『特大バズーカ砲』

スクリーンには山肌に聳え立つミサイルの発射口が映し出されていた。
「今回の任務はジョーに単独で行なって貰う。サポートには国連軍選抜射撃部隊が就く」
南部博士の指令はジョーに対して向けられた。
「で、俺達はどうしろと言うんですか?」
またレニック中佐かよ?…とジョーが衝撃を受けている間に、健が博士に訊ねた。
「健達にはその間にレイクシティーにあると見られるギャラクターの基地を叩いて貰いたい」
「正直言って国連軍なんかより健達の方が遥かに安心して俺の背中を任せられますよ。
 なぜその狙撃を俺が単独でやらなければならないんですか?」
ジョーも当然の疑問を投げ掛けた。
「俺達全員でそのミサイルとやらを叩き壊してから、レイクシティーの基地を破壊しに行けばいい事じゃないですか…。あいつらは信用なりませんよ。役に立つとは思えません」
「諜報部員からの情報では、ギャラクターは同時進行で何かの企てを行なっていると言うのだ。
 どちらも猶予はならんのだ」
「戦力が分散するのは、俺達としては痛手ですが、それでは止むを得ないですね」
健が決意を込めた瞳でジョーを見た。
「そっちはお前に任せる。早く片付いた方が駆け付ける事にしようぜ」
「ああ…。解ったよ。国連軍選抜の射撃部隊だか何だか知らねぇが、そんな物なんか当てにはしねぇ。
 俺1人で必ずやって見せるぜ」
「ジョー。君も先刻承知の通り、レニック中佐は君の正体を見抜いている。
 だが、バードスタイルで逢っても知らぬ顔を通してくれる筈だ。
 他の隊員達にも顔見知りがいるだろうが、その辺りは気にせずに任務を遂行してくれ」
「ラジャー!」
全員が司令室を駆け出し、ジョーだけはゴッドフェニックスに合体せずに単身G−2号機で、写真にあった山へと向かった。

ジョーに与えられたミッションは問題のミサイルを破壊する事だった。
しかし、発射口は狭く、人が入り込む余地がない。
また、諜報部の調査によると、他の場所からの潜入も難しく、地下から穴を掘って行くしかないと言う報告がなされていた。
つまりは外部からその発射口を直接狙撃せよ、と言うのが南部の指示だったのだ。
G−2号機にはガトリング砲の装備があったが、特別な弾丸を作らなければミサイルには対抗出来ない。
今、その猶予は無かった。
ジョーはレニック中佐が持参する筈の大型バズーカ砲で、その発射口を狙撃する手筈になっていた。
国連軍選抜射撃部隊には、それを確実に標的に当てるだけの腕前を持つ人物が居なかったのだ。
「君が科学忍者隊G−2号か……」
レニックは初めて逢ったかのように接してくれたが、その眼は親しみを込めて笑っていた。
その事はジョーにしか解らなかった筈だ。
バイザーの下からその眼を睨むように見つめて、ジョーは小さく「どうも…」と言った。
「これが南部君から依頼を受けたバズーカ砲だ」
レニック中佐が部下に持って来させたバズーカ砲は、第二次世界大戦以降に使用された89ミリ砲よりも遥かに口径が大きい150ミリ砲だった。
89ミリ砲で対戦車用なのだ。
150ミリ砲を満足に取り扱えないのは当然と言えた。
なぜそんな武器を装備していたのか、とジョーは疑問に思ったが、実は彼に使わせる事を想定して南部博士が作らせた物だと言う事は彼の知る処ではなかった。
銃身が太くなれば、当然長さも長くなり、重くなる。
「この重さに耐えられる者は居なくはないのだが、情けない事に発射した時の反動に耐えられる者がおらんのだ」
ジョーはそれを黙って受け取り、肩に担いでみた。
ずっしりと重い。
それでも、竜に押し潰された経験を思えば大した事では無かった。
「この重さと反動で弾道がずれる可能性が高い。そこで南部君は君に白羽の矢を立てたのだ。
 他の科学忍者隊には別の任務があると聞いているので、我々は援護射撃に回る事にした。
 此処からなら充分に射程距離内だ。バズーカ砲の予備は他に2本しかない。
 敵襲の危険も考えると1発で仕留めるのがベストだ」
「解ってますよ。科学忍者隊の援護がない以上、1発で仕留めなければ『貴方達』が危険だ」
ジョーが低く呟いた。
「自分の身は自分で守ります。援護は要らない。飽くまでも手出しは無用にして欲しい…」
ジョーは片膝を付き、バズーカ砲を肩に担いで照準を合わせた。
こう言った戦闘に於ける彼の勘は、此処にいる百戦錬磨の国連軍の射撃部隊よりも遥かに優れた能力を持っていた。
「貴方は別として、貴方の部下達は自分自身を守り切れるとは思えない。
 ギャラクターが襲って来る気配があったらすぐに部下を連れて撤退して下さい」
ジョーは狙いを定めながら横に立つレニックに言い放った。
「俺はさっさとこの仕事をこなして、別行動の仲間達の所に行かなければならない。
 精々敵を蹴散らして此処から離れるのがやっとだろう。国連軍の面倒までは見切れねぇ…。
 今すぐに其処の洞穴にでも部下をぶち込んでおいて下さい」
レニックはジョーの強気にニヤリと笑って、黙って部下達の溜まりに歩いて行くとその通りに指示を出した。
自身はすぐにジョーの元に戻って来る。
「私には君の仕事振りを見届ける任務があるからね」
「まあ、いいでしょう。気を散らさないようにしていてくれれば…」
ジョーはツーっと眼を細くした。
いよいよ狙撃態勢に入ったのだ。
その気配は軍人であるレニックにも解ったので、彼は音を立てずにサッと身を引いた。
ジョーは呼吸を整える。
狙いは既に付けてある。
(1、2、3…)
3つ数えた時に、彼は素早く引き金を引いた。
強い衝撃で身体が後方に吹き飛ばされそうになったが、ジョーはそのままの位置に踏み止(とど)まった。
彼の狙いは正確だった。
ギャラクターのミサイルの発射口は見事に破壊されていた。
ミサイルがそれに誘発されて爆発を起こし、てんやわんやになっている様子が爆破された発射口に空いた穴から見て取れた。
敵基地から3機のヘリコプターが瞬速で飛び出して来た。
ジョーは慌てない。
レニックを後ろに突き飛ばして、羽根手裏剣を3本飛ばしただけで事が済んだ。
「伏せろ!」
ジョーが叫んだ僅か数秒後に、ヘリコプターが墜落炎上した。
「全員の無事を確認したら早く撤退して下さい!」
ジョーは言い置くと風のような速さで、G−2号機へと走り始めた。
「旧交を温める隙すら与えないのだな、君は……」
レニック中佐は颯爽とレイクシティーに向かうジョーの後姿に向かって呟くのだった。




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