『その場所で〜再会』
目覚めた時、自分はまだ生きているのか、と思った。
仲間達と別れた時と同様の草の上に自分が横たわっていたからだ。
しかし、手の中には健のブーメランは無かった。
「ジョージ!気が付いたか?」
聞き覚えがある声がした。
急激に辺りが光に包まれる。
しかし、もう眩しくはなかった。
その身体には傷口も血を流した跡も残ってはいなかった。
ジョーはゆっくりと起き上がる。
声の主はやはりアランだった。
「俺は…死んだんだな。だとすれば此処は『あの世』とやらか?どうしてお前が此処にいる?
俺は地獄へ堕ちたんじゃねぇのか?」
「此処は赦された者が来る場所だよ」
アランの横にはあのデブルスター2号の素顔があった。
「あ、サーキットの!」
「貴方が私をサーキットでずっと待っていてくれた事を知ってたわ。でも、行けなかった…」
「俺はあんたの…そしてアランの生命もこの手で奪ったんだ…」
「この子はギャラクターを脱け出そうとしていた。
そして、自分の母親が両親を殺して苦しめた『コンドルのジョー』の手によって葬られた事で『赦された』のだ」
「私の母親もデブルスターだったの。
あなたの両親を殺し、あなた自身を殺そうとしたのよ。
私はその血を引いていたが為に、薔薇爆弾での殺しを教え込まれた……。
ギャラクターの子で正義の為に死んだのは貴方だけよ」
「ジョージ。私達は此処でずっと気を揉んでいた。
病気と立ち向かい最後の力を振り絞って生きようとしている姿を見ていた。
気に病む事なんかない。私こそ卑怯だったのだ。お前を利用して死んだのだから!」
ジョーはアランの言葉を聞いて愕然とした。
「神父は自死を許されない。だから、あの時殺されても構わない、と思って銃を取ったのだ」
「アラン……」
「苦しめてしまって済まなかった。私は神父としてあるまじき行動をしてしまった……」
「何故俺は『赦された』んだ…。ギャラクターと闘う為だったとは言え、多くの人命を奪って来た。
俺は…地獄へ堕ちても構わねぇと思っていたんだ……」
「しかし、誰かがやらねばならなかった。そうだろう、ジョージ」
「………………………………………」
「お前が地球を救ったんだよ。最後の力を振り絞って敵の首領に投げたあの白い羽根の武器で!」
「!?」
「その武器が地球を壊滅させる装置の中に滑り込み、歯車を狂わせたのだ。
ジョージ、長い間の苦しみからこれで漸く解放されたな。
お前は充分に赦されるだけの苦しみを味わって生きて来たんだ。もう、いいんだよ……」
アランが慈悲深い表情でジョーを見つめた。
「お前とその子を殺したこの俺を許す、と言うのか?」
「私もまたそれで救われたのだ。許すも許さないもない。今はこうして2人一緒だ。
それに、ジョージをより一層苦しめてしまった私こそが責められるべきなのだから……」
ジョーは自分のジーンズの右太腿をそっとなぞった。
そこにある隠しポケットを開けてみると、まだ羽根手裏剣が1本だけ残っていた。
「これが…地球を……」
ジョーの瞳が明るさを取り戻した。
「俺が……地球を……?」
「そうだ。だからもう過去の事を苦しんだりするのはやめるのだ、ジョージ。
さあ、早くあそこの小高い丘の上の花畑に行くがいい。ご両親が待っている」
「俺の両親が…?まさか!ギャラクターの大ボスだったと言う親父とお袋が!?」
「そうだとも。ご両親は自分達のしている事の愚かさに気付いてギャラクターを脱けようとした。
それは愛する子供の為にやった事だ。子供の将来を考えて行動に出たのだ。
だから……『赦された』。
だが、息子を苦しませてしまったと、今も悔やんでおられる」
ジョーは手の中の羽根手裏剣をじっと見つめた。
「それで…いいのだろうか?健やジュンや甚平は両親に逢えないのに、俺だけ…」
「いいんだよ、ジョージ。彼らにだっていつかは再会の日が来るんだ。
お前は若くして天に召されたから『その時』が早く訪れただけだ。
早く行け、ジョージ!」
アランに軽く背中を押された。
小高い丘はジョーの足ならすぐに登り切る事が出来るだろう。
そこに親父とお袋が!?
ジョーは地を踏んでいる感触をじっくりと確かめながら一歩ずつ前へと進んで行った。
やがて光の中に1組の男女のシルエットが浮かび上がった。