『ジョーの憂鬱(4)』

レースはまず1周2.5kmのサーキット内を10周してからロードコースに出る。
ロードコースは山道が多く、そこを50km走行した後にサーキットに戻り、また10周して終了、と言う過酷なものであった。
ジョーは衆人環視のサーキット中でアルフレッドが何かを仕掛けて来る事はないと思っていた。
順調にトップを走りながら、ジョーはブレスレットに向かって話し掛けた。
「健!俺はこのままトップを走り続けるが、アルフレッドの周囲を囲んでいる車に気をつけろ。
 ギャラクター臭いぜ。それにアルフレッドのマシン自体が走る凶器だ」
『解った。気をつけて掛かる。
 お前が出来る限りレースに集中出来るようにしろ、と博士から命令されている。
 やれるだけの事はやろう!お前は後方で起こる事を気にするな!』
「頼んだぜ!」
ジョーはそう言うと、更にアクセルを踏み、巧みにステアリングを切ってトップでサーキットを飛び出した。
ロードコースに出た途端に、ジョーは異様な気配を感じた。
「健!敵は出場者だけではなさそうだ。外にもアルフレッドを援護する奴らがいる!
 どうやら俺も手を出さざるを得ないようだ!」
ジョーはブレスレットに叫ぶと、ステアリングを大きく切って、襲撃者の車を逆にジャンプ台代わりにして飛び越えた。
敵の狙いはジョーの車をパンクさせる事にあるらしい。
「生憎だが、G−2号機は特殊タイヤを履いているんだ。そう易々とやられはしねぇぜ!」

健はブレスレットからジョーの戦況を聞いていた。
自身もロードコースに出たが、ジョーよりは大分遅れている。
ジョーの行く手を遮る者が居ても、援護する事が出来ない。
それ処かアルフレッドの周囲を囲んでいる3台のギャラクターの車が、周りを走行している車に攻撃を加え始めていた。
幅寄せ、追突と言った比較的良く使われる手だ。
これで何台かがクラッシュして行った。
健は何とかこれらを避け、脱落せずに済んでいる。
「こちらG−1号。博士、応答願います」
『健、どうした?』
「アルフレッドの周囲にはギャラクターの車が配置されていて、周りの車に攻撃を仕掛けています。
 まだ武器は使っていませんが、一般の出場者がクラッシュしてリタイアを強いられてます。
 ジョーはトップを走っていますが、別口でギャラクターからの攻撃を受けているようです。
 このままでは俺はジョーの援護に回れそうにありません。
 リタイアして、G−1号でジョーを援護します」
『うむ。已むを得ん。そうしてくれたまえ。実は国連軍の腕が立つ者もレースに参加している。
 アルフレッドはそっちに任せよう』
「博士、ジュン達から妹さんについての報告は上がっていますか?」
『聞いている。だが、まだ救出には至っていない。ギャラクターの女隊長が傍にいる。
 慎重にならざるを得ないのだ』
「解りました!」
『ジョーの援護を頼んだぞ!』
「ラジャー!」
健はそのままコースを外れ、ゴッドフェニックスが沈んでいる海へと向かった。
「竜!リタイアしてG−1号機でジョーを援護する事になった。
 一旦海上に浮上してくれ」
『ラジャー!』
竜の明快な声が聞こえ、やがて海上に浮かぶゴッドフェニックスが見えて来た。
健は車を乗り捨て、トップドームへと跳躍した。
一旦コックピットに戻る。
「竜、どうだ?」
「いんや、レーダーには何も掛からんぞい」
「解った。再び沈んでレーダー探査を頼む」
「健、気をつけろや!」
「ああ!」
健はG−1号機へと移動して、ゴッドフェニックスから分離した。

ジョーはギャラクターの攻撃に遭いながらも、まだトップをキープしていた。
マシンガンやレーザー砲で狙って来るだけに、始末が悪い。
しかし、羽根手裏剣を使うのはマズイかもしれない、と思った。
敵はこのレースで『コンドルのジョー』も探し出そうと言う『一石三鳥』を狙っているに違いないからだ。
羽根手裏剣はコンドルのジョーの武器としてギャラクターには知られているだろう。
専らレーサーとして磨かれて来たドライビングテクニックと闘いの中で培って来た勘が頼りとなった。
この役目は科学忍者隊の他の誰にも果たせない大役だった。
変身前のストックカーに偽装したG−2号機ではこれ以上無いと言う程のテクニックを使い果たし乍ら、ジョーはギャラクターの攻撃を逃れつつ、ロードコースを進んで行った。
後ろからアルフレッドの車が近づいているのが解る。
その周辺にギャラクターと見られる車以外は見当たらなかった。
(まさか…他の奴らは遣られたんじゃあるめぇな…)
内心で舌打ちをした時、上空に健のG−1号の翼が見えた。
『ジョー、待たせたな。俺に任せてレースに集中してくれ。
 アルフレッドとの一騎打ちが出来るように、邪魔者は俺が蹴散らしておく』
言い終わるや否や、健は低空飛行に切り替えて来た。
さすがにミサイルをぶっ放す訳には行かない。
健はコックピットに立ち、何度かブーメランを投げた。
ジョーの後方が一掃されて静かになった。
追尾して来るのはアルフレッドの車だけになった。
アルフレッドはジョーがギャラクターとカーチェイスをしている間に大分追いついて来ていた。
彼の腕、と言うよりは車の性能が良いのである。
ジョーは警戒した。
他の車の眼がない以上、アルフレッドは自分の車に搭載されている武器で攻撃を仕掛けて来るに違いなかった。
変身前のG−2号機には武器は装備されていない。
ジョーは自分の腕だけでアルフレッドの攻撃を避ける覚悟をし、ステアリングを握り直した。
額から汗がドッと噴き出した。
上空を健が旋回しているが、手は出して来ないだろう。
「健!俺の方はもういい。ジュンと甚平を援けて、早くアルフレッドの妹さんを救出してくれ!」
『解った。ジョー、充分に注意しろよ!』
「おうっ!」
ジョーは自分から仕掛けた。
ステアリングを振り切り、アクセルをグッと踏み込む。
物凄い速さで自然が作った崖の細道のコーナーを通過した。
此処からは暫く崖に挟まれた道が続く。
横幅が狭いので、万が一前に事故車があれば、それをジャンプ台にして通り抜けなければ前に進めない程である。
行く手は崖ばかりで変わり映えの無い風景だが、却って油断は禁物だ。
こう言った場所はいつコーナーや障害物が現われるか解らないのである。
事前に調べた処、この崖道は12kmもの長さに渡って続いていた。
ジョーは此処を一気に駆け抜ける自信があった。
だが、アルフレッドはどうだろう。
如何にマシンが優秀だから、と言っても、運転する者の技術が追いつかなければ躓(つまづ)くに違いない。
彼はコーナリングが不得意な筈だった。

しかし、ジョーは自分の眼を疑った。
アルフレッドの車からは左右に大きな電動カッターがにょきっと滑り出し、崖を切り拓きながら迫って来る。
(これでは、多少テクニックが伴わなくても何とかなるだろうぜ…)
ジョーは思わず苦笑した。
(しかし、それならギャラクター自身がレースに参加すればいい事だ。
 それならば、なぜアルフレッドを狙った…?やはり『俺』を取り込もうとする罠か?)
レーサーとしてのジョーなのか、それともコンドルのジョーを狙っているのかは解らない。
恐らくは両方だろう。
まさかその2人が同一人物である事には気付いてはいないだろうが、この先露見する危険性も出て来た。
「くそぅ。余計な事にまで気を巡らせなけりゃならなくなったぜ…」
ジョーは油断なくステアリングを自在に操りながら、呟くのであった。




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