『経済性』

「甚平。蟻が苦手な事から察するに、ジュンの奴、ゴ●●リも苦手だろ?」
ジョーは蟻ロボットや巨大な蟻が出て来た時にジュンにいきなり抱き付かれて驚いた事があった。
健も近くに居たにも関わらず、一番近くにいた手近なジョーに抱きついたと言う訳だ。
ジュンは余程焦っていたに違いない。
「だが、イブクロンは大丈夫だったな?おかしな奴だ……」
「でも、ゴ●●リ退治はおいらの仕事だよ。嫌になっちゃうよ。
 食べ物を出す店だから、ゴ●●リが居てはまずいんだよね。だけど、すばしこくてさ」
「お?燕の甚平『様』もゴ●●リには弱いのか?」
ジョーがニヤニヤ笑い乍らからかった。
今、『スナックジュン』にはジョーと甚平しかいなかった。
ジュンは買い出しに行っている。
そうでもなければこんな話は恐ろしくて出来まい。
「すばしこさには定評のある燕の甚平様も、さすがにゴ●●リには苦戦してるよ。
 奴ら、おいらの裏を掻いて突拍子もない動きをするんだ……」
「ふ〜ん……」
ジョーがニヤリと笑った。
甚平の後ろに何やら蠢く黒光りするものが……。
「甚平!伏せろっ!」
ジョーが喚いたかと思うと、羽根手裏剣が飛んだ。
甚平にはいつもより少しゆっくりのように見えた。
羽根手裏剣がブツを突き刺してカウンターの中に落ちた。
「ジョー!駄目だよ。お店を壊したりしたら、お姉ちゃんに何を言われるか……」
甚平が蒼くなった。
「良く見てみろ。どこに傷がついた?俺は相当に手加減したんだぜ」
「あ、ホントだ…」
羽根手裏剣はブツだけを確実に仕留めている。
素早く動く『奴』を、手加減をした事でスピードが落ちている羽根手裏剣で仕留めるとは、相変わらず見事な手腕である。
甚平はすっかり感心した。
「さすがはジョーの兄貴だ……」
以前もっと遥かに小さな蚊を羽根手裏剣で落とした事があるジョーだが、その時にはイライラしていた事もあってか、トレーラーハウスの花瓶を粉々にしてしまった。
「あら、ジョー。貴方、ずっと店番しててくれない?」
何時の間にか帰って来ていたジュンがしっかりとそのシーンを見ていた。
「俺は客だぜ?何で店のゴ●●リ処理を担当しなけりゃならねぇんだよ?
 いっその事、健をボディーガードならぬゴ●●リガードとして雇ってやっちゃあどうだ?
 ツケをチャラにしてやるって言う餌で釣れば喜んでやるんじゃねぇのか?」
「あら、それ名案!」
ジュンがパチンと指を鳴らした。
「そうしたら、兄貴とずっと一緒にいられてお姉ちゃんも幸せって訳だね。
 ツケも帳消しでお姉ちゃんがイライラする事がなくなるから、おいらも助かるな。
 そいつはグッドアイディアだよ、ジョーの兄貴!」
甚平が子供らしく弾んだ声で言った。
しかし、ジョーは首を傾げた。
「そうかな?果たしてガッチャマンがそんな事をやるかね?
 俺は飽くまでもギャグとして言ったんだぜ…」
「ええっ?ジョーの兄貴もギャグなんか言うんだぁ。メモしとこ……」
甚平は伝票に何やら書き込む振りをした。
「いいから、甚平。そこに落ちてるのを処分して来てよ。
 羽根手裏剣がついてるから拾い易いでしょ?」
ジュンがそっぽを向きながら、甚平に命令口調で言った。
「結局その役割はやっぱりおいらなんだ……」
甚平がしょげて見せた。
「こいつを退治する為に羽根手裏剣なんか使っていたら、博士に怒鳴りつけられるな。
 俺も程々にしておく事にするぜ」
「羽根手裏剣の製作費って1本いくら位なのかしら?」
「そんな事、俺が知る訳がねぇだろ?」
「エアガンにエネルギーを充填するのとどっちが安上がりなんだろうね?」
「甚平まで、何だって急に経費の話なんかしやがる?」
「おめぇらの武器は時には爆弾として使い捨てる事もあるが、エアガンはそう言った事はねぇ。
 それを考えればエアガンの方が経済的かもな。
 だがよ、闘っている時にそんな事を考えていられるかよ!?」
ジョーは何故だか無性に腹が立って来た。
自分が言い出した事がこんな方向に話を進める事になるとは思わなかったのだ。
「別に羽根手裏剣の使い過ぎを咎められた事は1度もねぇ。
 使った数を数えた事もただの1度もねぇさ。
 俺はただ、たかがゴ●●リ退治の為に使うのはどうか、と言っただけだぜ」
「自分が使った癖に……」
甚平がごちて、ジョーの軽い拳骨を脳天に喰らった。
「何でもいいから、早く『それ』を捨ててらっしゃいっ!」
ジュンの叫び声が店の外まで響き、道行く人々が振り返っていた。




inserted by FC2 system