『1mの剣(つるぎ)』

街中で潜入調査を行なっている時に事件は起きた。
敵の忍者風の連中達はビルの上で長い剣(つるぎ)を両腕で振り回していた。
「ジュン!危ねぇっ!」
ジュンを突き飛ばしたジョーの筋肉質だが薄い肉体には、鋼鉄をも切り裂くと言う恐ろしい剣(つるぎ)が投げ付けられ、一瞬の内に背中から胸に掛けて貫き通されていた。
さすがにバードスーツでもそれは防ぎようが無かった。
背中と左胸から血を溢れさせ、唇からも大量の血を喀いて、ジョーは倒れた。
「ジョー!しっかりして!」
剣はまだ彼の身体に刺さったままだ。
「ジュン……。この剣を敵に回収させるな……南部博士…の所まで、持ち、返れ……」
ジョーはそのまま意識を失った。
「健!お願い早く来てっ!」
泣き叫ぶようなジュンの声に健は異変を悟っていた。
「ジョーお願い!死なないで!」
やがて駆けつけた健は、ジョーが負った傷が致命的な重傷だと悟る。
「とにかく一旦任務は中止だ。ジョーをゴッドフェニックスで博士の所まで連れ帰るぞ。
 この剣も調べて貰う必要がある」
「ジョー……」
「多分肺をやられている。ジョーは俺が連れて行くからジュンは周囲を警戒してくれ」
健は彼の身体に刺さったままの剣(つるぎ)を刺激しないように気をつけながら両腕でジョーを抱き抱えた。
健の白い羽はあっと言う間にジョーが流す血で染まった。

剣は1mはあった。
ゴッドフェニックスの床に毛布を敷き、そこにジョーを横向きに横たえる。
毛布はすぐに血で絞れる程に浸った。
「ジョー、ごめんなさい。私がもっと注意を払っていれば……」
ジュンが両手で顔を覆った。
「ジュン、自分を責めるな。ジョーはお前の身代わりになってくれた。
 ジョーがやられていなかったら、ジュンがやられていたんだぞ」
「その方がどんなにか良かったか……。ああ、ジョー…私を許して…」
ジョーにすがり付くジュンを健は軽く平手打ちした。
「哀しんでいる場合ではない。俺達はジョーの分までこいつを攻略しなければならないんだ。
 ジョーなら大丈夫だ。奴の精神力は並大抵の物ではない筈だ」
「兄貴…。ジョーが呼んでる…」
甚平の声に健がハッとしてジョーの手を握った。
「け…ん…。敵はこいつを放つ時、その重さから、両腕を使うんだ……。
 つまり…胴に隙が、出来る、って事だ…。狭い場所に追い込んで、仲間と、合流、させ、るな…」
「解った。それだけで充分だ。それ以上喋るな。身体に毒だ」
健が止めた時にはジョーの意識は既に暗闇へと攫われていた。

「ジョーは重態だ…。肺を酷く傷めている。自発呼吸が出来ない状態だ。
 幸いにして心臓には掠った程度で殆ど傷を受けていない。だが…今晩が山だろう……」
南部博士が重々しく、眼を伏せて呟いた。
「敵の剣(つるぎ)の分析も進めている。
 ジョーの指摘通りこれはかなり重いので、相当の遣い手でも胴に隙が出来るのは間違いない」
南部はガラス越しに死と闘っているジョーを振り返った。
「ジョーが身を以って報せてくれた敵の弱点だ。
 次の敵襲までにどんな事をしてもこれを生かして闘う方法を練るのだ。
 分析結果が出次第すぐに連絡する」
「ラジャー!」
南部は忙しそうにジョーの病室へと入って行った。
様々な医療機器に囲まれたジョーの姿はガラス越しには良く確認出来ない。
無菌カーテンの向こうで酸素吸入器を付けている様子だった。
脈拍や呼吸を表す装置が辛うじて読み取れたが、決して良い数値ではないと言う事が素人目にも解った。
「ジョーは一見冷たいようだけれど、いつも私達を黙って守ってくれているのよね…」
「おいら、時々ジョーの事を協調性がないなんて言ったりしてたけど、ジョーが気が付いたら謝るよ…。
 だから助かってくれよぉ、ジョーの兄貴ィ!」
「ジョー、死ぬなよ。おら達4人でどうやって闘えって言うんじゃい?
 お前がいねぇなんて、おら我慢出来ねぇっ!」
「みんな…。此処で哀しんでいて何になる?ジョーの為にもまずは奴らを叩き潰さなければならん」
健が全員を鼓舞した。
「まずはあの武器の特徴が解るまでは訓練室で擬似訓練をして、胴に出来た隙の料理の仕方を考えよう」
「んだ、やるしかあんめぇ」
「ラジャー!」
全員がジョーの容態に心残りを持ちながらその場を離れた。

敵のフォーメーションを崩すのには、地下水路におびき寄せるのが良いだろうと言う結果となり、狭い水路の中を模した訓練ルームでの4人の戦闘訓練が開始されていた。
そこに南部からの通信が入った。
『分析結果が出たぞ。この剣に使われている金属は鉛だ。熱に弱いのだ。
 君達の持っている爆弾を上手く使えば武器を破壊する事は可能だ。
 それから君達のバードスーツに特殊な加工をして、衝撃とともに高熱を発するようにしたい。
 一旦私の処へ集まってくれたまえ!』
「ラジャー!」
そして、全員の訓練の成果と南部の作戦が功を奏して、今回の難敵を破る事が出来た。
「諸君、ご苦労だった。まだ予断は許さないが、ジョーの容態も少し改善の兆しを見せて来ている。
 とにかくすぐに帰還したまえ。ジョーは私が最良の医療チームを組んで必ず助けて見せる」
帰還した時、ジョーの意識はまだ戻っていなかったが、驚く程の精神力で持ち堪えていると言う説明があった。
「ジョーは子供の頃から何度も危機を脱して来た。大丈夫だ。私に任せたまえ」
南部の言葉に、健は嬉し涙を流すジュンの背中を軽く抱いた。
竜と甚平はそっとその場を離れ、ジョーが入れられているICUに隣接している監視室へと入って行く南部博士の後ろに付いて行くのだった。
2人だけにしてやろうと言うせめてもの思い遣りだった。




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