『ドライブレコーダー』

「博士、何を見ているんですか?」
司令室にフラリと入って来た健が、スクリーンの前で固まったままの南部博士に声を掛けた。
画面には激しく動き回る車からの目線で撮られたと見られる映像が続いていた。
「これは…まさか…」
「そうだ。G−2号機のドライブレコーダーの映像だ。
 これを確認した限り、ジョーは『グレープボンバー』の時から調子が悪かったようだね…」
「あ…あの、合体出来なかった時の?」
「そうだ。あの時、ジョーが『気分が悪くて』と言ったのを私は冷静さを欠いていたせいで見逃してしまったのだ……」
「博士、ご自分を責めるのはやめて下さい。
 俺だって…俺だって…、異変に気付いていながらも何も出来なかったんです。
 ジョーは俺が差し伸べた手を振り払ったんです」
健が唇を切れる程に噛み締めた。
「ジョーは君の気持ちを有難く受け取ったに違いない。
 だが科学忍者隊から外される事を恐れていたのだ。
 ジョーは…あの子はそう言う子だ……。健が気に病む事はない……」
南部博士の声が震えた。
博士は凛とした背を向けた。
「寧ろ…。責められるべきは私の方なのだ。
 あの時気付いてやっていれば、少なくともジョーは苦しまずに逝けたかもしれない」
「俺も、あの時博士に相談していれば…、と何度後悔した事か…。
 でも、ジョーがそんな死に方を望んだのでしょうか?
 最近そう思うようになりました」
「確かにな…。病院を抜け出してでも、闘いの場に出向いたかもしれん…。
 しかし、ジョーはあのような死に方をして、安らかに逝けたのだろうか?」
「ギャラクターの本部を発見して、入口を俺達に伝えて全てを俺達に託してくれたんだろう、と思いたいです……」
2人の眼の前にはまだドライブレコーダーによって映し出された激しい動きが流れていた。
まるでF1中継を見ているような錯覚に陥る。
その映像はヘビーコブラをG−2号機のみで叩いた時の臨場感溢れるものに変わっていた。
健は懐かしくその画面を眺めた。
「ジョーの目線にはこんな風に映っていたんだな……。
 博士、解析が終わったら俺達にも見せて下さい」
「ああ、構わんとも。それで辛くならないのならね」
「俺達はジョーが生きている内にもっとあいつの事を知るべきだったと思っています。
 ジョーの魂はあの世とやらに行っても、俺達にとってはいつまでもあいつは科学忍者隊G−2号です。
 いつまでも一緒に居るんです。俺達が生きている限りは……」
南部の口元が緩んだ。
「後でコピーを上げよう。少し待っていたまえ」

「健。こんな物も出て来たので一緒にコピーしておいた」
帰りに南部が健に2枚のディスクを差し出した。
1枚は先程のドライブレコーダーの映像コピー。
「もう1枚は…?」
「まあ、見てみたまえ。それはコピーだから返さなくても構わん」
南部は含みを持たせて自室へと消えて行った。
健はそのまま『スナックジュン』へと足を運んだ。
南部が渡してくれたもう1枚の映像は、ジョーが特別訓練室で黙々と1人戦闘訓練をしている映像だった。
バードスタイルではなく、素顔のままで。
「兄貴、良くこんな映像が出て来たものだね…」
「三日月基地と共にこんなデータも消えていたと思っていたんだが、どうやら博士がこっそり持ち出していたようだ…」
健が答えた。
「博士にとってもジョーは大きな存在だったのね…」
ジュンがしんみりと呟く。
「私達、博士に甘え過ぎていたわ。博士だってどんなに辛かったか…。
 私達の前で涙を見せた事が無かったけど、博士には8歳のジョーをBC島から連れ帰って以来の思い出があるのですものね」
ジュンがコーヒーを1杯入れて、カウンター席の誰も座っていない椅子の前に置いた。
「ジョー…。来ているんでしょう?貴方の国のコーヒー豆で淹れたわ。
 ゆっくり飲んで行ってね……」
気のせいか、コーヒーの水面が揺らいだような気がした。




inserted by FC2 system