『改良』

その日、ジョーは改良エアガンの性能チェックの為に三日月基地へと呼び出されていた。
今のエアガンのフォルムがジョーの手にしっくりと馴染んで使い勝手が良いので、基本的に再生不可能な状態ではない限り、新たな物を作るのではなく、手持ちの物のメンテナンスで済ませるようにして貰っていた。
彼は戦闘の中で、こんな機能があったら尚いいのに、と思った事を南部博士に逐一報告していたので、博士もある程度の時間が経つと改良を検討し、メカニックに発注してくれる。
すぐさま改良が必要な時は博士自ら立ち会う事もあった。
ジョーは射撃の名手だ。
彼のその手腕は決して武器の形状云々を問わなければならないようなレベルではなかったが、実戦で生命の渡り合いをしている時に使う物だ。
やはり拘りはあった。
初期の頃は羽根手裏剣の重さや飛び具合にも随分と改良を図って貰ったものだ。
これは肉弾戦で殆ど武器を使用した試しがない竜を除いたメンバーも同様で、同じようにそれぞれの武器に微妙な改良を加えて来た。
戦闘で破損したり、失ったり事もあるので、それぞれの武器は改良型のテストが済んで採用されるとすぐに予備としてもう1つ作られるようなシステムになっている。
今日これから改良型エアガンの性能チェックをして、問題がなければその場でジョーの腰に収まる事になる。
彼が今持っているエアガンは回収され、そちらにも同様の改良が加えられるのだ。
健やジュン、甚平の武器は爆弾としても使う事がある為、新しい物が作られる事が殆どだったが、ジョーのエアガンだけは修理や改良で済んでいた。
元々ガンマンと言う人種は、新しい物を好むより、自分の拘りのある銃を大切に使うタイプの方が多い。
メンテナンスも自分で行なう。
ジョーも普段の手入れは自身でやっていたし、平服でも常に持ち歩いている為、愛着が深かった。
科学忍者隊の一員となってエアガンを与えられてからは、1日たりとも手放した事はなかった。

テストルームのサブには南部博士だけではなく、メカニック担当部署の人間が入る為、ジョーはバードスタイルに変身してからその部屋へと入った。
改良されたエアガンが手渡される。
腰にあるエアガンを南部博士に預け、ジョーはまず改良型エアガンの感触を確かめる。
静かに握り締め、それから指でくるくると回して腰に戻す。
逆にまた腰から取り出して狙いを定めてみる。
違和感は特に感じない。
その事に彼が拘っている事は、此処にいる誰もが一番良く知っていた。
どんな銃でも取り扱えるだけの技能を持つ彼だが、コンドルのジョーとしての武器にはその機能性と扱い易さにはとことん拘るのだ。
メカニックチームのチーフがジョーが求めていたアタッチメントを手渡した。
ジョーの頭にはどんな状況下でその機能を使うのかが明確に浮かんでいるので、その状況をテストルームの中に再現して貰ってあった。
そうして、日々彼のエアガンには改良が繰り返され、その機能が増して行くのである。
その日の性能チェックも無事に終了した。

「皆、ご苦労だった。G−2号は私と一緒に来てくれたまえ」
テストが終了すると南部博士がジョーを呼んだ。
博士は職員の前では彼の事をコードネームで呼ぶように徹底していた。
「ラジャー」
博士の背中に促され、ジョーはそのまま付いて行く。
エレベーターの中で、南部が「もう変身を解きたまえ」と言ったので、ジョーは素直に普段の姿に戻った。
「少し頬がこけたんじゃないのかね?」
博士の声は鋭かった。
「そうですか?多少の体重の増減は俺にもありますよ」
「今、体重は何キロある?言わないのなら測定してもいいが」
エレベーターが南部の執務室のある階で停まった。
2人は降りて執務室へと向かう。
「別に隠す必要はありませんから言いますよ。
 今の体重は58kgです。昨日のレースの前に計りましたから間違いありません」
「2kgも痩せているではないか?ジョー、竜が痩せるのとは話が違うのだぞ」
「はあ……」
「任務がきついかね?君には私の護衛を頼む事が多いので気にはなっていたのだが」
「まさか!それならレースに出場している場合ではないでしょう?」
「いや、君なら任務よりもレースを優先しないとは限らんからな…」
南部博士が苦笑した。
(げっ、図星だ…)
ジョーが博士の後ろで唇を曲げた。
「アンダーソン長官が私に訓練された護衛を付けてくれるそうだ。
 君の負担も少しは軽くなるだろう」
「大丈夫なんですかね?その護衛は…」
ジョーは心配になった。
自分の事を考えてくれるのは解るが、長官が付けてくれると言う護衛は技術的な面、人間的な面の双方でどこまで信頼出来るものなのか……?
「科学忍者隊の任務はこれから益々過酷を極めて行く事になるだろう。
 私の護衛も君達にばかり頼っている訳には行かなくなる」
「確かにそれはその通りですが…。どうも嫌な予感がしますよ」
ジョーが言った時、執務室の前に着いた。
「性能チェックはご苦労だった。私は此処に留まる予定だから、君はこのまま帰宅したまえ。
 陸上までG−2号機を送って貰うよう、職員に手配しておこう」
博士はジョーを通路に残して部屋に入ろうとしてから振り返り、胸ポケットから小さな紙切れを出して手渡した。
「海底展望ラウンジのコーヒーチケットだ。少し休んで行きたまえ。
 職員の手配は1時間後にしておく」
そう言い残すと博士は執務室の中へと消えた。

※この話は075◆『博士が描く未来』に続くようなストーリーとなっております。




inserted by FC2 system