『忍者隊戦力分散作戦(前編)』

ギャラクターの鉄獣メカを撃破したゴッドフェニックスはまさに帰還しようとしていた。
その時、レーダー席のジョーが気掛かりな反応をキャッチした。
「健!北東2500の地点に妙な反応があるぜ!」
「何?」
竜以外の3人がジョーの後方に集まって来た。
まるで神出鬼没な未確認飛行物体のように点滅しては消え、突然別の場所に同じ反応が現われている。
「これは一体何だ?」
「博士に報告しよう」
健がブレスレットに向かっておかしな現象を報告した。
「今、こちらでもこの不思議な物体をキャッチして追跡している。
 まるでテレポーテーションでもしているかのような動きをしているが、これが1つの物体なのか、それとも複数の物体が同じ波長のデータを放出しているのかまだ解らん。
 調査はこちらで進めるから、君達は一旦帰還してくれたまえ」
「ラジャー!」
ゴッドフェニックスは機首を三日月基地の方角へ向けた。

全員バードスタイルを解かないまま、司令室へと集合した。
「電波を分析した結果、ほんのコンマ数秒だが、2箇所で同時に発信があったのを確認した。
 つまり、これは1つの物体がテレポートしているのではなく、複数…少なく見積もっても5箇所から電波が発せられている、と言う事だ」
「ギャラクターでしょうか?」
健が訊ねる。
「ISOを通じて各国に問い合わせをしているが、該当する回答は無かった。
 つまりはギャラクターである可能性が非常に高い、と言う事だ」
「5箇所だとすると…、俺達5人を分散させ誘き寄せようとする罠って事も考えられますね」
ジョーが腕を組んだ。
「その通り。ジョーの意見は可能性の1つとしては否定出来ない。
 もう一歩調査が進んでみなければ解らないので、レッドインパルスと情報部が密かに探っている」
「正木さんと鬼石さんが?」
健の眼が輝いた。
レッドインパルス…。
彼の父がかつて率いたもう1つの南部博士直属の戦闘部隊であった。
「情報部は別として、レッドインパルスの情報には期待出来そうですね」
ジョーも言った。
彼は鼻から情報部の事は余り信用していなかった。
「罠だったらどうするの?」
甚平が子供らしく訊ねた。
「そりゃあ、それと承知の上でこっちから叩いてやるのみよ」
ジョーが甚平のメットの上に手を乗せた。
丁度いい高さだ。
だが、彼の行為は勿論そう言う事ではなく、口には出さないが甚平を弟のように可愛がっていた。
自分よりも小さい頃から既に両親が亡かった甚平は、家族のぬくもりと言うものを知らない。
ただジュンと身を寄せ合って孤児院で生きて来たのだ。
そんな甚平に同情とは違うが、弟を見守る兄のような気持ちが芽生えていたのは事実だった。
甚平のいじらしさはジョーの眼にはより健気に映っていた。
「ジョー、先手を打つにしても作戦を練らなければならんぞ」
「解っています」
博士が先走りそうな彼をそっと嗜めたが、ジョーは解っていた。
「とにかく情報を待つ事にする。諸君はバードスタイルを解いて、基地内で待機していてくれたまえ」
「ラジャー」
そこで一旦解散となった。

5人は司令室から出なかった。
すぐに対応出来るようにと言う健の命令によるものだった。
「それにしても、ギャラクターの奴、おら達に鉄獣メカを破壊されたばかりなのに、もう次の行動を起こしているとは、余りにも早過ぎるぞい」
「同時進行で進めていたとしか思えないわね」
「こっちは5人だが、あちらは人海戦術で来る。隊長の数もメカ鉄獣の数も数知れない」
健の瞳が憂いを湛えた。
「敵の拠点が5箇所だったとして、だ。
 俺達は各Gメカの装備だけで立ち向かわなければならねぇぜ。
 同時多発テロって訳か…。
 くそぅ、ギャラクターめ、俺達の戦力を分散させて1人ずつ斃すつもりたぜ」
「カッツェのやりそうな事さ」
語気を荒げるジョーに健が応じた。
「おい、健。こんな所にいるよりも、各自のメカを整備しておいた方がいいんじゃねぇのか?」
「そうだな。ジョーの言う通りだ。ゴッドフェニックスの格納庫へ行こう」
各GメカはG−5号機に格納、つまりはゴッドフェニックスとして合体した状態で格納庫にあった。
すぐにでも出動出来るようにしてあるからである。
5人はゴッドフェニックスに整備用機材を持って乗り込み、それぞれが自分のメカを入念に整備した。
小1時間もした頃、健から各自へ通信が入った。
『みんな整備は終わったか?終わったらコックピットに集合だ』
コックピットに集まった5人は南部博士に情報収集の様子を訊ねた。
『今の処、まだ重要な手掛かりは得られていない。待機を続けてくれたまえ』
と言う答えが帰って来た。
「健。おら腹が減ったぞい…」
「おいらも」
竜と甚平が空腹を訴えた事で、全員が基地内のレストランへ向かう事になった。

「ジョー。悪いんだが、食事代を立て替えておいてくれないか?」
健が済まなそうに片手拝みをする。
「さすがのガッチャマンも此処ではツケで飲み喰いは出来ねぇか……」
ジョーは苦笑した。
それが承諾の合図だった。
「兄貴ったら情けないなぁ…」
「甚平ったら、余り健をいじめないの。
 こう任務が立て込んでは航空便配達のバイトも続けられないわ」
「あれ?自分の店のツケが増えない時には随分と大らかなんだね、お姉ちゃん」
「お前ら、冗談言ってる場合じゃねぇぜ。いつ召集を掛けられるか解らねぇんだ。
 すぐに食べられる物を選んで、さっさと腹拵えをしろ」
「ジョーの言う通りだ」
健はすぐにメニューを決めた。
ジョーも同様だ。
このような非常時にはそう言った事も考えて行動する。
科学忍者隊として叩き込まれたこれも1つの知恵である。
「さっさとしろ。みんなカレーライスで構わねぇだろ?」
業を煮やしたジョーが、カレーライスを5人分注文した。
カレーライスならすぐにルーをライスに掛けて出て来る。
出来上がりを待つ必要がない代物だった。
「イタリアにもカレーライスなんてあったの?」
甚平が興味津々で訊ねた。
「初めて喰ったのはこっちに来てからだ。でも、意外に口に合ったぜ」
ジョーはそれだけ答えて、後は食べる事に専念した。
余計な事を喋っている間にさっさと食べろ、と言う無言の圧力だ。
全員が静かになってカレーライスを食した。

彼らは再び司令室に戻った。
南部博士の姿はまだない。
別室で刻々と集められる情報を整理しているのだろう。
夜も更けて来て、甚平が思わず欠伸をした。
「よし、交替で仮眠を取ろう。3時間交替だ。まずはジュン、甚平、竜」
健が指示を出した。
3人はそれぞれがソファーに横たわり、眠り始めた。
「ジョー、今回のギャラクターの動きについてどう思う?」
2人並んで窓の外の眩い海を見ながら、健が皆を起こさないようにそっとジョーに囁いた。
「毎回俺達に鉄獣メカを叩かれて、ギャラクターも本格的に俺達を殺す気になったんだろうぜ。
 今も俺達が出撃して来るのを今や遅しと待っているに違いねぇ。
 これまでも街を攻撃して俺達を誘き出そうとした事は何度もあるが、戦力を分散させて科学忍者隊5人をバラバラにしようとする方法は無かったんじゃねぇか?」
「そうだな…。それにしても沈黙が長い…。
 俺達を誘き出すのなら、お前が今言った様に街を攻撃するのが今までの奴らの手口だ」
「大っぴらにやるよりも、俺達を分散させて隠密行動に出させるには僅かな情報を小出しにして行く方法が都合がいいと考えたんじゃねぇのか?」
「奴らも俺達を警戒しているって事だな。それも今まで以上に」
「ああ…。今回は俺達も危ねぇかもしれねぇぜ」
「ゴッドフェニックスで出撃して1つ1つを叩いていたのでは、他の拠点でどんな動きをされるか解らないからな」
「健。何だか嫌な予感がする。今まで以上に危機感を感じるんだ」
「ジョー、お前もか?」
リーダーとサブリーダーの思いは同じだった。
2人は腕を組んで渋面を作った。
その後どうなっているのか進捗状況もはっきりしないまま、益々夜は更けて行った。




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