『博士の信頼』

南部博士の移動時の護衛には、科学忍者隊の中ではジョーが就く確率が最も高かった。
何故なら陸路を移動する事が多いからだ。
G−2号機は陸上しか走れない為、三日月珊瑚礁の秘密基地への移動には水陸両用車を利用する。
南部博士はISO職員が運転手を務める時には、特殊ガラスを使った車を利用しているが、ジョーが運転する時には彼を信頼している為か、普通の水陸両用車を使っていた。
ジョーは出来ればG−2号を使いたかったが、水中で使える仕様ではない為、止むを得なかった。
事実デブルスター2号に南部博士を襲撃された時には、攻撃を加える事もカーチェイスで避ける事も出来ず、海に転落している。
水陸両用車でなければ、南部博士を助けられなかったかもしれない。
あの時はデブルスター2号が放った薔薇の爆弾に気付いて咄嗟に車の下部を切り離した事で助かったのだが……。

あれ以来、南部博士には車に乗り込むと同時にシートベルトをしっかり着用して貰っている。
いつ危険なカーチェイスを演じる事になるか解らないからだ。
ギャラクターはISOの重要人物であり、科学忍者隊の指揮者でもある南部の生命を常に狙っている筈だ。
任務の為に常に南部の運転手を務める訳には行かないが、最近は物騒になって来たので、ジョーの時間が許す限りは他人任せにしないようになっていた。
車の運転テクニックに関して言えば、科学忍者隊の他の誰よりもジョーが適任であるのは公然なる事実である為、他のメンバー達もその辺りはジョーに任せていた。
しかし、今日はどうやらジョー1人では切り抜けられそうにない事態に発展しつつあった。
先程から上空でヘリコプターが何台も旋回している。
ジョーは油断のない眼を上空に向けた。
「博士!ギャラクターの奴らが狙っています!防弾チョッキを着けてシートに伏せて下さい!」
ジョーはナビゲートシートに置いてあった防弾チョッキを後方のシートに投げると、ブレスレットで健を呼び出した。
「健!応答しろ!」
『どうした?』
「ギャラクターの奴らが特殊ヘリで狙って来てやがる!応援を頼む!」
『解った!すぐに出動する!』
「念の為竜に言ってG−2号機を搭載して貰ってくれ!」
『解ってる!俺達が行くまで持ち堪(こた)えていてくれ!』
健の応答が切れた。
「博士!準備OKですね?」
「ああ…頼んだぞ、ジョー」
南部博士はジョーのドライビングテクニックを信頼している。
ジョーは敵機の銃撃を巧みに避けながら、海の上を渡っている見通しの良い橋の上に車を停車させた。
車の通りが無く、敵を引き付けるには丁度良い場所だった。
運転席の彼の姿は敵に見られている筈なので、今バードスタイルに変身する事は出来ない。
G−2号の姿になれば、敵を引き付けられるのだが……。
ジョーは瞬時沈思黙考すると、南部博士に「上着を貸して下さい」と頼み、ダッシュボードから伊達眼鏡を取り出してそれを掛けた。
「ジョー、くれぐれも気を付けろよ」
ジョーの意図を察した南部が心配そうに声を掛けながら彼に脱いだ上着を手渡した。
付け髭までは用意していなかったが、多少は敵の眼を欺いて時間を稼ぐ事が出来るだろう。
ジョーはその姿で車から飛び出し、自分が標的になって南部博士への注意を逸らそうと言う作戦に出た。

ギャラクターの兵士は案の定、ジョーを特殊ヘリで追って来た。
充分に引き付けた処で、ジョーは身を翻し、ヘリの操縦席目掛けて羽根手裏剣をお見舞いする。
博士を銃撃する為に、ヘリの窓は解放されていたのだ。
ジョーが放った羽根手裏剣は正確に相手の喉笛を貫いていた。
ヘリは操縦者を失ってよろめくように海へと落下して行く。
ついでに2台程仲間を巻き込んで行ってくれたのが有難い。
ジョーは応援が来るまでの間は南部博士の傍から遠く離れる訳には行かなかった。
身軽に車の近くまで駆け戻り乍ら、素早くエアガンを取り出すとその照準を定めた。
ジョーは既に3機のヘリを仕留めていたが、まだ2機残っている。
1機の操縦席に向かって爆弾を仕込んだ銃弾を放つ。
勿論、ジョーは確実に敵を仕留める。
そこに健のG−1号機が現われた。
「遅いぜ、健!」
『粗方片付いたようだな…。さすがだぜ、ジョー』
「後は任せたぜ。俺は南部博士を三日月基地まで無事に送り届けなくちゃならねぇ」
『解った!俺に任せろ!ジュン達も出張って来ている』
「よし!」
G−5号機にG−2号機を搭載して貰ったのは無駄に終わったが、ジョーは生身のまま充分過ぎる活躍で南部博士を救ったのだった。
上着を脱いで南部に返すと、ジョーはアクセルを踏んだ。
「ジョー、有難う。お陰で助かった」
「なぁに、こんな事は朝飯前ですよ。博士が一番良く知っているじゃないですか?」
「君の闘いに関する勘は天性の物だとしか言いようがない…。
 こうして目(ま)の当たりにすると今更乍ら驚かされる」
「俺だけじゃないですよ。健も、ジュンも、甚平も、竜も…。
 みんな大した奴らです」
ジョーは真っ直ぐに前を見た。
後方からヘリが爆発する轟音が追って来た。




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