『ある晴れた日に』

科学忍者隊の5人は任務を離れて、休暇を楽しんでいた。
珍しく健の飛行場に集まり、先日骨折をした甚平の快気祝いをしようと言うのだ。
『スナックジュン』では甚平が休まらないだろう、と言い出したのはジョーだった。
ジョーは自分の車から大きなレジャーシートを取り出して竜と2人で敷き始めた。
「ジュンと竜に手伝わせてサンドウィッチを大量に作って来たぜ。それとな……」
ジョーはトランクから籠を取り出した。
「これはテレサ婆さんからの差し入れだ。『オニギリ』が入っているらしい」
此処で待っていただけの健は場所を提供する以外には、何もしていない。
「コーヒーでも入れて来ようか?」
「いや、それも作って水筒に入れて来た。アイスコーヒーだがな。
 それとジュンがオレンジジュースを差し入れてくれたぜ」
「随分準備がいいんだな」
「どうせおめぇはオケラだろ?手を洗うのに流しだけは貸せよ」
「ああ」
「……ジュン、紙皿と紙コップを用意しろ」
「解ったわ」
ジュンは開けっ放しのG−2号機のトランクからそれらが入った袋をいくつか取り出した。
「ジョーは張り切って全部仕切ってるな」
ジュンを手伝い乍ら、健が嬉しそうに囁いた。
「珍しいわね…。この頃、休日は1人で居る事が多いのに……」
「それだけ甚平の怪我を自分が付いていながら、と後悔しているようだな」
「ジョーのせいじゃないのにね。さ、行きましょ!」
甚平は眼に涙を浮かべていた。
「おいらのせいで迷惑を掛けたのに、みんなにこんなにして貰って……。
 何かいいのかな〜?って思っちゃうよ」
「いいんじゃない?あなたは私達にとっては弟みたいなものだから。
 甚平の事をそう思ってるのは私だけじゃなくてよ」
ジュンが甚平の肩を抱いた。
「それにしても良く晴れたな。日当たりがいいから喰い物が傷まねぇ内に喰っちまいな」
紙コップにはまずオレンジジュースが注がれた。
「乾杯!」
健の家で水道を借りて手を洗った後、5人はレジャーシートの上に思い思いに座り、飲んだり食べたりお喋りをしたり、と楽しい時を過ごした。
「こんな事をするのって随分久し振りね。まだ訓練をしてた頃に1回あった位だわ」
「そうだな……。俺とジョーはそれぞれの特殊訓練も受けていたし、そんな暇は無かったしな」
「平和が来たら、おいら達こんな事いつでも出来るようになるよね?」
「当たり前じゃわい。その為におら達は闘ってるんじゃわ」
ジョーはボーっと4人のお喋りや食べっ振りを眺めていた。
「ジョー、お前もボーっとしてないで喰えよ」
健がお握りを手渡した。
「テレサ婆さんお手製だぜ」
「『オニギリ』ってよ。何か得意じゃなくてな」
「ありゃ?イタリア人には向かんのかいのう?日本人の血も入ってる癖に」
「折角なんだから1つは食べてみたら?テレサお婆さん喜ぶわよ」
「そうだよ、ジョーの兄貴」
ジョーはお握りをまだ受け取っていない。
「こ…これには何が入っているんだ?」
「塩で味を付けた米の中に焼いたたらこか鮭、昆布煮、おかか、梅干のどれかが入っている。
 どれが入っているかは食べてからのお楽しみだ」
健が笑ってお握りを押し付けた。
「面白いから、梅干が出ないかな〜?」
甚平が本当に面白そうに言った。
(焼いたサルモーネなら大丈夫だと思うが……)
全員の注目を浴びてしまったジョーは仕方なくそれを受け取り、齧った。
「何だ、何も入ってねぇじゃねぇか?」
「もっと中だ。お握りと言うのは真ん中に具が入っているんだ」
健が言う。
その表情に少し笑いを堪えている気配がある事に迂闊にもジョーは気付かなかった。
「うっ!?」
ジョーは突然咳き込んだ。
口の中に独特な酸っぱさが広がって行く。
健は最初からそのお握りに梅干が入っている事を知っていたのだ。
テレサ婆さんはきちんと同じ具の物を揃え、並べて籠に入れていた。
「ジョー、大丈夫?」
ジュンが彼の背中を擦った。
骨が浮き出てゴツゴツとした感触にジュンは一瞬ハッとしたが、黙っていた。
ジョーはまだ咳き込んでいる。
「お主、梅干は初体験じゃったんかいのう?」
竜が腹を抱えて笑った。
「は…謀ったな?健!」
ジョーが恨めしそうな眼で健を睨みつけた。
「おお、コンドルのジョーの睨みはキツイな。まあ、コーヒーを飲んで口直しをしな。
 こっちは間違いなく鮭だから心配するな」
健はもう1つお握りを差し出したが、ジョーはいやいやをするかのように首をプルプルと左右に振った。
「もう騙されねぇぜ!俺はサンドウィッチでいい!」
「はははははは…!」
他の4人の朗らかな笑い声が響いた。
良く晴れた空が、5人の若者達を暖かく見守っていた。




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