『友に託す思い』

健の親父さんが生きているって聞いた時はまさかと思ったぜ。
案の定、ベルク・カッツェの陰謀だったが、カッツェはレッドインパルスの隊長と健の関係を知らねぇ筈だ。
あの野郎、罪な事をしやがって!
まだ健の心の傷は癒えていなかったんだ、それなのによ……。
あいつは人の心を手玉に取りやがる。
俺は許せねぇ、許せねぇんだ!
俺の親父とお袋が殺されたのもあいつの裁量に違ぇねぇ。
俺はこの時の事で益々その感触を強くしていた。
ギャラクターとの因縁の中で、健も俺も一番大切なものを喪った。
この遣る瀬無い思いを吐き出す矛先は、健、おめぇも俺も一緒なんだ……。
この同年の相棒と俺は図らずも同じ境遇になっちまった。
俺達は性格が全く違うが、気持ちは少し近づいたんじゃねぇのかな。
健は自分が親父さんを死なせたと思っている分だけ、俺とはまた別の重荷を背負っちゃいるがな。

俺は俺で…最近任務の中で思い出しちまった。
自分の信じられねぇ過去をな。
その場には健もいた。
あいつは俺の為にその場に立ち会ってくれたんだ。
だが思い出した事実が余りにも重過ぎた……。
俺があの憎っくきギャラクターの子だって!?
親父とお袋は確かに俺が小さい頃から不在がちだったが、まさかそんな……?
信じろ、と言う方が無理な話だったぜ。
Bc島に行ってその事を確認せざるを得なかった。
墓守の話、そしてそれから後のギャラクターからの追撃。
健もギャラクターには因縁があるが、俺はそれよりもっと深い因縁と重荷を背負って生まれて来たんだな。
運命に翻弄されている俺達は、思ったより似たもの同士だった、って訳だ。
科学忍者隊と言う組織の中で、リーダーとサブリーダーと言うみんなを引っ張って行かなければならない役割を果たしている俺達だが、健のリーダー振りには恐れ入ったぜ。
あいつは自力で立ち直り、私怨を断ち切った。
そこが奴の俺とは違う処だ。
俺は結局私怨を最期の瞬間まで抱えたままだった。
俺が生きている内にギャラクターとの闘いが終われば話は違って来たかもしれねぇが、俺には残りの時間が無い事が解ったからな。

人の心と生命を虫けら同然に扱うベルク・カッツェには一泡吹かせてやりたかったぜ。
あの羽根手裏剣が当たっていればな……。
俺の思考は錯綜していた。
此処はギャラクター本部の入口。
漸く長い階段から這い出た俺は、力尽きて石像の下で仰臥していた。
俺は時折波のように引いて行く意識の中で、これまでの様々な出来事を頭に思い浮かべていた。
そろそろ潮時らしいな。
人は死ぬ時、走馬灯のようにそれまでの人生を見るって言うじゃねぇか。
まさに今の俺がそうなんじゃねぇのか…?
だが、まだ死ぬ訳には行かねぇんだ。
科学忍者隊に…健に…、この本部の入口を教えるまではな。
俺のこの思いを奴らに託さなければ…。
このままでは死んでも死に切れねぇ。
敵の『ガッチャマン』と言うさざめきを聞いて、俺は力の限り叫んだ。
「ケーン!ケーン!」
思いの外近くにいるらしいぜ。
俺の声が届いてくれるといいが……。

俺は胸や腹にマシンガンの弾丸(たま)を無数に受けていた。
こんな弾丸なんか喰らわなくてもどうせ死んで行く運命だったのによ。
奴らもとんだ無駄遣いをしたもんだ、へへへ……。
無理に大声を張り上げた事でまた肺に亀裂が入ったらしい。
俺は肺から込み上げて来るものを堪え切れずに吐き出した。
もう…大声は出せねぇ……。
誰か…。俺の声を誰か聞き届けてくれ……。
その時、近づいて来る複数の足音が聞こえた。
1人はジュンか?
追われている!?
ジュンは地を這って転がりながら銃弾を避けていた。
俺は力を尽くして立ち上がり、太腿の隠しポケットを漁って、最後に残っていた2枚の羽根手裏剣の内の1本を敵に投げ付けた。
狙い違わず敵は羽根手裏剣の餌食となって斃れ、ジュンが「ジョーっ!」と叫んだのが聞こえた。
しかし、俺にはもう立っている力は残されちゃいなかった。
全身から力が抜け、俺は地に崩れ落ちた。
ジュンが俺の声を聞きつけてくれたか。
何となくそんな気がしたぜ。
ありがとよ…。
これでもうすぐ俺は役目を果たせるな。
後は健に『託す』だけだ。
健よ、早く来い……。
早くしねぇと、俺は力尽きちまうぜ。


※この話は、054◆『長い階段』と047◆『別離の前に』の間を穴埋めするような物語になっております。
 なお、羽根手裏剣の残りが2本だったのは、172◆『その場所で〜再会』で、天国に1本持って行かせる為です。




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