『バンド結成!?』

甚平が『スナックジュン』のカウンターの中でジョーや健の前でぶつぶつと提案をしていた。
ジュンは買物に出て不在だった。
「だからさぁ。デーモン5の方がイカしてる、なんてお姉ちゃんに言われて兄貴もジョーも平気な訳?」
「別に?」
「俺も気にしてないが…」
ジョーが詰まらなそうに、健は関心が無さそうに答えた。
「兄貴とジョーがバンドを組んだら、最強だと思わない?
 そしたらおいらがマネージャーになってさぁ……」
甚平が何やら指折り数えて計算をし始めたので、ジョーは此処はキッチリと言ってやらなければならない、と思った。
軽い拳骨をゴツンと甚平の頭に振らせたついでにこう言った。
「そう言うのを取らぬ狸の皮算用って言うんだ」
「大体俺達は科学忍者隊だ。人前に出る事はまずいだろう?」
健も続いて言った。
「でも、ジョーの兄貴はレーサーとして人前に出ているじゃんか?」
「それとこれとは違うぜ。それに俺達に一体何の楽器を演奏させようって言うんだ?」
「お姉ちゃんはギターを弾けるし、竜は力持ちだからドラムを叩いて貰ってさ。
 そうだなぁ〜、兄貴とジョーは……」
「科学忍法の訓練ならいくらでも構わんが、俺も楽器の練習なんてごめんだよ、甚平」
健の口調はジョーよりは優しい。
ジョーも決して本気で怒っている訳ではなく、甚平をからかいながら嗜めているだけだ。
「この忙しいのに、そんな暢気な話には付き合ってられねぇぜ。
 昨日のレースだって任務で潰れちまった…」
「俺だって昨日は航空便のバイトを振って任務に付いたから、ついに頚になってしまった…。
 って訳で、今日も宜しくな、甚平!」
オケラのリーダーが片手拝みをした。
「またぁ?お姉ちゃんが何て言うかなぁ?」
甚平は困り顔で、それでも今日のツケの金額を書き取っていた。
「やっぱり任務がある内は金儲けは無理かぁ……」
「馬鹿だなぁ、甚平。俺達にバンドを組ませてどうやって儲けようと思っていたんだ?」
健が笑い始めた。
「ああ言う世界ってのは競争が激しいんだぜ。
 演奏や歌は勿論だが、作った曲に人の心を揺さぶるもんがねぇとな。
 それに多少はルックスが左右するケースもある。
 後よぉ、いくら竜が力持ちだからってドラムは簡単に叩けるもんじゃねぇぜ。
 リズム感とスピード感がねぇとな」
ジョーが解説した。
「ルックス面では竜を除いて3人はクリアしてると思ったんだよねぇ……」
甚平は飽くまでも残念そうにしている。
「おいおい、またおらの悪口かよ?」
竜が現われるのはいつもタイミングが良い。
彼の事を語っている時にやって来る確率が高いのだ。
「別に。おめぇの悪口じゃねぇよ。
 甚平の奴が俺達にバンドを組ませようなんて変な妄想をしていやがったのさ」
「そりゃ無理だわさ。こん中で誰が歌うんかいのう?」
竜が一笑に付した。
「歌うとしたらジョーの兄貴じゃないの?お姉ちゃんが前にそう言ってたじゃん」
「冗談抜かせ!」
ジョーは早々に話から抜け出そうと立ち上がった。
「代金は此処に置いとくぜ」
「あ、ジョーお釣り!」
「余った分は健のツケから引いてやれ。何だか気の毒だからな」
全員が呆気に取られながらジョーを見送るのだった。
何故彼が健のツケをほんの少しでも払ってやる気を起こしたのか、全く解らなかったからである。
尤もジョー自身にも説明の付かない事なのであった。




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