一瞬眼を伏せた。
「実はレッドインパルスの正木君と鬼石君がこんな写真を送って来た。見たまえ」
部屋が暗くされ、メインスクリーンに連続写真が投影された。
怪しい光が空を覆っている。
「ジョー、君が見たのはこの光ではないかね?」
「そうです。でも、何故レーサーばかりが?観客には被害者は居ないんですよね?」
「そうだ。レッドインパルスはこんな写真も送って来た」
大きな円盤のような物体が光源となっている事が解る写真だった。
「でも、どうして優秀なレーサーを殺す必要があるんです?」
健が率直な質問をした。
南部はそれに答える前にジョーに問う。
「そのアルバートと言うレーサーの遺体はあったのかね?」
「……いえ。レーシングカー毎、爆風で……」
「やはり、それだな」
南部が顎に手を当てる。
「博士!」
健が続きを促した。
「つまりだ。恐らくこれはギャラクターの仕業で、優秀なレーサーを死んだと見せ掛けて集めているのだ」
「では、アルバートは死んではいないと?」
ジョーの眼が大きく見開かれた。
「理由は解らないのだが、鉄獣メカの操縦に熟練されたレーサーの力が必要なのかもしれん」
「成る程。それでサーキット場を狙った訳ね?」
「ジョーの兄貴の腕は、喉から手が出る程欲しかっただろうね」
「じゃが、ジョーは勘がいいからのう。災難を逃れたって訳かぁ」
「だとしたら、博士。またジョーが狙われるんじゃ?」
健が眉を顰めた。
「その可能性は否定出来ないが、これまでに集めたレーサーだけで鉄獣メカは充分に動かせるようになっている事も考えられる。
 その辺りの調査はレッドインパルスの2人が続けているので、ジョーには囮になって貰いたい。
 わざと捕らえられて、敵基地へ潜入するのだ」
「そいつは構いませんが、サーキットでは他に被害者が出ます」
「国連軍の秘密訓練場を借りてある。そこを走って貰おう」
「ギャラクターが騙されますかね?」
「正木君によれば、君の事は謎の腕利きレーサーとして国内外に知られていると言う話だ。
 レッドインパルスの2人と、健、君も一緒にコースに出て貰おう。
 ジョー1人で走っているのは如何にも怪しかろう。
 ジュン、甚平、竜はゴッドフェニックスで待機し、怪しい飛行物体の接近を彼らに報せるのだ。
 そして可能な限り追尾してくれたまえ」
「ラジャー!」

ジョー、健、レッドインパルスの2人はISOが用意した改造車で、秘密訓練場に集合した。
車は爆破される事が解っているので、G−2号機はゴッドフェニックスに格納したままになっている。
全員がレーサースーツに身を包んでいる。
ジョーはコンドルのジョーを思わせる紺色、健は白、正木と鬼石は黒に身体の脇にワインレッドの縦線が入った物を着用していた。
健には見慣れた姿だが、ジョーのレーサースーツ姿はなかなか魅力的だ。
引き締まった身体がより強調されて、見る者を魅了する。
これだから彼には女性ファンが多いのだろう。
「くそっ!こんな事なら、俺もやられた振りをしてアルバートと一緒に攫われていれば良かった」
「ジョー…。レーサー達の力を利用しようとしているのなら、お前の友達は生きている筈だ。
 彼らの力を悪用されない為にも、こっちから行ってやろうじゃないか」
健がジョーの肩を軽く叩いた。
「それでは、始めよう」
正木が車に乗り込んだのを合図に全員がそれぞれの車に搭乗した。
ジョーのドライビングテクニックは正木や鬼石が呆れる程、素晴らしいものだったが、彼らや健の腕前もなかなかの物だった。
『怪しい飛行物体を発見したわ!そっちに秒速150mの速さで接近中!』
ブレスレットからジュンの声が響いた直後に4人は光に飲み込まれた。
それぞれのマシンは木っ端微塵に爆破されたが、目覚めると4人はやけに揺れる牢に閉じ込められていた。
その中にはアルバートを初めとした20名を超える優秀なレーサー達が固まっていた。
「アルバート!」
「ジョー!やっぱりお前も…」
「いや、違う。俺達4人はお前達を助けに来た」
変装を解くと、レッドインパルスは眩しい紅(くれない)の制服に、健とジョーはいつものTシャツ姿に戻っていた。
「此処は私達に任せろ!」
正木と鬼石が前に出た。
ジョーは健と2人でレーサー達を出来るだけ鉄格子から離れさせ、伏せるように告げた。
正木は威力の少ない時限爆弾を鉄格子の隅から手を伸ばして動力源部分に貼り付け、2人も飛び退った。
動力源が破壊されると、すぐに鉄格子が半開きとなった。
1m程上に上がった状態だ。
問題なく脱出が可能だった。
「レーサー達は私達に任せてくれ」
「どうやって脱出するんです?此処は恐らく飛行空母ですよ」
と健。
「なぁに、今鬼石が敵の飛行艇を戴きに走ったよ」
正木がニヤリと笑った。

全員をレッドインパルスが牢から脱出させたのを見届けて、2人は同時にバードスタイルに変身した。
「ジョー、行くぜ!」
「おうっ!」
慌てて脱出したレーサー達を追おうとしているギャラクターの隊士達の注意を自分達に引き寄せる為、2人は投擲武器で攻撃して足留めをしてから、大見得を切った。
「科学忍者隊G−1号、人呼んで大鷲の健、またの名をガッチャマン!」
「同じくG−2号、コンドルのジョー!行くぜ!」
2人が跳躍すると敵の飛行空母はすぐさま大混乱に陥った。
「健!とにかくまずは怪光線の発生源を破壊しちまおうぜ!」
「ああ!」
2人は阿吽の呼吸で走り始めた。
『健!レーサー達は全員レッドインパルスが脱出させたわ!』
ジュンの声がブレスレットから聞こえて来た。
「よおし!これで心置きなく暴れられるぜ!」
基地に集合した時のジョーの沈鬱とした様子はもうすっかり見られなかった。




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