『海底基地(中編)』

「海岸道路から非可視光線を出している理由は基地に人々を近づけないようにしているのか、それ以外の理由があるのか、解らないのはそこだな」
健が呟いた。
ゴッドフェニックスから飛び出した4人は抜かりなく眼を光らせながら、夜の帳が下り始めた街中を忍んでいる。
勿論、バードスタイルでは目立つので、普段の姿に戻っていた。
「海水の事も良く解らねぇ。潜水艇を近づけまいとしてるのか、それとも…」
ジョーがごちた。
「それとも…?」
甚平が背の高いジョーを見上げた。
「濃度を濃くした海水を使って何かを企んでいるのか…」
「全く糸口が見えないわね」
「俺達は全ての可能性を考えて行動するしかない。
 とにかく四方に散って海底基地への入口を探そう」
「ああ、海岸道路の周辺にあるに違ぇねぇぜ」
「小さな事でも必ず連絡する事。いいな」
「ラジャー!」

ジョーはまず、例のパンクした車を救助した場所へと出向いてみた。
道路の外側は砂浜、内陸側には民家やマンションが立ち並んでいる。
比較的建物の高さは低いが、眺望を売りにしての高層マンションもいくつか建てられていた。
(こんな民家が密集している地域に…と思わせておいて、一般人を装って意外と大胆に出入りしているのかもしれねぇ。だとすれば……)
ジョーが眼を付けたのは最近出来た高層マンションだ。
新しいマンションばかりを狙って、潜入を試みる。
何箇所目かのマンションはセキュリティーが異常と言っていい程、厳しくなっていた。
出入りをしている人間は全て一般人の姿をしているが、女子供は1人もいなかった。
全員が男性で年齢は30代位、スーツやカジュアルなど思い思いの服装をしているが、マンションの出入口でセキュリティーカードをカードリーダーに当て、素早い身のこなしで自動ドアから中に入って行く。
自動ドアが開いている時間は、通常の自動ドアに比べると3分の1程度だ。
(おかしい…。普通のマンションにしちゃあ、必要以上にガードが固い……。
 事故を考えて自動ドアは長めに開放する筈だ)
ジョーは意を決すると、次に入ろうとして来る人間を眠らす事にした。
監視カメラの位置を確認しておく。
次にやって来たのは背の低いサラリーマン風の男だった。
ジョーは監視カメラの視界に入らない場所でそっと後方からその男の口を塞いで鳩尾に膝蹴りを入れて、声も立てずに眠らせた。
内ポケットを探ると例のセキュリティーカードが出て来た。
それをカードリーダーに翳し、素早く建物内に侵入する。
自動ドアには内側からの監視カメラが設置されている筈だ。
ジョーは眠らせた男の上着を拝借していた。
更に慎重を期した彼はカメラに映らないように顔を伏せながらエレベーターホールへと進んだ。
「ん?」
1台のエレベーターが異常な程地下まで進んで行くのが表示から見て取れた。
「やはり此処か?」
その時マンション内に警報音が鳴り響いた。
マンションの入口の監視カメラには顔認識システムが組み込まれていたのだ。
「しまった!バレたようだな…。……バードGO!」
ジョーは物陰でバードスタイルに変身した。
「こちらG−2号!基地への入口を発見した。高層マンションで偽装していやがった。
 侵入に成功したが、見つかってしまったらしい。お前達を待っていられなくなった。
 俺は先に行くが、バードスクランブルを発信しておく。そいつを追って来てくれ!」
「解った!気をつけろよ、ジョー」
健の明快な答えが返って来たが、ジョーには返事をする余裕が無かった。
ギャラクターの隊員が大型エレベーターから纏めて湧き出して来たのだ。
30人は居るだろう。
ブレスレットを長く押し、バードスクランブルを発信すると、ジョーは羽根手裏剣とエアガンで敵をバタバタと倒して行く。
エレベーターホールは狭い。
狭い場所では、人数が少ない方が有利なのだ。
敵は常に同士討ちを警戒しながら闘わなければならないからだ。
それを利用して彼は息も乱さず思う存分敵を薙ぎ払って行く。
闘う為に最大限に神経を研ぎ澄ます訓練を積んで来た。
これ位の人数は最早彼の敵ではなかった。
ジョーは壁や天井も使っての縦横無尽な活躍振りで30人からの敵を倒し、勇躍地下へ向かうエレベーターへと乗り込んだ。
気配を探りながら乗り込んだのだが、そこには仕掛けがあった。
エレベーターの上部から猛毒ガスが噴き出したのだ。
ジョーは口に手を当て、出来る限り呼吸(いき)を殺した。
(海底基地へ到着するまで持ってくれ…)
祈るような思いで、息苦しさに耐えるのだった。




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