『コンビネーション』

「健、運転を代わってくれっ!」
ジョーはナビゲートシートに座っていた健に声を掛けると、後部座席の南部博士を自動的にシートベルトで固定する装置のスイッチを入れ、エアガンと羽根手裏剣を取り出して窓を開け、半身を乗り出した。
健が隙間に滑り込むように両腕でハンドルを握り、ブレーキに脚を掛けたのを見届けて、ジョーは片手だけハンドルに残していた手を完全にフリーにした。
その間僅かに5秒の早業だ。
南部博士がISOに向かう途中だったが、たまたまテストパイロットの仕事があって南部に同行していた健がこの車に同乗していたのは幸いだった。
健もA級ライセンスを取得しているので、レーサーを職業としているジョーと同等とまでは行かなくても車の運転に関しては任せられた。
「健!おめぇはこれから大切な任務がある。怪我をしねぇように気をつけろよ!」
敵襲だった。
後方から射撃して来る多機能カーに向かって、ジョーは腰を捻ってエアガンの引き金を絞った。
狙い違わず運転席の男がシートに倒れるが、ナビゲートシートの男がマシンガンで狙って来た。
ジョーはすかさず羽根手裏剣を放ってその男を斃した。
多機能カーは横転して大破、爆発を起こした。
「ほ〜……。ヒヤッとしたぜ、ジョー」
車を停めて後方を振り返りながら健が呟いた。
「だが、妙だな。博士を狙って来るのに1台だけだとは…」
「ああ、おめぇの言う通りだぜ。まだ第2第3の攻撃があると踏んだ方がいい。急ぐぜ!」
ジョーは乱暴に道を外れて脇道に飛び、道が拓けていない近道を選んだ。
「博士!出来るだけ体勢を低く保って下さい!」
健は言い乍ら、ナビゲートシートから後部座席へと移動し、南部博士の左横へとピッタリと付いた。
ブーメランとトゲの付いた超小型爆弾『マキビシ爆弾※』を握り締めた。
「ジョー、敵が来たら俺に任せておけ」
「いや、おめぇはこれからテストパイロットとして一仕事しなければならねぇんだ。
 出来る限りの事は俺がやる。さっきも言ったように怪我をしねぇように気をつけていろ。
 だが、援護は任せたぜ」
ジョーはニヤリと笑うと、表情を引き締めた。
「健、おいでなすったぜ!
 博士、少し到着が遅れるかもしれませんが、奴らを山中におびき出します!」
「頼むぞ、ジョー」
博士の声を背中で聞いて、ジョーはステアリングを切った。
今度は先程の多機能カーが2台追って来た。
「森の中に入ればしめたもんだ。他の車を気にせずに応戦出来るぜ!」

ジョーは素早く車で駆け抜けた。
健と2人、バードスタイルに変身して敵の多機能カーを樹海のような樹の中で待ち伏せする。
南部博士が居る車を背に立っていた。
博士を車に固定するシートベルトは万が一の為に解除してあった。
敵の多機能カーはジョー達の車の行方を見失っていた。
樹が多いので飛ぶ事も出来ず、彼らが待ち受けている狭い1本道を2台縦列に並んで侵入して来るしか無かった。
これはジョーの計算でもあったのだが、彼らにとっては幸いした。
科学忍者隊が待ち受けているのに気付いたギャラクターは明らかに狼狽した。
車を捨て、武器を手に飛び出して来たが、2人の敵ではなかった。
ブーメランと羽根手裏剣が同時に飛び、各車に2人ずつ乗っていたギャラクターの隊員は2人によって倒された。
「健、急ごうぜ!俺が何とか時間に間に合わせてやる」
バードスタイルを解くと、ジョーがニヤッと笑って見せた。
「そうだな、折角の『本職』だ。滞りなくやりたいからな。頼むぜ、ジョー」
2人は固い握手を交わすと、南部博士を残した車へと瞬速で戻るのであった。

※『マキビシ爆弾』=出典:『僕たちの好きな科学忍者隊ガッチャマン』99ページ)




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