『ジョーの憂鬱(8)/終章』

健達はジョーを追って、基地への潜入を図っていた。
ゴッドフェニックスで近くまで飛んで来たが、レーダーに探知されないよう離れた山の麓の平地で待機していた。
健とジュンと甚平がジョーの身を案じながら山を登り、やがて湖を発見した。
丁度湖の底から小型潜水艇が浮上して来て、ギャラクターの兵士が3人降りて来たので、健が「ようし、あれを戴く事にしよう」と呟き、次の瞬間跳躍するとブーメランで次から次へと敵の首を強打した。
3人はパタリと倒れる。
「ジュン、甚平、急ぐぞ!ジョーはどんな拷問を受けているか解らん!」
「ラジャー!」
健は急ぎ潜水艇を出発させた。
ギャラクターの湖底基地が見えて来た。
潜水艇が近づくと自動で出入口が開いた。
「みんな気をつけろ!まずはジョーを救い出す事が先決だ」
「健!あれを見て!」
ジュンが白い手袋で指差した先には、工場と見られる場所があり、大きく取られた窓から鉄獣メカが見下ろせた。
「あれを完成する為にダリアンメイドが必要だったのか」
「健、私に任せて!爆薬をセットしておくわ。健はジョーを」
「解った!充分に気をつけてくれ!」
「ラジャー!」
此処でジュンと甚平と別れ、健は1人先に進んだ。
奥へと入って行くと、ビリビリと外の空気まで震撼させるような音が響いて来る部屋があった。
健は鍵穴に耳を当てる。
ジョーの苦しげな呻き声が尾を引いていた。
健はそれを聞いている事が出来ず、後先も考えずに飛び込んでいた。
「健!危ねぇっ!後ろだ!」
息も絶え絶えのジョーが叫んだ。
ジョーは身体を大きくブランコのように揺らして健の後ろにいたギャラクターの隊員に蹴りを入れた。
隊員はもんどり打って倒れた。
ジョーのキックには電気ショックのおまけ付きだった。
彼はまだ電流を身体に流されて拷問を受けている最中だったのだ。
「バードラン!」
健はブーメランを投げ付け、一瞬の内にジョーの四肢を自由にした。
「すまねぇな、健」
ジョーは肩で呼吸(いき)をしていた。
電気ショックによる身体の痺れがまだ残っていた。
だがジョーは身体に染み付いた戦闘員だ。
瞬時に体勢を整える。
「いや、俺こそお前に助けられた。それより身体は大丈夫か?動けるか?」
「電気ショックが結構堪えたが、それよりもカッツェにやられた右足首が痛みやがる。
 だが、ギャラクターの真の目的は漸く解ったぜ。……説明は後だ」
部屋の外から隊員達が大挙して押し寄せる気配がした。
ジョーはバードスタイルに変身した。
右足は痛んだが、彼の戦闘能力を著しく衰えさせる事はなかった。
面白いようにギャラクターの隊員を薙ぎ倒して行く。
「悪いが、此処に監禁されていたレーサーは既に助け出した。
 仲間が保護している。悪く思うなよ」
ジョーは一言付け加えた。
コンドルのジョーと、監禁されていたレーサーとが別の男である事をさり気なく印象付けたのである。
その時、大きな衝撃音がした。
竜がゴッドフェニックスの機首を突っ込ませて来たのだ。
基地内には湖の水が流れ込んだ。
その直後続けざまに爆発が起こった。
これはジュンの仕業だった。
「巨大な鉄獣メカが工場に隠されていた。ジュンと甚平が爆破したんだ」
健が説明した。
「奴ら、その鉄獣メカをレーサーのジョーに操縦させる事が目的だったのさ。
 だからあんなに回りくどい方法で俺の身柄を手に入れようとしたって訳だ。
 ダイヤモンドの秘密も解ったぜ」
「ダリアンメイドか。博士から聞いた」
「ギャラクターにはあの鉄獣メカを操縦出来る人材が居なかったらしいぜ」
ジョーは少し脚を引き摺っていたが、それでも走る事は出来ていた。
次から次へと現われる敵に羽根手裏剣を投げつけ、エアガンで衝撃を与えて行く。
『健。メカ鉄獣は完璧に爆破したわ』
「よし、全員退却だ。ジョー、脚は大丈夫か?」
「ああ、少し痛むが脱出するのに問題はねぇぜ」
「ゴッドフェニックスまで走るぜ」
「おう!」
ゴッドフェニックスまで来ると2人はトップドームへと跳躍した。
ジョーの足首が悲鳴を上げた。

「竜、脱出だ。基地を抜け出したらバードミサイルをお見舞いしてやれ」
「そいつは俺の仕事だぜ」
「解ってるよ、ジョー」
健は今回の功労者はジョーだと思っているので、最初からその役割は彼に与えるつもりでいた。
このジョーにとって忌まわしい事件にピリオドを打つのも、ジョーでなければならない、と健は思った。
ジョーが発射したバードミサイルにより、敵基地は粉々に砕け散った。
科学忍者隊に漸く肩の力を抜く時が来た。
「ジョー、脚を引き摺ってるけど、大丈夫なの?」
「ひびぐれぇは入っているかもしれねぇが、大した事はねぇさ」
ジョーはジュンにニヤリと笑ってみせた。
「健、食料庫の2人はどうするかいのう?」
竜の言葉に健は、「忘れていた!」と言った。
「ジョー。アルフレッドと妹さんを食料庫に匿っている。逢うか?」
「いや、もういい。俺にはあいつに対して恨みなんかねぇしな。
 どこか希望する場所に下ろしてやってくれ」
ジョーは穏やかに答えた。

ホテルの部屋に放置されていたジョーの賞金は手付かずで国連軍から届けられた。
その賞金は10万ドル。
任務中の収益と言う事でISOに回収された。
が、南部が自分のポケットマネーから1000ドルをジョーに渡した。
「これで皆で旨いものでも食べるといい。今回の活躍ご苦労だった」
南部博士のせめてもの思い遣りであったのだろう。
ジョーの右足首の骨にはやはりひびが入っていた。
治療は済んでいる。
若い身体はすぐに回復する事だろう。
数日間は安静にしているようにと言われた。
丁度良い。その間に身体をオーバーホールしておけば良いのだ。
100kmのレースに耐えたG−2号機も丁寧にメンテナンスしてやらなければならないな、とジョーは思った。

その頃……。
炎のように怒り狂った総裁Xがベルク・カッツェを叱責していた。
「この愚か者め!特殊物質ダリアンメイドは奪い取れず、鉄獣メカ『サターンクロス』の操縦者にしようと目した男は科学忍者隊に救出され、『サターンクロス』を爆破され……、更にはあわよくば誘(おび)き出せるとお前が言った科学忍者隊G−2号は殆ど姿を現わさず、全く良い処は無いではないか!」
「はは〜。申し訳ございません」
カッツェは胸に手を当て、深々とお辞儀をした。
「ふん!無能の者は必要ないわ。私が良いと言うまでは謁見を禁ずる!」
燃え盛る総裁Xの炎がスクリーンから消え、ベルク・カッツェは呆然と立ち尽くした。

全ての謎が解け、事件も科学忍者隊の活躍により解決した。
ジョーは今回のレースで優勝した事で、またスポンサーになりたがる輩が煩く付きまとうだろうと予測してかなり憂鬱だった。
しかし、南部に貰った1000ドルがあれば5人でもそこそこ豪勢な食事が出来る。
まずは皆で祝杯とは行かないが、ジュースで乾杯して、旨いものを食べる事にした。
レストランの手配はジュンがしてくれた。
飲食業界にいる彼女だから、横の繋がりがあるのだろう。
『みんなおめかしして来て頂戴。予約はジョーの名前で取ってあるから』
トレーラーハウスのベッドの上に転がっていたジョーが半身を起こして、
「何で俺なんだ?」
と訊いた。
『だって1000ドルを貰ったのはジョーだし、今回はジョーの活躍がなかったら任務を遂行出来なかったわ』
ブレスレットの向こうで『ちぇ、ドレスコードがあるのかよ?』と健のぼやきが聞こえた。
他の4人は『スナックジュン』に屯しているらしい。
「解ったぜ。19時だな。間に合うように行く」
ジョーはそう答えると通信を切った。




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