『甚平、夢を語る』

「おいら1つだけ夢があるんだ」
「何だよ?言ってみな」
闘いの帰途、ゴッドフェニックスの中で甚平が呟いたのをジョーは聞き逃さなかった。
「後50年位経ってさぁ。みんなが60代になったら、それぞれの相手と10人揃って世界旅行をしたいな」
「まあ!甚平ったら何て可愛らしい夢なんでしょう」
ジュンが両頬に手を当てた。
「10人ってのは違うな。7〜8人って処だろうぜ」
ジョーが腕を組んだ。
「随分中途半端な人数じゃのう…」
操縦席から竜が呟く。
「ジョー、どうして?」
「おいおい、甚平らしくねぇぜ。
 まあ、まず俺はずっと1人かもしれねぇし、健とジュンがくっつけばそう言う計算になるぜ」
「そっかぁ!でも、ジョーの兄貴はモテるのに何で1人だと思うの?」
「それはなぁ…。いや、お坊っちゃまにはまだまだ難しいだろうぜ」
「何だよ、ジョー、その言い方は。それに俺とジュンが何だって?」
空気を読めないリーダー様の発言に、本人以外の全員が凍りついた。
「おめぇこそ、甚平の夢に水を差すような事を言うなよ」
「だってジョーが7〜8人とかあやふやな事を言い出したんじゃないか…?」
健とジョーが応酬を始めたが、ジョーは早々と白旗を揚げ、話を打ち切りに掛かった。
「ジュン、こいつのトンチキ振りは最早どうにもならねぇや。
 おめぇも早いとこ、いい男を見つけて見切りを付けた方が良さそうだぜ。
 それがおめぇの為かもしれねぇ。俺は本気でそう思い始めたぜ…」
「そうね…」
とジュンは呟き、甚平は下を向いた。
やれやれ、と両手を挙げたジョーもそれっきり黙り込んでしまった。
「ま、まあ…甚平の夢はいつか実現出来るじゃろ。甚平、そう落胆しなさんな」
竜が甚平を慰めている。
「悪かったな、甚平。どうやら水を差したのは俺らしいや…」
ジョーが甚平のヘルメットに手を乗せた。
「ううん、ジョーの兄貴のせいじゃないよ。おいら気にしてないからさ」
ジョーは思わず溜息をついた。
こんな子供にまで気を遣わせちまったじゃねぇか。
誰のせいだよ?誰の!?
その苛立ちからつい、眼の前の計器盤を叩いてしまった。
「ジョー!無闇に精密機器を破壊するなよ!」
健の鋭い声が響いた。
ジョーは全身から力が抜ける思いで、深く自席に沈没するのだった。




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