『要人警護』

科学忍者隊はバードスタイルで三日月珊瑚礁基地へと集められた。
現われた南部博士の横にはあのレニック中佐が…。
ジョーは内心、(ケッ、またかよ?)と呟いていた。
「今回の任務は要人警護だ。
 国連安保理の常任理事国であるザビエル共和国他5ヶ国の大統領の生命を狙っている者がいる。
 それがどうやらギャラクターらしいのだ」
「ギャラクターが大統領を狙う目的は?」
健が訊ねた。
「見せしめのようだな。既に常任理事国の長が何人も殺されている」
「くそぅ、ギャラクターめ…。相変わらず汚い手を使いやがるぜ」
ジョーは右手の拳で左の掌をパン、と叩いた。
良い音が司令室に響いた。
「そこで、国連軍がそれぞれの常任理事国の長を護衛する事になったのだが、残る人数は5人。
 君達にはそれぞれ国連軍選抜射撃部隊のメンバーと組み、護衛について貰いたい。
 ジョー、気心が知れているだろうから、君にはレニック大佐と組んで貰おう」
「えっ?俺が…ですか?それに、大佐って…?」
「レニック大佐は先月大佐に昇進されたのだ」
「へぇ〜。それはおめでたい事で」
ジョーは全くおめでたいとは思っていないような口調で言った。
「ジョー、大佐に失礼だぞ。とにかく護衛の趣旨について説明するから皆聞きたまえ」
南部博士がスイッチを押すと、スクリーンが降下して来た。
各国の要人が暗殺された時の映像が映し出された。
「これは…。特殊な散弾銃か何かでやられていますね」
ジョーが腕を組んだ。
「その通りだ。さすがに一目で見抜いたか」
答えたのはレニック大佐だった。
「スナイパーの腕は余り良くないのかもしれん。
 散弾銃なら当たりさえすれば勝手に体内で銃弾が弾け散って臓器に喰い込む」
「ひでぇな…。ギャラクターのやりそうな事だ」
甚平が呟くと、レニックは冷たい眼をして、
「戦時下ならギャラクターでなくてもこんな手は平気で使うぞ」
「でも、銃弾が違うでしょう?確実に殺す為に普通の散弾銃以上の弾丸を使っている筈だ」
組んだ腕を解いたジョーは、傷口のアップ画像をじっと見ていた。
「ご明察。全くその通りだよ、ジョー」
レニックは気軽に呼び掛けた。
そこがジョーの気に入らないのだとは彼は気付かない。
「ISOの情報部が捉えた狙撃者の映像がこれだ」
南部は望遠レンズで撮影されたと思われる映像をスクリーンに投影し、何段階かに分けて拡大した。
「見掛け上はM1ライフルに似ていますが、これは明らかに手を加えていますね。
 強力な弾丸を使う為に、銃砲も強化している」
ジョーか一目見て呟いた。
「うむ。レニック大佐の意見も同様だ。これを発射されてからではもう遅い。
 君達にはそれを国連軍選抜射撃部隊と協力して未然に防いで欲しいのだ」
「この銃の弱点はどこにあると思う?ジョー」
レニックが訊ねた。
「射出口に銃弾をぶち込んでやれば銃自体が暴発するでしょう」
「その通りだ。だがそれを出来るのは科学忍者隊の中ではジョー、君しかおらん。
 君に全ての要人を護衛して貰う事は不可能だ」
「ちぇ、一々気に障る事を言うおっさんだな」
甚平が小声で呟いたが、ジュンが「甚平!」と嗜めた時は既に遅く、レニックにはしっかり聞こえていた。
甚平は身が竦むような眼光でジロリと睨まれた。
「そう言った事情で、銃を使う前に狙撃者を見つけ出し、倒して貰いたい。
 万が一の為に選抜部隊には射出口を狙撃するべく待機して貰う事になった」
「でも博士。それならレニック大佐には俺以外の誰かに付いて貰った方が良いのでは?」
ジョーは私情を抜きにしてそう思った。
「ジョー。君に護衛に就いて貰うのは国連安保理の理事長だ。念には念を入れたい」
博士が厳しい表情で言った。
「解りました」
「では、科学忍者隊出動!」
「ラジャー!」

理事長は丁度これから国連での臨時会議の為、外出する処だった。
これだけ安保理のメンバーが暗殺されたのでは、編成をし直さなければならなかった。
ジョーとレニック大佐が到着した時、迎えの車が車寄せに付けて、主を待っていた。
「これは…タイミングが良かった。意外と早く片が付くかもしれねぇ。
 その時は俺は仲間の援護に行きますから」
ジョーはレニック大佐に対して、これでも最大限の敬語を使っているつもりだった。
一応南部博士の先輩と言う事もあり、立てている。
だが、彼はレニックを嫌っているので、何かと態度に出てしまいがちだ。
「まあ、そんなに嫌わなくても良いと思うのだがね」
レニックは別に人が悪い訳ではない。
ジョーが嫌なのは恐らくは軍隊生活が染みついた根っからの軍人だからなのだろう。
自分も根っからのコマンダーだから、逆に反発するのかもしれない。
「のんびりしている暇はねぇ。早くスナイパーを探さねぇと。
 俺なら狙撃場所にあそこを選ぶ!」
ジョーは影のように姿を消した。
眼にも留まらぬスピードで走り去ったのだと言う事をレニックは悟った。
(素晴らしい身体能力だ…)
感心している場合ではないとさすがに気付いたレニックは自分も行動を開始した。

「案の定居たぜ…」
ジョーがスナイパーを見つけたのは、公邸の向かいにある大使館の屋上だった。
屋上の柵にライフルを固定する形で狙っているギャラクターの隊員服が見えた。
気配を殺して後ろからそっと近づく。
レニック大佐が隣のビルの屋上に居る事にジョーは気付いた。
万が一の場合を期して、レニックは敵兵を射殺するつもりで銃を構えている。
(さすがに選抜射撃部隊の隊長だけはあるな。その嗅覚はなかなかなもんだ…)
ジョーはレニックを少し見直した。
スナイパーは大胆にも1名だった。
ギャラクターの中でも、狙撃の腕が確かな人材は限られているのだろう。
他に雑魚兵が3名、取り囲んでいる。
雑魚兵と戦闘になる前に、スナイパーを仕留めたい、とジョーは思った。
まずはスナイパーが右利きである事を後姿から確認する。
右手を抑えてしまえば、こっちのものだ。
ジョーは羽根手裏剣をそっと唇に咥えた。
わざと屋上の隅に落ちていた缶コーヒーの空き缶を転がして注意を引く。
雑魚兵だけではなく、スナイパーも振り向いた。
その瞬間を逃さず、ジョーは羽根手裏剣を放った。
狙い違わず、スナイパーの右手を羽根手裏剣が貫いた。
しかし、この男は左撃ちも出来るように鍛えていたらしく、それでも、左手にライフルを持ち替え、右腕で支えながら任務を遂行しようとした。
雑魚兵がジョーに向かって来る。
ジョーが敵兵を投げ飛ばしながらエアガンの三日月型のキットでスナイパーの左手を狙った。
その瞬間、隣のビルのレニックの銃が火を噴いて、スナイパーの左の二の腕を撃ち抜いた。
ジョーの狙いも正確で強か衝撃を与えたが、スナイパーは二の腕に銃弾を受けた事でついに狙撃意欲を失くした。
ジョーが一躍して、スナイパーの首筋に手刀を入れて気絶させた。
念を入れたのだ。
雑魚隊員達は彼の敵ではなく、ジョーに投げ飛ばされて起き上がって来た処にエアガンが唸って、もう1度意識を奈落の底へと手放した。

ジョーはエアガンのワイヤーを飛ばして、レニックに掴まるように合図し、隣のビルからレニックを移動させた。
レニックはさすが軍人。
臆する事なくワイヤーに掴まり、受身を取って着地した。
「このライフルは貴方に預けますよ。後は宜しく」
ジョーは敵から奪い取った銃をレニック大佐に渡すと、ブレスレットに呼び掛けた。
「こちらG−2号。俺の任務は終わったぜ。今、一番切羽詰まってるのは誰だ?」
『ジョーの兄貴ィ。こっちの要人はもう車で走ってるんだ。どこから狙って来るか解らないんだよ』
「解った。今すぐ応援に行くから安心しろ、甚平!」
ジョーは優しく答えて通信を切ると、レニックに右手を差し出した。
珍しい彼の変化にレニックは驚いたが、銃を左手に持ち直して握手を交わした。
「じゃあ、急ぐんでこれで」
ジョーはさっと跳躍して、レニック大佐の前から姿を消した。
マントがヒラリと舞ったのをレニックは残像のように見た。
大使館の建物から飛び降りたのだ。
気が付くとエンジン音が唸って、G−2号機が嵐のように走り去っていた。
「相変わらずだが、少しは私の事を解ってくれたようだ…」
レニックは1人ごちると南部へ事の次第を報告する為にトランシーバーを手に取った。




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