『砂嵐』

「何て事だ。街が消滅してやがる……」
ジョーは思わず呟いた。
レースの帰りに通りかかったある街である。
レースには勿論優勝して、後部座席にトロフィーと賞金がある。
しかし…、この街の荒れようは……。
まるで全てが砂と化して、街全体が砂漠化したようだった。
時折砂嵐が起こった。
昨日レース場に向かった時は異常なかった筈だ。
南部から出動命令は出されていない。
この街が壊滅状況にある事を知らないのだろうか?
「こちらG−2号!南部博士応答願います」
『ジョー、何かあったかね?』
「博士、知らないんですか?ミドルシティが壊滅状態になってますよ?」
『何だと!?』
「やっぱり博士はご存知なかったんですか?こんなに被害が出ているのに……。
 レースの帰りに偶然通ったんですが、昨日は異常ありませんでした。
 今は見渡す限り街が砂漠のように枯れ果てています」
『ジョー。写真を撮って電送してくれ。君はそのまま街の中を探ってくれたまえ。
 充分に気をつけるのだ。状況を把握次第科学忍者隊を出動させる』
「ラジャー!」
ジョーはステアリングを切って、バードスタイルに変身し、街中を探索し始めた。
建物は粉々に砕け散って砂のようになっている。
時折強い風に煽られて砂が舞った。
「おかしいな。人っ子1人いねぇ……」
ジョーが1人ごちたその時、マンホールの蓋が開いた。
「お兄ちゃん、そんな所にいたら危ないよ!早くこの中へ!」
見ると10歳位の子供が怯えた顔を覗かせていた。
ジョーは誘われるままにマンホールの中に入った。
中にはその子だけではなく、怯え切った市民達が避難していた。
「一体何があったんです?」
「あんた、ギャラクターか?」
群集の1人が訊いた。
「違うよ。このお兄ちゃんは科学忍者隊だよ!そうでしょ?お兄ちゃん」
「そうだ、たまたま通り掛かった……。科学忍者隊G−2号だ」
「科学忍者隊が来てくれた…」
「科学忍者隊だ…」
人々の間に騒(ざわ)めきが沸き起こった。
「一体何があったんだ?」
ジョーは最初にこのマンホールに引き入れてくれた少年に訊いた。
「変な鉄の怪獣がやって来て、街に向かってビームを沢山撃ったんだ。
 そうしたら、ビルが崩れ始めて……。
 僕のパパとママも家が潰れて……」
少年は泣き崩れた。
その時人の群れを掻き分けて60過ぎの白髪混じりの髪を撫で付けた紳士が前に出て来た。
少年の肩を優しく抱きながら、
「私はこの街の市長を務めているビル・スレンダーと申します。
 敵の狙いは恐らくこの小さな街にある金の鉱山かと」
「何ですって?この街にそんなものが」
「余り知られていない事です。しかし、それ以外にこの街が外敵から狙われる理由は思いつかない」
その時ブレスレットが鳴った。
「こちらG−2号!」
『今、健達をそちらに向かって出動させた。一体何が起こったのか解ったかね?』
「街の人々はマンホールの中に避難しています。
 鉄獣メカが現われて、街中に怪光線を浴びせて行った後、ビルや家などがまるで砂のようにバラバラと崩れ去ったようです。
 今、街の中はまるで砂漠のように荒れ果てています。
 マンホールに避難出来た者はほんの一握りで、犠牲者も出ています」
ジョーの語尾が震えた。
また自分のような子供が増えてしまったのだ。
『その鉄獣メカが何故ISOや国連軍のレーダーに引っ掛からなかったのか、まだ解らんのだ』
「と言う事は妨害電波を発しているか何かで、ゴッドフェニックスにもキャッチ出来ないと言う事ですね?  でも、通信は出来ます。と言う事はレーダーに特化した何かが?」
『その通りだ…』
「博士、この街の市長によりますと、金鉱を狙っているのではないかと言う事です」
『ミドルシティに金鉱が…。そう言えば噂には聞いた事がある。
 ゴッドフェニックスに合流し、充分に警戒してくれたまえ』
「ラジャー!」
通信を終わると、ジョーは市民に振り返った。
「俺は行かなければなりません。皆さんは此処から絶対に出ないように」
「お兄ちゃん、僕達は助かるの?」
先程の少年が涙を浮かべたままで訊いた。
ジョーは膝を付き、少年を抱き締めた。
「お前も俺と同じになってしまったんだな…。だが、強く生きろよ。
 ギャラクターは俺達科学忍者隊が何としても追い返してやる!」
『ジョー!ゴッドフェニックスは上空に到着したぞ!』
ブレスレットから健の声がした。
ジョーは立ち上がると、市長に向かって言った。
「この子を宜しく頼みます」
そして跳躍してマンホールの蓋を中から蹴り上げて地上へと出ると、宙返りをして着地、素早く音も無く蓋を閉めた。

地上は先程見た時と同様に荒廃し切っていた。
ジョーはG−2号機に取って返し、ゴッドフェニックスと合流した。
「酷いもんだろ。この被害で親を亡くした少年に逢った。
 また俺みたいな子供が生まれた。俺は絶対にギャラクターを許せねぇっ!」
ジョーはレーダーを見詰め乍ら言った。
少しの変化も見逃さないようにと必死だったが、何の反応も起こらない。
「やはり何か妨害電波を出して近づいているのかもしれないな」
健が呟いた。
「だが市長によるとまだ金鉱が襲われた形跡はねぇらしい。
 奴らは必ず来る。敵に気付かれない程度にもう少し金鉱に近づこうぜ」
ジョーが健を仰ぎ見た。
揺るぎない怒りがその瞳にあるのを健は見て取った。
「まだ敵のメカ鉄獣の正体が解らない。みんな注意して掛かってくれ」
「ラジャー!」
全員が緊張を漲らせ、全身を耳に、眼にした。
「敵の鉄獣メカが目視出来るまで待つしかねぇな」
ジョーが呟いた。

果たして待っていた鉄獣メカは現われた。
円盤のような形をしており、周囲にレーザー砲の射出口がいくつも設けられていた。
「竜、あのレーザー砲の射出口に気をつけろ!ゴッドフェニックスもやられるぞ」
「解っとるわい!」
健にいつもの言葉で答えた竜は、急上昇して敵の遥か上空を旋回した。
「竜、スクリーンに奴の射出口を拡大して投影してくれ。数を確認したい」
突然ジョーが立ち上がり、スクリーンの前を陣取った。
「ジョー、どうした?」
「俺に考えがある…。バードミサイルじゃ小回りが効かねぇ。
 G−2号機のガトリング砲であの射出口を全部叩いてやる」
「解った!だが奴はゆっくりと回転している。狙うのは難しいぞ」
「やるしかあるめぇよ」
射出口は全部で8つあった。
この円盤のような鉄獣メカ自体が上から見ると八角形になっていた。
「よし。俺はG−2号機に乗り込む。竜、ノーズコーンを開けてくれ」
「解った!」

ジョーはまず敵の回転速度を見切ろうとした。
ターゲットスコープを開いて、じっくりと動きを観察する。
「竜!もう少し高度を下げてくれ。高度500だ!
 敵は自分が出している妨害電波でこちらの接近にも気付かない筈だ」
『OK!』
ゴッドフェニックスの高度が下がった。
「タイミングは俺に任せてくれ。8つの射出口を全て破壊したら、奴らの体内に潜り込もう」
『金鉱を襲われる前に喰い止めたい。ジョー、頼んだぜ』
健の声が聞こえた。
ジョーは息を詰めた。
あの少年の為にもこいつは俺の手で……。
まずは敵の回転を見極めて、1発必中の弾丸を発射した。
ジョーは敵の1つの射出口を黙らせた。
問題はこれからだ。
敵はゴッドフェニックスの存在に気付いた筈だ。
『ジョー、ゴッドフェニックスの動きをそっちで指示してくれ!』
健がジョーが射撃をしやすいようにと配慮してくれている。
「解った!竜、10時の方向に左旋回!」
『ラジャー』
敵はこちらを発見して迫って来る。
しかし、ジョーは確実に1台、2台と、射出口を叩いた。
(残り5基か……)
息をつく暇もない。
事態は逼迫していた。
敵は残りの射出口から特殊レーザー砲でゴッドフェニックスを狙って来る。
『ジョー、一旦上昇するぞいっ!』
竜の切迫した声が響いた。
急上昇して敵の攻撃を避けたゴッドフェニックスは、再びジョーの指示により、高度を下げた。
「敵の回転を利用して一気に行くぜ!」
ジョーはやる気を奮い起こさせた。
緊張の場面だが、集中力を高めて一気に残り5基を叩いてしまうつもりだった。
ジョーは敵の先手を打って、レーザー砲を発射しそうな射出口を先に狙った。
レーザー砲の準備が出来た射出口からは少しだけ光が漏れる事が解ったからだ。
より効果的に敵にダメージを喰らわせるには、発射しようとしている瞬間を狙うのがいい、とジョーは思った。
こちらが撃ったガトリング砲の弾丸の効果がより高まり、内部で謎のレーザー砲が鉄獣メカへと影響を及ぼし始めているようだった。
『よし、ジョー、この意気だぞ!』
健の声が聞こえたが答える余裕はなかった。
残り4基を類稀なる集中力で、彼は1発も外さずに命中させ、全てを破壊する事に成功した。
『さっすが〜!ジョーの兄貴ィ!かっこいい〜!』
『甚平、喜んでいる場合ではないわ』
甚平とジュンの声が聞こえた。
健は竜に出来るだけ敵のメカに近づくように指示をし、ジュンと甚平を伴ってトップドームへと向かった。
ジョーはノーズコーンからそのまま鉄獣メカに飛び移った。
竜はジョーが飛び出したのを確認し、ノーズコーンを閉じた。

4人は穴の空いた射出口にしがみ付き、中へと侵入した。
ここから白兵戦に入る。
「金鉱を襲わせる訳には行かねぇぜ!」
ジョーが啖呵を切って跳躍した。
「ジュン、甚平!機関室に爆弾を仕掛けろ!」
「ラジャー!」
健の指示で2人が駆け抜ける。
残った健とジョーで肉弾戦を繰り広げる
お互いに相手の力量を認め合った仲だ。
コンビネーションは抜群で、面白いように互いの武器が敵を倒し、技が決まって行く。
ジョーが1人のギャラクター隊員の胸倉を掴んで締め上げた。
「カッツェはどこだ!?」
「か……カッツェ様はこのメカには搭乗されていない……」
それだけ言うと敵の隊員は気を失った。
ジョーは投げ捨てるように手を離した。
「ジョー、司令室を爆破して脱出しよう」
「解った!」
2人は並んで走り始めた。

上空で敵の鉄獣メカが砕け散った後、ゴッドフェニックスは街の広場へと降り立ち、ジョーを先頭に先程のマンホールまで全員でやって来た。
中に居る人達に全てが終わった事を告げ、上がって来るように言った。
人々が次から次へと上がって来たが、助かったのは数百人だった。
この中には家族を亡くした者が多数いた。
ジョーは遣り切れなかった。
群集の中から先程の少年が飛び出して来た。
10歳位と見られるので、甚平と同世代だ。
「お兄ちゃん!助けてくれて有難う!」
とジョーに抱きついた少年だったが、嗚咽を上げて涙を流した。
「家があった所に案内しな。まだ見つける事が出来るかもしれねぇ」
ジョーは少年の目線に入る為に膝をついて言った。
「皆さん、これから国連軍の救援部隊が来るそうです。もう暫くの辛抱です。
 生存者の方も見つかるかもしれません」
健が声を張り上げてその事を報せる。
「有難う。科学忍者隊の皆さん……」
市長が前に進み出て来た。
「こんな恐ろしい事は2度と赦しません。私達も復興に力を注ぎます」
「はい、是非そうして下さい」
健は市長と固い握手を交わした。

少年の家はそこから遠くは無かった。
瓦礫、と言うよりは砂漠と化したようなその場所に少年が大切にしていたラジコンカーがあった。
「これは僕のだ。間違いないよ、此処が僕の家があった場所だよ」
「誰かいませんか?助かった方はいませんか?」
ジュンが呼び掛けた。
G−4号機を使って、慎重に砂と化した家の残骸を取り除いて行く。
その時、助けを呼ぶ声をジョーは確かに聞いた。
「甚平、止めろ!」
ジョーは声が聞こえた方向に走り、手で砂を掘り、鉄板の下に人がいる事を確認した。
男女だ。もしや少年の両親では?
「居たぞ!竜、手伝ってくれ!」
竜が怪力に物を言わせ、ジョーと2人で砂に埋まった鉄板を引き出した。
その下には……。
「パパ!ママ!」
鉄板のお陰で難を逃れた少年の両親が姿を現わした。
奇跡的だった。
もう少し助けが遅ければ、酸素不足で死に至った事だろう。
「お兄ちゃん達のお陰だよ。僕お家が無くなってもパパとママさえ居てくれたら……」
少年は泣きじゃくった。
それを屈んで抱き締めたジョーの瞳にも僅かだがキラリと光る物があった。




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