『心の殻』

BC島から戻って来て、傷の手当をしてからのジョーは口数が少なくなり、『スナックジュン』にも暫く現われなかった。
「ジョーの心の傷が、瘡蓋が剥がれるように剥がれて行ってくれたらいいのに…」
ジュンは1人になった暗い店で思わず呟いていた。
(ギャラクターの子だったからって、後ろ暗い事は何もないのよ、ジョー。
 私達にとっては、貴方は今までと何も変わらないわ……)
変わったのはジョーの方だ。
自分の過去を思い出した事でそれを負い目に思っている。
そして、それを隠す為に任務以外では姿を見せない。
(どんな事があっても貴方は私達の仲間よ。そうでしょ?ジョー……)
ジュンがたった1枚だけ持っているジョーの写真を撫でた。
写真を撮られる事を何故か嫌っていたジョーだが、今思えばそれも無意識の内に自分の忘れ去っていた生い立ちを思っての事だったのかもしれない。
(ジョーが死んだ事になっていただなんて……)
「可哀想なジョー…」
思わず口を付いて出た言葉。
ジュンはジョーに恋愛感情を持っていた訳では無かったが、仲間としての思いは強かった。
(貴方がいつも私達と距離を置いていたように感じたのは、貴方の過去が原因だったのね。
 ギャラクターの子だと思い出す前からずっとそうだった……。
 きっと何か感じる処があったのね)
ジュンは店の片隅にあったアコースティックギターを爪弾いた。
何故か哀しいメロディーしか出て来なかった。
(ジョー。もっと私達に心を開いて。生死を共にして来た仲間なのよ。
 これまで誰にも甘えて来なかった貴方には、少し位人に甘える事も許されてよ。
 私達に心を開いてくれれば、話を聞く位の事は出来るわ。
 その事で貴方の気が晴れるなら私達いつまででも貴方の話を聞くのに……)
ジョーはいつもその背中で仲間達を拒否している。
(ジョーは強いのよ。でも、本当はその強い殻の中には脆い壊れ掛けた心が眠っている筈。
 私達には何も出来ないのが切ないわ……。
 ジョーも恋の1つでもしたら変わるのかしら?)
ジョーがモテる事はジュンも知っている。
しかし、彼が自分の任務上女性に深入りしないようにしている事も解っていた。
本気で女性を愛してしまっては、任務に支障が出たり、自分が突然居なくなるような事があった時に相手を苦しめる事になってしまう。
だからこそ、ジョーは女性の方から愛想を尽かすような真似をして、相手を傷つけずに自分が傷付いて別れて来たのだ。
これは健には出来ない芸当だろう、とジュンは思う。
(大人なんだけど、子供…。傷付き易いガラスの心を持っているのが、ジョー、貴方よ……)
ジュンは何とかして彼を救って上げたいと思っていたが、それはギャラクターを倒さない事には果たせない事かもしれない。
(とにかく私達は1つになってギャラクターを倒すしか方法はないのね。
 平和な世の中を手に入れたら、ジョーも私達にもっと心を開くかもしれないわ)
ジュンは再びジョーの写真を撫でた。
「ジョー。復讐心に捉われずに自分を生きて。
 貴方はまだ18歳の少年なんだから……」
ジュンは人知れず涙を零すのだった。


※この物語は145◆『傷跡』と対になるようなお話です。




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