『ジョーの憂鬱(2)』

翌日再び科学忍者隊は集められた。
今日は素顔で5人が南部の元に集まった。
「ギャラクターが雇ったレーサーとは、やはりアルフレッドである事が判明した。
 情報部によると、ジョーとライバル視されているが、実際の処その力量はジョーには及ばないと言う事だ。
 情報部員も一流の腕を持つジョーに何故接触しなかったのか、と不思議がっている。
 そして、アルフレッドには妹がいて、これが行方不明である事が解った」
「では、妹さんが誘拐されたと?」
ジョーが眉根を顰めた。
「その可能性が高い。情報部では引き続き妹さんの手掛かりを探っている処だ」
「問題は何故そのアルフレッドが選ばれたかですね。
 昨日俺達も分析してみましたが、どう考えても彼はジョーのドライビングテクニックには敵いません。
 それに眼の病気と言うのはどうやら本当らしく、アトピー性皮膚炎から来る白内障に罹っていると言う事です。
 光が相当に眩しい筈で、レースへの参加は難しいでしょう」
健が報告した。
「それなのにギャラクターはアルフレッドを選んだ……」
「考えられるのは2つ。ギャラクターはアルフレッドの眼病の事を知らないか、それとも彼を利用してジョーを新たな獲物にしようとしているのか、だ」
南部博士が言った。
「つまりはジョーには隙がないし、肉親がいない。ジョーを引き込みたくてもそれが出来なかった。
 そこでジョーと接触していてそこそこ実力があるアルフレッドを利用する事にした、と言う事が考えられる」
「博士、それではジョーが危険なのではありませんか?」
「そうじゃわ、博士」
ジュンと竜が心配そうにジョーを見た。
「レースは明日だ。今夜中には現地入りして貰わねばならん」
南部博士は非情な命令を下さなければならなかった。
「ジョーにはまずレースに優勝して貰い、アルフレッドに副賞を渡さない事。
 それと諸君にはアルフレッドとその妹を救う事。
 そして、ギャラクターの鉄獣メカに特注ダイヤモンドを取り込まれないよう阻止し、これを叩く事。
 この3つの任務を果たして貰わなければならない」
「ラジャー!」
「ジョー、これは危険な任務だ。
 レース中やレース終了後にはギャラクターが君を標的にして来る可能性が高い。
 くれぐれも注意するのだ」
「解りました」
「ジョー…。時と場合によってはアルフレッドの生命を救えない事もあるかもしれんぞ。
 君自身の手で抹殺しなければならなくなる事も考えられる。
 これは辛い任務になるだろう」
「承知しています。俺は科学忍者隊のコンドルのジョーです」
ジョーはそう答えると1人踵を返した。
展望室にでも行くつもりだろう。
「博士……。大丈夫でしょうか?ジョーだって人間です。
 正直言ってこの任務はキツイんじゃないでしょうか?」
健が心配そうな眼でジョーの寂しそうな背中を見送った。
「彼の言葉通り、ジョーは科学忍者隊だ。どんなに辛い任務でもやりこなしてくれる筈だ」
「でも、博士!ジョーは敵襲がある中、レースにも優勝しなければならない、と言うプレッシャーに揺れていると思います」
ジュンの瞳が潤んだ。
「それでも、やって貰わねばならない。
 科学忍者隊の中でこの任務に適しているのは彼しかいないのだ」
「ジョー…。可哀想にのう…」
「ジョーの兄貴ィ……」
甚平は指を咥えてジョーが消えたドアを見つめていた。

ジョーは三日月珊瑚礁の上部にある展望室に1人居た。
彼は弱音を吐かない。
場合によってはこの手でアルフレッドを……。
そう思うと、さすがのジョーにも震えが来た。
アルフレッドが確信犯ならまだ割り切れる。
しかし、今回のケースではまずそれは有り得ないだろう。
(全ての任務をレース中に完遂しない以上、アルフレッドは還っては来まい……。
 俺のせいで巻き込まれたのなら、尚更助けてやりてぇ!)
ジョーは展望室の窓を握り拳で叩いた。
昼間の陽の光が眩しかった。
「ジョー」
健達が4人連れ立ってやって来た。
「17時にゴッドフェニックスで現地に出発する。到着予定は現地時間のレース前日の14時だ」
「ああ…」
「ジョー。大丈夫か?」
健が所在なさげに立っているジョーの背中に向かって声を掛けた。
「大丈夫さ。任務に私情は持ち込まねぇ。それが俺達の鉄則だろ?
 いざとなりゃ、アルフレッドをこの手に掛ける事も辞さない覚悟は出来ている」
「ジョー。強がるのはよせよ。辛いなら辛いと言えばいいんじゃい。
 おら達は仲間じゃないかえ?」
竜が穏やかな声を出した。
「強がりなんかじゃねぇ。本気さ!」
ジョーは激情を高ぶらせて叫んだ。
「ジョー、1人で抱え込む事なんかないわ。
 私達みんなでアルフレッドさんと妹さんを全力で守りましょう!」
ジュンが前に進もうとしたが、ジョーは背中でそれを拒んだ。
「……1人にしてくれ。集合時間には下りて行く」
健が全員に目配せをした。
4人は足音もさせずにその場から去った。
1人になったジョーの瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。
それはアルフレッドとの訣別を覚悟した涙であり、後には引けないと言う彼の強い意志を伴っていた。

現地イタリス王国には予定通りの時間に到着した。
時差の関係でユートランドよりも日の入りが遅い。
まだ午後2時だ。
ジョーのG−2号機を先に下ろし、ゴッドフェニックスは海底に隠した。
健が搭乗するマシンはISOで手配してくれる事になっていた。
まずは南部博士が用意してくれたホテルにチェックインをし、腹拵えをした。
ジョーは殆ど食べ物を口にしなかった。
健とジュンが不安そうに顔を見合わせた。
暗くなるのを待って、レース場を視察する事にして一旦解散し、打ち合わせ通りの時間に5人はバードスタイルとなって集結した。




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