『海底基地(前編)』

南部博士を別荘まで送り届ける帰り道、眼の前にタイヤがパンクして困っている家族が居るのを見つけて、ジョーは車を停めた。
夫婦と小さな男の子、女の子が途方に暮れていた。
「どうした、ジョー?」
「どうやらタイヤがパンクして交換に手間取っているようですね」
「今日は時間がある。手助けしてやってくれ」
「ええ…。そうしたい処ですが、俺が博士の傍から離れてしまうのは気になります」
「では私も降りる事にしよう。それならば君が私を心配する事もあるまい」
「でも何処かから狙撃されないとは限りませんし……」
「念の為、防弾チョッキは着込んでいる。出来るだけ体勢を低く取る事にしよう。
 ジョー、君だってあのまま見過ごすのは心苦しいんではないのかね?」
「……解りました」
ジョーはその車の近くまでG−2号機を走らせ、修理キットを持って飛び出した。
南部が後ろから付いて来る事を確認し、周囲にはいつも以上に気を払っていた。
「どうしました?替えのタイヤはないんですか?」
「ええ。海に行く途中でパンクして取り替えたばかりだったのですが、帰りにまた替えのタイヤがパンクしてしまって」
父親は困惑している。
「どれ、パンクの修理が出来るかどうかちょっと見てみましょう」
ジョーはジャッキで車を上げて、車の下に入った。
「一体どんな場所を走ったんですか?此処までやられていてはどうにもなりませんよ。
 俺の車で牽引してこの近くの修理工場へ送りましょう。
 この状態ではタイヤを交換して貰うしかありませんね」
この事が後程の一連の事件に関わっていようとは、この時ジョーも南部博士も思ってもいなかった。
この父親の話では2回とも海に行く途中の海岸通りでパンクを起こしたと言う。
その場所ならジョーもG−2号機で通って来たが、G−2号機のタイヤは特殊タイヤなので、影響を受けなかったのかもしれない。

『科学忍者隊速やかに集合せよ!』
南部博士からブレスレットに呼び出しがあったのは、翌日の昼近くだった。
珍しく日中からベッドに寝そべっていたジョーだったが、「G−2号ラジャー!」と答えるとすぐさま行動を起こした。
三日月珊瑚礁へは竜と合流して到着した。
「ジョー、昨日のパンク事件だが、どうやらギャラクターが一枚噛んでいるようだぞ」
博士は全員が揃ったのを見て、開口一番にそう告げた。
「昨日海岸通りを走ってパンクを起こした車は1000台を下らないそうだ」
「それはおかしいですねぇ。道に何か細工がしてあったとしか…。
 G−2号機で通った時には特に異変はありませんでしたよ。
 何かが撒かれていたようには見えませんでしたし」
「それなのだよ、ジョー。諸君もこれを見てくれ。これが諜報部員から送られて来た電送写真だ。
 赤外線で撮影したらこんな物が映っていた」
「これは…。博士!」
健が南部博士の顔を振り仰いだ。
「アスファルトから細かい非可視光線が無数に出ている。
 これは人体には何ら影響を及ぼさないので、なかなか異常に気付かなかったのだ。
 ギャラクターはこの地下で何やら企んでいるに違いない」
「場所が場所ですからね。海水を使った何かか…」
ジョーが顎に手を当てた。
「その可能性は高いわね」
ジュンも同意した。
「調査の結果、あの海域の潮位が通常では考えられない早さで下がっており、海水の塩分濃度が上がっている。
 君達も知っての通り、アラビア半島にある死海の塩分の濃度は30%だ。
 飛び込んだとて沈む事は出来ない。海面に浮かんだままなのだ。
 従って、潜水艇も抵抗に遭い、潜れなくなっている」
「へぇ〜。海を煮詰めてるのかな?」
「つまりはギャラクターがそこに基地を構えている可能性があると言う事ですね?」
健はさすがにリーダー、こう言った話には敏い。
「基地を発見させない為のカモフラージュって訳か。
 だがよ、それじゃあ、奴らは自分達も基地に出入りが出来ねぇだろうぜ。
 地上のどこかに出入口がある筈だ」
「それなのだ、ジョー。海からアクセス出来ない以上はゴッドフェニックスは使えない。
 地上にある出入口を発見して、叩いて貰うしかないのだ」
「ラジャー!」
「私はすぐに海を元に戻す算段をせねばならん。充分に気をつけてくれたまえ」

「健、俺はあの海岸道路が怪しいと思うぜ。非可視光線だか何だか知らんが、あの一帯に何かあると言う証拠じゃねぇか」
ゴッドフェニックスの中でジョーが言った。
「そうだな。竜、近くの山中にゴッドフェニックスを隠して待機していてくれ」
「またおらは留守番かいのう…」
「竜、留守番だって大切な任務だぜ」
ジョーが呟いた。




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