『アラン神父への答え』

ベルク・カッツェは仮面を剥がされ、顔を隠しながら森を駆け抜けた。
その時ふと思い浮かんだ事がある。
(あの男…。科学忍者隊のコンドルのジョーは、ジュゼッペ浅倉に似ている……。
 BC島に現われたのもあの男だったに違いない。
 とすれば、南部がジョージ浅倉を救って科学忍者隊の一員に育て上げたと言う事か。
 やはりBC島で徹底的に始末しておくべきだった……)
カッツェは自分の詰めの甘さを悔やんだ。
(ギャラクターの大幹部の子だった事を利用して仲間に引き入れたい処だが、あの男はそれ程甘くはない。
 やはり変身前のプライベートな時を狙って襲撃するしかあるまい……。
 今に見ていろ。ギャラクターに正体が知れた事でどうなるのか、とことんまでその恐怖を味わうが良い)
カッツェの赤い口元に凄惨な笑みが浮かんだ。
この時点でカッツェはジョーの身体が病気に蝕まれている事を知る由もなかった。
当の本人ですら、自分の余命が僅かしかない状態にある事を知らずにいたのだ。
後に本部でコンドルのジョーを捕虜とした時に、医師に彼を無理矢理に覚醒させる注射を打たせた。
その時の診断で彼は銃弾を受けるまでもなく、既に余命幾許もない身であった事をカッツェは知る事になる。
だからこその捨て身の戦法だったと言う事も……。
科学忍者隊の変身を解くメガザイナーはコンドルのジョーによって破壊され、ベルク・カッツェ自らもその爆風で紫の山猫の仮面を剥がされてしまった。
互いに素顔を見た同士、近い内に生命賭けで対峙する事になるだろう事は確実だった。
その時、自分の生命の限界を知ったジョーの目覚しい活躍が地球を救う事になるとはまだ誰も知らなかった。

カッツェの素顔を見てから何日も経ってはいなかった。
ジョーはサーキットで飛ばしている時にギャラクターの隊員から襲撃を受けた。
眩暈と頭痛の発作は日に日に悪化していた。
その為、あっさりと気を失ってしまい、ギャラクターの飛行空母に連れ去られた。
ジョーはこの飛行空母の中で生身のまま獅子奮迅の活躍を見せたが、発作を起こし、ついに力尽きた。
カッツェはジョーを散々痛め付けた後、「クロスカラコルムへ急行せよ」と部下に命じ、去り際に小声でこう言ったのだ。
「コンドルのジョー君、いや、ジョージ浅倉君。君は我がギャラクターの血を引いた男だ。
 ギャラクターの血を引いた者はギャラクターから逃れられない運命にあるのだよ。
 ギャラクターの捕虜となって死ねる事を幸せに思うが良い」
ジョーは薄れ行く意識の中でこの言葉を聞いた。
そして、クロスカラコルムの地名も脳裏に強く深く刻み込んだのだった。
飛行空母から生命からがら脱出した後、彼は路上で倒れてしまい、自分の余命が後僅かしかない事を知る。
残された時間がそんなに僅かしかないとは彼は思っていなかった。
それならば……!
カッツェは『ギャラクターの血を引いた者はギャラクターから逃れられない運命にある』と言ったが、俺はギャラクターを壊滅への道へと導いてやる。
どうせ逃れられないと言うのなら、それが俺に残された最後の道だ。
ジョーは密かにそう決意したのである。
彼には時間が無かった。
友やお世話になった南部博士にすら、きちんと挨拶をする暇もない程、追い詰められていた。
(黙って逝く事を許してくれとは言わねぇが、これが俺の生き方だったのさ。
 いつかみんなにも解る日が来るだろうぜ…)
崖の上から総裁Xの地上絵を眺め乍ら、ジョーは心の中で瞑目するのだった。
(アラン…。俺は2度と俺やデブルスター2号のような子供を出さねぇ。
 その為に残された生命を使うつもりだ。これが俺のお前に対する答えだ…!)
ジョーは崖下に跳躍し、最後の闘いの中に身を投じて行くのであった。




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