『ダイエット食品』

「ジョーの兄貴、何だか痩せたんじゃない?食欲もないみたいだし」
甚平が心配して訊ねた。
「いや、ちゃんと喰ってるぜ。レースで優勝したら副賞にリゾットが付いて来たんだ。
 熱湯に1時間浸けておくと暖かい物が食べられる。
 そいつを食べると腹が膨れるんで、此処では余り食べてねぇだけさ」
「そんなに沢山貰ったのかい?」
ジョーは人差し指を1本立てて見せた。
「えっ?1ヶ月分?」
「1年。365日分だ」
ジョーはげんなりとした顔をした。
「さすがに故郷の味でも、辛くなって来た…」
「兄貴に分けてあげたら?」
「ああ、3ヶ月分持って行かせたさ。竜にも持たせようと思ったら飽きるから1ヶ月分でいい、と抜かしやがった」
ジョーは大きな手提げ袋を持参していた。
「この中に半月分入っている。車に戻ればまだある。味は5種類だ。おめぇ達もどうだ?
 店で出せば甚平も楽になるんじゃねぇか?味は悪くねぇぜ」
「お姉ちゃんが帰って来たら相談してみるよ」
甚平はそのパッケージの1つを手に取ってみた。
「わっ!ジョーの兄貴。これ、ダイエット用の低カロリー商品だよ。
 こんなのを1つで済ませてたんじゃ痩せるのも当たり前だよ!」
「じゃあ、竜の奴も痩せるかもしれねぇな」
甚平の心配をよそにジョーは別の事を思ってニヤリとした。
「どうせ竜は他の物も食べてお腹を満たしてるに違いないわ」
話を聞いていたのか紙袋を抱えたジュンが入って来た。
「そんな物をレーサーへの副賞に出す方も出す方だよな」
「スポンサーがダイエット食品のメーカーだったんじゃないの?」
ジュンの言葉を聞いて、ジョーには思い当たる節があった。
「ああ…そういや、そうだったな……」
「全くジョーの兄貴ったら呆れるぜ。カロリー表示位ちゃんと見ろよ。
 基礎代謝が良過ぎるジョーがこんな物で食事を済ませていたら、痩せちまうのは当然じゃんか!」
「じゃあ、健の奴も痩せちまったかも…?」
ジョーが呟いた処へ健が「やあ!」と入って来た。
この処、任務がないので久し振りだ。
しかし、健には全く変化が見られなかった。
「ジョー、あれ、まだあるんだったら分けてくれないかな?
 1つじゃとても腹一杯にならないぞ」
「ああ、良かったら全部持って行け……。今、捨てようかと思っていた処だ」
「あれ?ジョー、随分痩せたんじゃないのか?」
健が心配そうにジョーの横のスツールに座った。
「これを1回1食しか食べてなかったみたいよ」
「お前そんなに小食だったか?」
健はいきなりジョーの腰からジーンズの中へ手を入れた。
「わぁっ!何をする?健!」
「指が5本入ってまだゆるゆるだぞ。それにジョー、ベルトの穴をドリルで空けたな?」
「じゃあ、ジョーは自分が痩せて来た事には気付いていたって訳じゃない」
「その理由に気が付かなかっただけさ。甚平、ジョーを太らせろ。
 リーダー命令だ。任務に支障が出ない内に早くな」
「ラジャー!ジョー、おいらが特別メニューを作って上げるよ」
「ああ…、解ったよ。だが言っとくが筋肉は落ちてないぜ。出動がなくても訓練は怠ってねぇからな。
 とにかく、俺を竜にはしないでくれよな」
ははははは…!と皆が笑った処でタイミング良く竜が入って来た。
「何だ?またおらのいない処でおらを肴に笑ってやがるな…」
のんびりとした声に再び『スナックジュン』には若い笑い声が響き渡った。




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