『ジョーと甚平〜ヘリコバギー編』

任務中に遭難した甚平を身を挺して助け出したジョーは、止むを得ず甚平のヘリコバギーを操縦する羽目になった。
背が高く手足が長いジョーには如何にも窮屈な操縦席だった。
サイズも操縦方法も子供の甚平に合わせて設計されている為、彼にとってはおもちゃのような乗り物だった。
気を失っている甚平は狭い床に転がしてある。
(こんなおもちゃのようにしか思えねぇメカでも実は一番機動力があったりするんだよな……)
ジョーは内心でぼやいていた。
自分のG−2号機メカはフォーミュラカー状の為止むを得ないのだが、空は飛べないし水中も無理だ。
甚平のヘリコバギーはそれらが可能なだけではなく、地中までをも掘り進む事が可能だ。
(しかし、南部博士もこの単純な操縦方法のメカに、良くもそこまでの機能を叩き込んだもんだぜ。
 天才ってのは考える事が違うな……)
ゴッドフェニックスが近づいて来た。
G−4号メカでゴッドフェニックスに合体した事は無かったが、竜が上手く回収してくれるだろう。
「竜!俺は不慣れだからな。そっちで上手くやってくれよ」
『任しとけって!でも、まんだ甚平は気がつかねえの?』
『甚平ったら大丈夫かしら?』
竜とジュンの声がブレスレットから届いた。
「ああ、脳震盪でも起こしてるんだろうぜ。心配する事はねぇさ」

ジョーは甚平を軽々と左腕で抱えてコックピットへと戻った。
「甚平!しっかりして!」
ジュンが駆け寄って来る。
「ジョー!お前負傷してるのか?」
目敏い健はジョーの右肩の出血に気付いた。
「大丈夫だ。爆弾の破片が突き刺さってるが大した出血じゃねぇ。
 このままにしておく方がこれ以上の出血を防げるだろうぜ」
「ジョー。痛みは?」
ジュンが甚平から彼に視線を移した。
「G−4号機を操縦して来たぐれぇだ。心配には及ばねぇぜ。
 それより狭っ苦しくて息が詰まりそうだったぜ」
ジョーはシニカルに笑った。
「ふふ。それじゃあ、竜には相当狭いんだろうな」
健もジョーの様子に安心したのか笑い声を立てた。
「それより、ヘリコバギーの万能さが却って甚平を危険な目に遭わせたり、こいつがつい無茶をしちまう事があるって事を俺達は気を付けてやらにゃあなんねぇぜ」
ジョーがゴッドフェニックスに向かうヘリコバギーの中で考えていたのは、その事だった。
「甚平は一人前の科学忍者隊のメンバーだが、やっぱり飽くまでも子供だからな。
 後先を考えられねぇ事もあるぜ…」
「そうだな…。甚平は俺達にとって立派な戦力だが、まだまだ子供なんだよな」
健がジュンに抱かれている甚平の顔を覗き込むようにして呟いた。
「まあ、あんまり子供子供って言うと甚平が凹むから、程々にしといた方がいいと思うわい。
 そろそろ気が付く頃じゃろ」
操縦席の竜が振り向かずに言った。

「ジョーの兄貴…。おいらのせいで怪我をさせちゃってごめん……」
『スナックジュン』のカウンターの中で、甚平は青菜に塩状態だった。
「一々気にするなって事よ。こんな事は俺達にとっては日常茶飯事じゃねぇか。
 任務中は互いに助け合わなきゃならねぇんだ。
 何かある度に気にしてたら心臓がいくつあっても足りねぇぜ、甚平」
ジョーは左腕を上げて甚平の前髪をいじった。
右肩はまだ上がらなかった。
「でも…。ジョーの兄貴の右腕が動かない事はおいら達にとっても重大な損失だからね」
「すぐに良くなるさ。破片は取れたし縫合も済んだ。こんなもんいつでも取れるさ」
ジョーは右腕を吊るしている三角巾を取る真似をして見せた。
「それじゃ運転が出来ないだろ?」
甚平はまだ済まなそうな顔で上目遣いにジョーを見る。
此処に来る時は健のバイクの後ろに乗って来た。
健は勿論、ジョーも当然のようにそうして帰るつもりでいた。
「おいらがジョーの兄貴を家まで送ってくよ」
「あの狭いG−4号でか?」
ジョーは眉を顰めたが、ジュンが甚平の後ろから助け舟を出した。
「甚平はジョーのトレーラーハウスに泊まってみたいのよ。
 1度ジョーとゆっくり男同士の話がしたいとずっと前から思ってたのよね」
「まあ、甚平なら何とか横になるスペースはあるだろうがよ」
「肩が治るまで何かと不自由だろ?今夜はおいらがいろいろ手伝うからさ」
甚平は両手の人差し指を突き合わせてもじもじしている。
ジョーは思わず噴き出した。
「おめぇ。女の子みてぇだぜ」

斯くしてジョーは変身前のG−4号の後ろに身体を乗せ、辛うじて座る形で帰宅する事になった。
座り心地は悪そうだったが、彼の身体能力ならスピードを出しても問題はない。
しかし、甚平はジョーを気遣ったのかゆっくりと走っている。
「甚平!もっとスピードを出しても構わねぇんだぜ。俺に気遣いは無用だ!」
「落っこちない?」
「当たり前じゃねぇか!」
ジョーは声を立てて笑った。
甚平はジョーが科学忍者隊のG−2号、コンドルのジョーだと言う事を忘れているのか?
こんな子供らしい処が彼には微笑ましかった。
「甚平!送ってくれたお礼にアイスクリームでもご馳走してやるぜ。其処の道を右へ曲がりな!」
「ほんと?」
甚平は嬉々として言われた通りにした。
店先には色とりどりのアイスクリームが並んでいる。
「何段重ねでも好きなだけ頼めばいいぜ。但し腹を下さねぇ程度にしとけよ!
 因みに竜は先日10段重ねに挑戦して腹を壊したらしいぜ」
ジョーが甚平の後ろから言った。
「ジョー。これ、綺麗な色だね」
「ああ、そいつはやめとけ。リキュール入りだ」
「じゃあ、これとこれとこれ。あれ、ジョーの兄貴は頼まないの?」
「俺はコーヒーでいい。ブラックだ」
「ふ〜ん…」
スポンサーのジョーは気前良く金を払い、先に店先のカフェテラスで待っていた。
「ジョーの兄貴、有難う。おいら集(たか)りに来たつもりじゃなかったのに…」
「いいって事よ。気にすんな」
ジョーは甚平が持って来てくれた紙コップを受け取った。
「おい、早く食べねぇと溶けるぜ。上手く喰えよ」
「うん」
甚平と過ごす時間はまだまだたっぷりある。
ジョーは弟が出来たような気分になった。
(たまにはこんなのもいいもんだな…)
そっと心の中で呟いた。
自分の子供時代には持ち合わせていなかった純粋さを甚平の中に見ていた。
(俺が甚平ぐれぇの年の頃は、こいつみてぇに子供っぽい子供じゃあなかったな…。
 それを南部博士もテレサ婆さんも…みんな優しく接してくれたっけ……)
ジョーは眼にゴミが入った振りをして乱暴に擦(こす)った。
「ジョーの兄貴、そう言う時は擦っちゃ駄目だよ!ちゃんと水で眼を洗わなきゃ。早く帰ろうぜ」
甚平が急いで残りのアイスクリームを食べ尽くした。
「おいおい。急いで喰う必要なんかねぇんだぜ」
「ううん。もう充分楽しませて貰ったからね。行こうぜ、ジョーの兄貴」
甚平が立ち上がったのを潮に、ジョーも腰を上げた。




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