『砂漠の蟻地獄』

大鷲の健とコンドルのジョーは砂漠に立っていた。
傍にはそれぞれのメカがある。
「この辺りで見失ったんだ。間違いねぇ」
「だとすれば、隠れた場所は……」
「砂漠の下しかあるめぇよ」
「そう言う事だな……」
「俺達のメカではどうにもならねぇ。
 G−4号が適しているが、甚平はまだ骨折が癒えてないから動けねぇし、一体どうしたらいいんだ?」
ジョーが頭を抱えた。
G−4号機はゴッドフェニックスには格納されていたが、先日の出動で右肩を骨折した甚平は今回はまだ出動していない。
「奴らは一々メカ鉄獣を使ってこの基地から出入りしているのだろうか?
 余りにも目立ち過ぎやしないか?」
いつもながら冷静過ぎるリーダーが問う。
「そう言やそうだな。どこかに秘密の出入口があるって事か……。
 考えられるのはオアシスの近くか……?」
ジョーが顎に手を当てた。
「とにかく二手に別れて捜索しよう。ジュンと竜には俺から連絡しておく」
「ラジャー」
2人は自分のメカに颯爽と乗り込み、発進した。

暫く走っただろうか?
G−2号機のタイヤは特殊タイヤなので、砂漠でも快適に走る事が出来た。
しかし、ある場所で突然スリップし、車体が揺れ始めた。
「?!」
ジョーが気付くと巨大な砂漠が蟻地獄のような様相を見せ、擂(すり)鉢状になっている中心部にG−2号機が吸い込まれようとしていた。
ジョーはアクセルを踏み、ステアリングを切ったが逆らう事が出来ない。
「健!巨大な蟻地獄に巻き込まれた!
 逃れようがねぇっ!このまま吸い込まれたと見せ掛けて中に潜入する!」
『解った!俺は2人と合流した!蟻地獄が消えない内にゴッドフェニックスで突入する!』
「よし、解った!」
健の答えはいつでも頼もしい。
身体能力や戦闘に関する勘は同等の力を持っていると思うが、彼のリーダーシップには敵わない、とジョーは密かに思っている。
そして信頼もしていた。
健もまた同様にジョーの能力を充分に認め、共に肉弾戦に赴く時など大きく信頼していた。
ジョーと行動を共にしていれば、自身の身体だけを守り、作戦に、戦闘に専念する事が出来るのだ。
『健!俺はもう吸収される寸前だ!早くしねぇと蟻地獄が消えるぜっ!』
この通信を最後のジョーとは連絡が取れなくなった。
強力な妨害電波が流れているに違いない。
「竜!急げ!あそこだっ!」
ゴッドフェニックスの眼前にはジョーが呑み込まれたばかりの蟻地獄が平静な状態に戻ろうとしていた。
ちょっと抵抗はあったが、無事にゴッドフェニックスでの突入が完了した。
「ジョー!聞こえるか?」
『ああ!今取り込み中だ!』
ジョーの元気な声の背後からはエンジン音とコンドルマシンのガトリング砲の凄まじい音が聞こえている。
「みんな、ジョーの援護だ!行くぜ!」
健がトップドームへ向かい、ジュン、竜も続いた。

ジョーはガトリング砲で敵兵を一斉争覇し、メカから飛び出した。
右手にはエアガンを、唇には羽根手裏剣を用意して、油断のない眼で前へと進んで行く。
時折わらわらと現われる敵を武器や自身の肉体から繰り出す技で倒しながら、彼は慎重に音も無く走った。
やがて遅れて突入して来た健達も追い付いて来るに違いない。
ジョーはある一室の前で足を止めた。
彼の勘は馬鹿には出来ない。
猛禽類の嗅覚なのか、それとも生まれ持ったギャラクターに対する特別な勘が働くのか。
中を窺うと、そこが司令室なのが解った。
「健!司令室を見つけたぜ!」
ジョーはブレスレットに低い声で囁いた。
『解った。俺と竜がすぐに行く。ジュンは発電室に忍び込ませた』
「相変わらず用意のいいリーダー様だ」
ジョーがククッと抑えた声で笑った。
『俺達が行くまで待機していてくれ』
「すまねぇがそうは行かなくなった!発見されたぜ」
ジョーはそう答えると跳躍し、エアガンを敵に向けて撃った。
三日月のキットが次から次へとギャラクターの隊士達の喉や仮面を突き、何人かが司令室のドアへと倒れて雪崩れ込んだ。
「何事だ!」
と振り向いたベルク・カッツェが仮面の下のピンク色に彩られた唇を歪ませた。
「くそぅ。科学忍者隊・コンドルのジョーか!それ、早く片付けんかっ!?」
カッツェがマントを払うかのように右腕を振り上げた。
彼の周囲に居た隊士達が一斉にマシンガンをジョーに向けた。
「そう簡単にやられて溜まるか!」
ジョーは隊士達の間を素早く駆け抜けた。
その一瞬とも思える時間の間に、彼が通り抜けた後には隊士達が山となって重なっていた。
相変わらずの早業である。
羽根手裏剣を喉や首に浴びている者、エアガンで倒された者、ジョーの鋭いパンチや蹴りなどが綺麗に決まって倒された者など、様々だった。
こんな事を一瞬の内にしてのける事が出来るだけの訓練を積んで来たのだ。
「こんな小僧一匹を倒す為に何をやっておる?」
「1人じゃないぞ。残念だったな、ベルク・カッツェ!」
ジョーが闘いに夢中になっている間に影のように現われたのは大鷲の健とみみずくの竜だ。
益々形勢が悪化した事を見て取ったカッツェはすぐ後ろに飛び退った。
上から透明なカプセルが下りて来る。
ジョーはエアガンの三日月を発射させたが、強化ガラスに虚しく跳ね返された。
カッツェはまるでテレポーテーションでもしたかのように、そのカプセルからサッと姿を消した。
「くそぅ。此処まで追い詰めながら!いつも乍ら逃げ足の早い奴め!」
ジョーが鋼鉄の床を叩いて悔しがる。
「ジョー、俺達も脱出だ!この基地は間もなく爆発する!」
「おら、結局何もしなかったぞい。
 折角活躍出来るかと思ったら、行く先々、全部ジョーが片付けちまってるんだもんな」
走り始めながら竜がぼやいた。
「竜!油断をするな。まだ残兵がいる筈だ」
健が言ったその矢先にジョーが竜を襲おうとしていた隊士を羽根手裏剣で倒した。
「竜!危なかったぜ。油断をするな!」
ゴッドフェニックスに残っている事が多い竜は、実戦に出る事が少ないせいか、どこかおっとりとしている。
しかし、そこが憎めない。
切れれば怖いが、普段から大体穏やかでのんびりとした男だった。
こう言った場所では一分の油断も許されないのだ、と言う事を健とジョーに教えられるのであった。




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