『半年後の訪問者』

南部は別荘の執務室で母と男の子の2人の訪問を受けていた。
博士は別荘の従業員に言って、男の子の遊び相手をさせ、その間に母親と話す事にした。
「ジョーに逢いたい、と聞きましたが?」
「はい。私の不注意であの子がジョーさんの車の直前に飛び出してしまい、事故になったんです。
 警察の方はあの状態であの子が助かったのは奇跡だと言っていました。
 聞く処によるとジョーさんはレーサーだとか。
 警察でもその腕があったからこそ、助かったのだと。
 ……事故の後も病院に運んで下さったり、あの子に血液を提供して下さったりして、更には退院するまで時間を見つけてはお見舞いに来て下さいました。
 そして、実はお恥ずかしいのですが、私には入院・手術費の持ち合わせがなく、ジョーさんが費用を出して下さったのです」
「事故についての報告は本人から事務的に受けています。
 警察からもそのような事情は聞きました」
南部は離れた処で遊んでいるすっかり元気そうな男の子の様子に眼を細めた。
「それで……。あれからいろいろとあったので、なかなかお返しする機会が無かったのですが、漸く生活も落ち着きまして、警察の方からジョーさんの連絡先を教えて戴いたのです」
「あなた方に被害が無くてまずは良かった…。
 今だから言えますが地球は滅亡寸前でしたからな」
「お陰様で……。そこでジョーさんに立て替えて戴いた治療費をお返しに上がったのです。
 本来は夫も来るべき処なのですが、仕事で都合が合わず…、どうかこの非礼をお許し下さい。
 警察の方も自分に非がない事故なのに、これだけの対応をする若者はなかなかいない、と言っていました。
 博士のご教育が良かったのですね……」
「いえ、あれは13歳までは此処にいましたが、その後は独立しました。
 私が引き取ったのは8歳の時ですから、厳密には5年程しか共には暮らしておらんのです。
 それからも折があると仕事を頼んでいたので、逢ってはいましたがね……。
 私は独身ですし、至らぬ処も多々あったと思っています」
「それで……、どこに行けばジョーさんにお逢い出来ますか?」
「ジョーは……もうおらんのです……」
南部は眼を伏せた。
「え?」
「ギャラクターが起こした一連のニュートロン反応の中で、彼は…犠牲となりました」
そうとしか説明のしようが無かった。
彼は科学忍者隊でしたとは言えない。
「あ…あのお若くて快活な方がお亡くなりになったなんて……」
母親は両手で顔を覆い、嗚咽を堪えた。
「ジョーがいくら立て替えたのかは私は知りません。
 そう言った話は本人も全くしなかったのです。
 どうかそのお金は坊やの将来の為に使って上げて下さい。
 そうすればジョーも喜ぶと思います。
 この別荘の一角に彼の墓がありますが、参られますかな?
 坊やの精神衛生上宜しくないとあなたが判断されるのなら、やめておいた方が良いでしょう」
「私はお参りしたいのですが、坊やにはジョーさんが亡くなった事を伝えたくありません。
 お仕事で遠くに行ったと伝えておきます。
 日を改めて私だけお墓参りに伺ってもご迷惑ではないでしょうか?」
「では、坊やと遊んでいるあの職員に後で連絡先を伝えさせましょう。
 彼に連絡を取ればいつでも墓参りが出来るよう言っておきますから」
南部博士はそう言うとソファから立ち上がった。
「申し訳ないが、私はこれから国際科学技術庁まで行かなければなりません。
 こう言う時はジョーが送り迎えしてくれたものなのですがね……。
 私も寂しくなりましたよ……」
そう言い残すと、母親に一礼し、南部は坊やと遊んでいる職員と話をしてから去って行った。




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