『同じ痛みを負って…』

眼の前で親が死んで行くのを目(ま)の当たりにするのは辛いものだ。
胸が張り裂けそうになる。
今でも苦しくて、何度でも悪夢に魘(うな)される。
そんな思いをするのは俺だけでいいと思っていたのに、健までもがレッドインパルスの隊長の死を見届ける事になってしまった。
『おとうさぁ〜ん!』と人目を憚らずに叫んだあいつの声が何日も耳から離れなかったぜ。
親子の名乗りを上げた時がその別れの時だなんて、何とも残酷な話じゃねぇか。
少なくとも俺には両親の死の前に共に過ごした時間があったのだ。
俺はレッドインパルスの葬儀の後、ジュン達に『心配だろうが今は健を1人にしておいてやれ』と言った。
俺ならばこんな時、1人にして欲しい。
健もそう思うに違いねぇ、と俺は思った。

あれから暫くの間、健は『スナックジュン』にも顔を出さなかったし、任務以外で逢う事はなかった。
実は俺自身、何度かあいつの家をそっと遠くから窺いに行った事もあるが、奴がそこに居ると言う気配だけを感じ取ってはそのまま踵(きびす)を返すと言う事を繰り返していた。
親父さんが遺した飛行場だ。
奴の居場所はそこしかない。
任務の時ですら、健は鬼気迫る形相でジュン達に慰めの言葉を掛ける暇を与えなかった。
俺はそれでいい、と思った。
慰めの言葉なんかよりも、時間と自分自身の精神力で立ち直って貰う事の方が健には重要な事なんだ。
ジュンや甚平、竜が強く心配する気持ちは解らないではなかったが、俺が影で奴らを制していた。
奴らは俺の事を冷てぇ男だと思ったに違いねぇ。
『健があんなに苦しんでいるのに…』とな。
だが、俺はそう思われても構わねぇのさ。
元々他人から良く思われようなんて気持ちはこれっぽっちも持ち合わせちゃいねぇからな。

両親が健在な竜を除いては、全員が何かしらの形で親とは別れている。
ジュンと甚平に至っては両親との思い出すらない。
思い出がない事も辛いだろうが、思い出があるのも辛いんだぜ……。
お互いに無い物ねだりをしているようなものだ。
どっちも不幸である事に変わりはしねぇが、仲間の存在がそれを救ってくれる事は確かにあるのさ。
ちぇっ、単独行動ばかりしていつも窘められている俺がこんな事を思うのはちゃんちゃらおかしいってもんだぜ……。

俺はギャラクターへの復讐心を生きる為の糧としなければ自分を律する事が出来なかった。
8歳の幼い俺が前を向いて生きるにはそれしか無かったんだ。
健はどうやって立ち直るのか、この俺が見守っていてやる。
8歳の時の俺と18歳のお前では立場が違う事は解っているが、健はきっと自分自身で決着を付ける筈だ。
お前が根底から立ち直るまでは、俺がサブリーダーとして立派におめぇをサポートして見せるぜ。

……同じ痛みを持った人間として、俺に出来る事はそんな事ぐらいしかないだろ?健。
科学忍者隊のリーダーとして、俺に頼る事は健の自尊心が耐えられねぇだろうからな。
そっとしておいてやるよ。
おめぇが痛みから立ち直ってしっかりと自分を取り戻した時、俺とおめぇはきっと今まで以上に解り合える、そんな気がするぜ。




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