『囮作戦(後編)』

健は「バードラン!」と叫びながらブーメランを華麗に飛ばす。
彼の手元にブーメランが戻って来た時、敵はバタバタと薙ぎ倒されている。
1投でこの威力だ。
それと対照的にジョーは無言で武器を繰り出す。
羽根手裏剣をどっさりとお見舞いしながらも、エアガンで敵の喉を狙い、反転して長い手足でフックやキックを確実に決めて行く。
ジョーは武器を使ったり肉弾戦を繰り広げる時には専ら気合を発する事しかしない。
(健の奴…。意外に派手好きなんだよな…)
と苦笑いする事もある。
性格だけではなく、闘い方にもそれぞれの個性が出るのだ。
しかし、お互いの能力は認め合っている。
実力は伯仲しており、それぞれが相棒に生命を預ける事が出来る程の信頼を寄せているのだ。
「ジュン!聞こえるか?俺とジョーは怪光線の発生源を破壊する。
 甚平と2人で侵入し、発電室を爆破してくれ!」
健がブレスレットに向かって指示を出す。
「ラジャー!既に飛行空母の中に潜入しているわ」
ジュンの明快な答えが返って来た。
「相変わらず頼り甲斐があるお嬢さんだぜ」
ジョーがニッと笑った。
「行くぜ、ジョー!」
「おうっ!」
2人はギャラクターの隊士を薙ぎ倒しては活路を切り拓き、風のように走って奥へと進んで行くのだった。

ギャラクターの隊士達の守りはいつでも緩かった。
たまに骨のある隊長にぶつかる事はあるが、末端の隊士達の士気は低い。
首領であるベルク・カッツェは常に我先にと逃げ出し、隊士達を見捨てる行動を取るからに違いない。
カッツェの人望は薄く、本当に心酔しているのはほんの一握りの隊士に過ぎない。
その為、科学忍者隊の最年長コンビの来襲に怖気づき、マシンガンで攻撃しても素早い動きで交わされ、更には肉弾戦で対抗されて全く敵わないと知ると、すぐに逃げ腰になった。
「逃がす訳には行かねぇのさ!」
ジョーが1人のチーフらしき隊員の首を掴んだ。
「あの怪光線の発射装置はどこにある?」
往復ビンタを喰らわせるとチーフはすぐに吐いた。
「そこの鉄の扉の中だ……」
震える指でドアを指差してそれだけ言うとその男は気絶した。
ジョーはそのチーフ隊員を捨て置いて立ち上がり、鉄の扉の動力源を探し始めた。
健も同様にドアの周囲の壁や床を叩いて音を確かめ始めた。
その時、ドーン!と音がして、飛行空母が大きく揺れた。
「ジュンがやったらしいな…」
健が呟いた。
「こっちも早くしなければ…」
「おっ?」
ジョーは同じ場所を何度か叩き、別の場所を叩いて音の違いを確認してから狙いを定めた。
「此処だぜ」
鉄製の扉の右側の壁の下部が空洞になっていた。
恐らく此処に扉の動力源がある。
「健!爆弾で爆破してくれ」
健は黙って腰からトゲトゲの付いた小型爆弾を取り出した。
離れた場所から投げつけるが、小さな穴が空いた程度だ。
「ジョー。バーナーで焼き切るか、ドリルで穴を空けてくれ」
「ほい来た!」
ジョーはエアガンのバーナーで壁を焼き切り、動力源のスイッチを破壊する事に成功した。
半開きとなったドアから2人は室内に滑り込む。
敵兵が2人、マシンガンを抱えて待ち構えていた。
「健!俺に任せろ。爆破を頼むぜ」
「解った!」
健はブーツの踵に隠し持っている爆弾を取り出した。
ジョーはそれを阻止しようとする敵の隊員に向かって羽根手裏剣を飛ばした。
格闘に至るまでもなく、羽根手裏剣は敵兵の両手の甲を確実に貫いていた。
マシンガンの銃口が在らぬ方向を向いて吼えた。
「5分後に爆発する。脱出するぞ!」
『こちらG−3号。発電室の爆破に成功したわ!』
ブレスレットからジュンの声が聞こえた。
「こちらも作戦成功だ!5分以内にゴッドフェニックスに帰還せよ」
『ラジャー!』
健の指示にジュンと甚平が答えた。

ゴッドフェニックスに全員が搭乗して辛くも脱出した後、飛行空母が火を噴いた。
その中からデブルスター円盤が飛び出して行く。
「くそぅ…。カッツェめ!どこに隠れていやがったんだ!?
 優秀なレーサーを掻き集めるなんてとんでもない計画を立てやがって!」
ジョーがそれを見送りながら、悔しげに唇を噛んだ時、南部からの通信が入った。
「レッドインパルスが飛行空母からレーサー達を連れて脱出する時に飛行艇を奪って来たのだが、その飛行艇の基地に建造中の鉄獣メカがあったそうだ。
 ついでに彼らが鉄獣メカに時限爆弾を仕掛けた。
 君達と連携しての活躍で飛行空母は完全なる藻屑と化したのだ。
 今回の任務も良くやってくれた……。
 ジョー、君のレーサー仲間達は全員メディカルチェックをした上で帰宅させる。安心したまえ」
スクリーンから南部の姿が消えた。
「ジョー。俺達が彼らを助けに行った理由を仲間に上手く説明しなければならないぜ」
「ああ…。特にアルバートには丁寧に教えてやらにゃあならんだろう。
 怪光線を目撃して探っていたら、レッドインパルスと出逢ったので一緒に動いた、って事で納得させるさ」
ジョーの表情は心から晴れ晴れとしていた。
「でもさ。おいらレッドインパルスの存在すら忘れてたよ。
 2人だけになっても諜報活動を続けてたんだね…」
甚平の言葉に、ジョーは一瞬健の表情の変化を窺った。
健の瞳に揺るぎがない事を見て取ってホッと胸を撫で下ろす。
「よし、帰還するぞ!」
健の号令で、竜はゴッドフェニックスのスピードをパワーアップさせるのであった。




inserted by FC2 system