『カッツェ追撃(後編)』

ブレスレットでの交信が不可能になった以上、科学忍者隊は孤立していた。
自分自身を信じるしかないのだ。
こう言った時の為の訓練は科学忍者隊の準備段階の時点から身体にも頭にも嫌と言う程叩き込まれて来た。
自分達はまだいい。
幼い甚平には相当キツイ事だったに違いない、とジョーは思う。
自分にも肉体面はともかく精神面ではキツイと思う事は何度もあった。
彼は人に弱みを見せないタイプだが、それでもそう思ったのだから、他のメンバーは健はともかく果たしてどうだったのだろうか?
いざと言う時は仲間の屍を越えて行かなければならない事もあるのである。
大人にも厳しいこの事を10代の少年に律して来た南部博士の思いは如何ばかりであったか…。
それを思う余裕は科学忍者隊には無かった。
ジョーはアウトロー的なタイプであったが、決して人付き合いは悪くなく、口には出さなくても忍者隊のメンバーを大切に思っていた。
だからこそ、与えられたミッションには出来る限り万全を期し、成功させなければならないと考えている。
彼に与えられた狙撃の任務は成功した。
しかし、本番はこれからだ。
ブレスレットに仕込んだ探知機で電波を追って行き、少しでもベルク・カッツェへと近づかなければならない。
そこまで全員が無事であれば、合流出来る筈だ。
日頃から生命の危険に晒される彼らの任務。
一瞬の気の緩みが生命取りになる事もあるのである。

ジョーはG−2号機に乗り込んで発信源を追い始めた。
健とジュンはバイクで追っている筈だ。
健のG−1号はG−5号機に既に格納済みである。
甚平のG−4号機もG−5号機と合体し、2人はそのコックピットからデータを追っていた。
危険なのは地上を行く3人だろう。
特にGメカに乗っていない健はいざとなったらゴッドフェニックスに拾って貰うしかない。
ジョーのブレスレットがピーッと音を立て始めた。
音は段々と警報音のように大きくなり始める。
(近いな……。しかし、早過ぎる。もしかしたら既に変装を解いているのかもしれねぇな)
ジョーはいつの間にか平原に出ていた。
G−2号機から飛び降りると、発信源を探り始める。
遮蔽物は何もない。
(こいつは罠かもしれねぇな……)
彼の勘は良く当たる。
気が付くとギャラクターの隊士どもが銃を構えて彼を遠巻きに囲んでいた。
(やはり、な……。健達はどうした?)
カッツェは変装を解いてはいなかった。
そのままの姿で現われた。
「ははははは、コンドルのジョー君。良く来たな。
 喜ぶがいい。ガッチャマンと白鳥のジュンは既に預かっている」
カッツェが右腕を上げると、地下から轟音がして十字架に磔にされたバードスタイルの2人がせり上がって来た。
「嫌な予感がしていたが、また当たっちまったか……」
ジョーは投げ出すようにカッツェに言葉を投げ付けた。
しかし、彼には解っていた。
上空で静止しているゴッドフェニックスが居る事を。
G−2号機とG−3号機が合体していないので、ゴッドフェニックスとしての機能は発揮出来ないが、甚平と竜は必ずこの状況を把握している事だろう。
ジョーは自分が居なくても健とジュンは自力で脱出するだろうと思ったが、カッツェに近づきたいが為に、2人を助けようとして近づいて行く素振りを見せた。
隙あらばその仮面を剥ぎ取り、その喉仏に羽根手裏剣を浴びせてやりたいと思っていた。
「近寄るな!近寄るとこいつらを1人ずつ撃つぞ!」
甲高い声でカッツェが喚いた。
「腰の銃を捨てて、両手を挙げろ!」
ジョーはわざとチッと舌打ちをして見せて、エアガンを腰から抜き、草むらに投げると見せ掛けた。
しかし、その瞬間、エアガンをくるりと回転させて、先端にドリルが付いたワイヤーを延ばした。
健の右腕を自由にする。
しっかりと射程距離を目測していたのだ。
(後は自分達で何とかしろ!)
ジョーは驚いているカッツェに向かって高速で走った。
しかし、彼が見ていた変装したカッツェは別の隊士と入れ替わっていたのだ。
ジョーがその男を蹴り倒した時、紫の仮面のベルク・カッツェは高笑いを残して既に上空に居た。
あの忌まわしいデブルスター円盤がクルクルと回っている。
「残念だったな。コンドルのジョー君」
忌々しい声がスピーカーから流れた。
ジョーはブレスレットの探知機を外し、怒鳴った。
「竜!甚平!聞こえるか!?」
『聞こえとる!』
『上にいるぜ、ジョーの兄貴!』
2人も探知機を外していたようですぐに返答があった。
「カッツェを追えっ!」
『解っとるわいっ!』
竜の返事を聞くと、自分達で磔から解放された健とジュンがジョーと背中合わせになった。
敵の包囲網が狭まっていた。
「すまん。2人共バイク毎落とし穴に嵌ってしまってな」
背中越しの健の声が悔しげだった。
「100人は居るぜ。1人頭30人と少しだ。いい憂さ晴らしになるぜ!」
ジョーはそう言うと、もう跳躍して羽根手裏剣を放っていた。
3人で100人を倒すのに、10分と掛からなかった。
「竜!そっちはどうだ!?」
健がすかさずブレスレットに怒鳴った。
『駄目じゃわ…。
 G−2号機とG−3号機が欠けたゴッドフェニックスではスピードで歯が立たんかった…。
 残念だか見失ったわい』
竜の無念そうな答えが返って来た。

「くそぅ!作戦は失敗だ…」
ゴッドフェニックスの中でジョーが悔しがった。
苦労して液体特殊弾を命中させただけに、相変わらずのベルク・カッツェの逃げ足の速さが悔しくてならない。
「いや…。俺の失策だ……」
健が述懐している処に南部博士がスクリーンに姿を現わした。
「今回の作戦は私の詰めが甘かったのだ。
 やはりこちらから『仕掛けよう』と言うのは時期尚早だった」
「しかし、博士……。
 このままイタチごっこを続けているだけでは、いつまで経ってもギャラクターは倒せねぇぜ」
「確かにジョーの言う通りだ。
 ギャラクターをこのままのさばらせている訳には行かない段階まで来ている」
「悔しいですが、いつも我々が後手後手に回っているのは事実ですからね」
健が唇を噛んだ。
「私は今まで君達に深追いを禁じていたが、これからは先手を打って出なければなるまい。
 諸君には危険な任務を言い渡す事もあるかもしれん。
 とにかく今日の処は早く戻って、休息を取りたまえ」
「ラジャー!」
ゴッドフェニックスは夕陽の中、三日月珊瑚礁へと急いだ。
後味が悪い任務だった。
結局彼らの苦労は徒労に終わったのである。
敗北感に包まれながら、帰還の途についた5人であった。




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