『心残りは残さず』

ジョーは死を覚悟して、ヒマラヤ行きの飛行機のワンウェイチケットを購入した。
出発までに少し時間がある。
任務を外された今、単身クロスカラコルムに行ってギャラクターの基地を出来る限り叩き潰し、1人でも多く道連れにして、華々しく孤高のまま逝ってやろうと決めていた。
しかし、突然居なくなる自分に仲間達がどう思うか、そう思うと胸が痛んだ。
先程自分の中では彼らに別れを告げ終えていた。
G−2号機を託したその時に。
ただ1人別れをきちんと告げていない人物が居る。
ジョーは空港のロビーで手紙を書いた。
南部博士宛である。
この世界中が混乱している中、郵便物が無事に届くのかは解らなかったが、それでも何か形にしておきたかった。
心の中を整理する意味もあった。

手紙にはこれまでの感謝と勝手な行動についての詫びを書いた。
そして、テレサ婆さんへの手紙を同封した。
健とジュンが結婚する時に頼みたい事があったからだ。
それとは別にテレサ婆さんの誕生日に彼女が大好きなガーベラの花束が届くように手配もした。
手紙はエアポートでは書き切れず、続きは空の上で書いた。
彼は用意周到に短い時間の中で、自分に出来得る事を全て済ませたのだ。
後は時間がある物なら、もう1度仲間達に逢ってきちんと別れが言いたかった。
しかし、それは叶わないだろう、と彼は覚悟を決めており、割り切ったつもりだった。
それが叶わないのであれば、せめてやるべき事だけは片付けておこうと思ったのだ。
科学忍者隊のメンバー1人1人への手紙を書く時間の余裕はない。
南部博士への手紙の中に、その気持ちを込めた。
この手紙はニュートロン反応による混乱を経て、半年近く経って、漸く南部の元に届いたのだった。
彼は手紙を投函した後、仲間達と再会する事が出来、直接遺言を告げる事が出来た。
短い時間に思いの丈をぶつけた。
自分に残されている時間が短かった事、もう体力的に長くは言葉が続けられなかった事から、簡潔な遺言となった。
だが、ジョーの気持ちは4人の仲間に重く伝わった筈だ。
これで思い残す事はない…。
彼はそう思った
将来の手配も終えたし、仲間に本部の入口を告げた。
もう、俺のやるべき事は全て終わった……。
仲間達を戦地に赴かせた後、残されたジョーはそう思った。
(俺の生き方は満更でもなかったさ…。これでギャラクターは滅びる。
 科学忍者隊によって…地球は必ず、救われると…信じて、る……。
 もういつ死が訪れてもいいぜ。心残りは残さなかったつもり、だ……)
そして、彼は永遠にその瞳を閉じた。


この物語は、072◆『永過ぎた春を越えて』、123◆『再会』と連動したような話になっています。




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