『ジョーの憂鬱(7)』

健はジョーがシャワーを浴びている間に、急いで地下駐車場にあるジョーのG−2号を海岸へと走らせていた。
ジュンがわざわざ近くの駅で拾ったタクシーを使って、遅れて付いて来ていた。
その間のジョーの部屋の見張りは竜と甚平が行なっている。
健はG−2号機を海岸に停めると、かなり手前で停まったジュンが乗っているタクシーに、まるで待ち合わせをしていた恋人同士のような振りをして乗り込み、ホテルへと取って返した。
そこで健は竜と入れ替わり、竜はゴッドフェニックスへG−2号機を格納して、再び海底で待機する手筈となっていた。
G−1号機からG−5号機までが全て合体していなければ、ゴッドフェニックスとしての機能を果たさないからである。
これから敵基地へと連れ去られるであろうジョーを救出する為にも、ゴッドフェニックスを使えるようにしておく必要があった。
機内の食料庫には、アルフレッドとその妹が匿われていた。
2人共今やギャラクターに追われる身だ。
この事件が解決するまでは安全な場所に置いておかなければならない。
2人はゴッドフェニックスが一旦海上に浮上し、何かの作業を行ない、再び海底に沈んで行くのを感じていた。
海上に出た後、大きな機械音がするのを聞いた。
それがG−2号機を格納した時の音だった。

健は作戦について、南部博士から事後承諾を得ていた。
正直な処、南部は最初渋ったが、この任務を完遂する為には、全ての謎解きをしなければならない、と首を縦に振った。
その時健は、南部博士から思いも寄らない情報を聞いた。
南部が科学者コネクションを用いて、エメレスの開発者から直接聞き出した情報だったのだが、このダイヤモンドに含まれているのは、特殊物質ダリアンメイドと言う物だと言う事が判明した。
企業秘密だと最初は情報提供を拒んでいた開発者も、ギャラクターの手に渡る可能性があると聞いて南部に降参した。
自分自身も科学者だから、に他ならなかった。
この特殊物質ダリアンメイドは、強力な地盤をも溶かす力があった。
ギャラクターの狙いはこれだ、と南部は健に告げた。
特殊物質を取り入れたビーム砲を作れば、マントル計画を根こそぎ奪い取り、ウランなどの原料も採掘する事が可能なのだ。
ダリアンメイドは純粋にキリスト像を映し出す為だけに使われていたのだが、悪用すると危険なものであると言う事は、開発者も知っていた。
だからこそ、南部に企業秘密を打ち明ける決心をしたのである。
1つの謎はこれでハッキリした。
今、ジュンが隠し持っている2粒のダイヤモンドにはそのような力が秘められていたのだ。
健がホテルに戻って来て、すぐに動きがあった。
ジョーの部屋に黒ずくめの5人の男が忍び込んだのである。
事前にジョーから『おいでなすったぜ』と言う通信があったし、健達も異変に気付いていた。
やがて、ジョーは2人の男に引き摺られて出て来た。
顔に殴られた跡があったが、彼にしては大した傷ではない。
痛め付けられた振りをしているだけだと言う事は、すぐに解った。
ゴッドフェニックスで待機している竜を除いた3人が追尾を始めた。

ジョーが運ばれたのは、山間にある湖の底だった。
そこにギャラクターの基地があった。
紫色の仮面とマントを纏ったベルク・カッツェが待っていた。
「特殊物質ダリアンメイドをどこにやったか教えて貰おうか?」
金色の声を頭から出して、艶めいたピンクの唇が動いた。
(いつ見ても嫌な野郎だぜ…)
ジョーは唾を吐きたい思いがしたが、初対面を装わなければならなかった。
それに…ダリアンメイドとは何だ?
ジョーはまだその事を知らない。
「何だよ、そのダリア何とかってのは?俺は知らねぇぜ」
カッツェとは対照的な低い声でジョーは言った。
「惚けるな!貴様が副賞として貰ったダイヤモンドの事だ」
「だから、質屋に売りつけたって、そっちの奴らに言った筈だぜ」
ベルク・カッツェはその高いヒールで2人の男に左右を押さえつけられているジョーの右足の脛を思い切り払った。
「ぐっ!」
さすがのジョーにもこれは堪(こた)えた。
細い足首が撓(しな)った。
「どうだ?吐く気になったか?」
「この街には馴染みがない。どこの質屋だったかなんて覚えていねぇや」
「やれっ!」
カッツェは自ら手を出すのも汚らわしいとでも言わんばかりに、部下に拷問を押し付けた。
ホテルでのリンチよりもきつかった。
ジョーは木刀で強かに身体中を責められた。
容赦は無かった。
口の中を切って、口の端から一筋の血が流れ出る。
「てめぇ達の目的はそれだけか?レース中、しつこく俺を狙っていただろう?」
ベルク・カッツェは唇を舐めてニヤリと笑った。
「貴様に操縦させてやろうと思ってな。ギャラクターが誇るメカ鉄獣『サターンクロス』をな。
 フォーミュラカー状のメカには貴様が良くお似合いだ。
 いや、貴様でなければ操縦出来ないに違いない。それをコースで確認させて貰った」
(ギャラクターにしては珍しく効率の悪い回りくどいやり方をしてやがったのは、そのせいだったのか!)
ジョーはその特徴ある眼をツーっと細くした。
「その『サターンクロス』を完璧にする為には、あのダイヤモンドに含有されている『ダリアンメイド』が必要なのだ!」
カッツェが吐き捨てるように言った。
「どこで手放したか思い出して貰おう!こいつを特別拷問室へ連れて行け!」
ベルク・カッツェが部下に指示をすると、すかさずジョーは首に銃把を叩き付けられ、長身を伸ばして失神した。

手足を鋼鉄の鎖で固定された。
そのまま宙吊りにされる。
それは恐ろしい電気ショックを与える装置だった。
「殺さない程度に上手くやれ。『サターンクロス』を操縦させなければならないからな」
スクリーンの中からカッツェが甲高い声で笑い、画面が暗くなった。
ジョーは強い電流を体内に流されて意識を取り戻した。
「うぐっ!」
苦痛に顔を歪め、唇を噛み締めてそれに耐えた。
バードスタイルになれない以上、生身で耐えるしかないのだ。
最早、ジョーには健達の救出を待つより他なかった。
前髪が解(ほつ)れてパラリと垂れた。




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