『海底基地(後編)』

呼吸を数分間殺している訓練は科学忍者隊の年長組は既にこなしている事だった。
しかし、その間は仮死状態になる。
その間に襲われては一溜まりもないし、もし意識が戻った時にまだ毒ガスの中に在ったら、即生命の危機が訪れると言う危険な技でもある。
ジョーは15分間呼吸を殺せるまでになっていたが、これはある意味賭けなのである。
また、この事を後からやって来る健達に報せておきたい処だが、その余裕はなさそうだ。
健達なら大丈夫だろう、と信じている。
彼が案じているのは甚平の事だった。
彼の訓練は少し遅れていた。
健の事だ。甚平を地上に残す判断をしてくれるとは思うが……。
ジョーは薄れ行く意識の中でそれだけを考えていた。
エレベーターが大きな振動を伴い、停まった。
どうやら敵の基地に到着したらしい。
誰かが入り込んで来て、ジョーの身体を蹴り飛ばした。
身体を転がされたショックと毒ガスが薄れて来たのとで、ジョーの意識も覚醒した。
長い間息を止めていただけに、その呼吸をゆっくりと整える。
その間に敵の数を数える。
マシンガンを持った敵兵が50人以上はいる事が瞬時に解った。
自身が取り囲まれている事も。
ジョーはブレスレットに手をやり、バードスクランブルが発信され続けている事を確認する。
活路を拓く為に、彼の身体は瞬時に飛び上がり、縦横無尽に動き始めた。
羽根手裏剣とエアガンの妙技で敵兵をなぎ倒して行く。
その速さと言ったらまさに瞬速だ。
武器を取り出した瞬間には、敵がバタバタと倒れて行く。
そして体技も自分の持つ実力を最大限まで活用し、その全てを惜しげもなく披露して行く。
ジョーは構わずに基地の司令室を探って突き進んで行った。
そこにはベルク・カッツェの姿があった。
「カッツェ!途中の動力室を見て来たが、海水を取り込んでその浮力を利用して鉄獣メカを開発しようとしていたのか?!」
「くっ!コンドルのジョーめ。良くも此処まで入り込んで来たものだな。褒めて遣わすぞ」
「一般人を苦しめた海岸道路の非可視光線は必要以上に海岸に人を近づけないようにするカモフラージュか?
 そして海の浮力を軽くして潜水艦を近づけまいとしたのも同じ理由か?」
「その通りだ。良く其処まで理解したな。お前が其処まで利口だとは思わなかったな。
 しかし、鉄獣メカの浮力エネルギーとしての取り込みは既に済んでいる。残念だったな」
「残念なのはどっちかな?機関室には俺が時限爆弾を仕掛けたし、動力室は今頃仲間達が爆破している筈だ」
「その通りだ。ベルク・カッツェ、いい加減に観念したらどうだ?」
聞き慣れた頼もしい声が辺りに響いた。
ジョーはそれを聞いてニヤリとした。
「健、この基地は街に近過ぎる。壊滅的に破壊するのは不味いだろうぜ」
「ああ、だがジュンが面白い物を見つけてくれた。この基地は移動するんだ」
「成程……相変わらず機を見て敏なるお嬢さんだ」
ジョーに不敵な笑みが戻った。
「移動装置は既にジュンが稼動させている。
 街から充分に離れた所でゴッドフェニックスから超バードミサイルを撃ち込んでやろう。
 ジョー、寸分の狂いも許されない。超バードミサイルはお前に任せるぞ」
「ああ。待ってました!って処だぜ。しかし、良く甚平も此処まで来れたな」
「こんな事もあるかと南部博士が甚平に携帯用ガスマスクを用意させていたんだ」
「成程な。それを俺達にも携帯させてくれれば、戦力が落ちずに済むと言う物を……」
ジョーは少し捻くれたように呟いた。
「それもそうだな。後で博士に話しておこう。
 しかし、お前の活躍振りはとても戦闘力が落ちているようには見えなかったがな。
 良し、時限爆弾が爆発しない内にゴッドフェニックスに戻るぞ」
「ラジャー!」
4人は竜の待つゴッドフェニックスに向かって脱出を始めた。

ギャラクターは意のままに動かない基地の中でパニック状態を引き起こしていた。
「馬鹿者!何をしている!鉄獣メカを発進させるのだ!」
カッツェの怒号が飛ぶが、
「駄目です。発進出来ません!」
部下の悲壮な声が響くばかりだ。
「くっそぉ。にっくき科学忍者隊め!またしても!」
カッツェは身を翻した。
海底基地は自ら招いた種で海上に浮上してしまい、その時、衝撃音が響いて、ジョーが正確な狙いを付けて発射した超バードミサイルが命中した。
そこで大爆発を起こし、カッツェは小型ジェット機で飛び出した。
ジョーは小型ジェット機にも超バードミサイルを繰り出したが、残念な事に不発に終わった。
しかし、それなりの衝撃は与えた筈だ。
「くそぅ、カッツェめ。どこまで悪運の強い奴なんだ…」
ジョーは思わず計器に拳を叩きつけた。
『諸君。良くやってくれた。これから国際科学技術庁で海水の浄化を行ない、通常の濃度にまで戻す作業をする。人々のオアシスは君達のお陰ですぐに元に戻るぞ』
南部から通信が入って来た。
ベルク・カッツェを取り逃がしてしまい、重い心を抱えていた科学忍者隊にとって、少しは救いになる知らせだった。




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