『忍者隊戦力分散作戦(中編)』

「諸君…」
南部が司令室に入って来たのは、深夜の2時を回っていた。
「ああ、交替で仮眠を取っていたのかね?」
「すみません。博士がずっと起きてらっしゃるのに……」
健が詫びた。
「いや、体力を温存しておく事は戦士として重要な事だ」
「で…?何か解ったんですか?」
ジョーが訊ねた。
眠そうな様子は2人ともない。
「とにかくまずは2人に話そう。こちらに来たまえ」
博士はコンピュータールームへと2人を案内した。
「これを見たまえ。今しがたレッドインパルスが送って来たデータだ。
 この設計図を解読するのに手間取ったが、これは君達のマントを突き破る威力のあるレーザービームである可能性が高い。
 つまりはこれで君達から羽をもぎ取ろうと言うのが今回のギャラクターの狙いであると考えられる」
「マントを狙って来るとは、さすがの着眼点ですね…」
健が唸った。
「5箇所の基地は全てジャングルの中に設置されている事も解った。
 また、それぞれの距離が離れていて、闘いが終わったからと言ってすぐに仲間を助けに行くのは難しい。
 つまりは1人ずつで何としても基地を叩かなければならないと言う事だ」
「健と俺は身体能力でカバーして何とかなるかもしれませんが……他の3人が心配ですね……」
ジョーが呟いた。
「その通りだ。そこで私は考えた。
 まずは健とジョーには1人ずつ単独行動を取って貰おう。
 君達2人は身体能力が優れているので、何とか1人ずつで乗り切って貰いたい。
 ジュンには国連軍の援護をつける。また、甚平には正木君、竜には鬼石君が援護に付く。
 これが私が考えた体制なのだが、どう思う?」
「悪くないんじゃないですか?ジュンに付く国連軍がちょっと頼りない気もしますが、ジュンならやってくれるでしょう」
ジョーが健の顔を見た。
健もそれに眼で同意していた。
「健とジョーはまだ仮眠を取っていないのではないかね?」
「そうですが…。特段問題はありませんよ」
ジョーが答えた。
「そうか。では、3人を起こして、作戦会議を開こう。これからレッドインパルスと国連軍の代表がやって来る」
「ラジャー」

戦力は分散する事になったが、ジュン、甚平、竜には援護が付くので何とか連携プレーで任務を全うしてくれるに違いない。
問題は健と俺だ……。
ジョーは考えていた。
お互いに孤軍奮闘しなければならない。
そして、それぞれに仲間の応援を期待する事は出来ない。
ジャングル地帯に作られた5つの基地は、ジャングルでカモフラージュされているだけに、外から攻撃するのは難しい。
密かに内部に潜入し、内部から破壊するしか手立ては無かった。
それも、マントを狙うレーザービームを回避しながら行なわなければならないので、いつものように肉弾戦にだけ気を遣っていれば良いと言う状況ではなかった。
だからこそ、南部は身体能力と判断力に優れた健とジョーに1人で行く役目を与えたのだ。
「この設計図から判断すると、このレーザービームを照射されると、諸君のマントは一瞬にして焼け落ちる。
 諸君の戦力が大きく削がれる事となるのだ」
「つまりは最初にこのレーザービームを探し出し、破壊するのが確実って訳ですね」
「ジョーの言う通りだ。だが、基地内の何処に設置されているかまでは掴む事が出来なかった」
「それでも博士。俺達は行くしかありません」
健が凛とした態度で言った。
「このまま放っておけば、ギャラクターは業を煮やして街を攻撃し始めるに違いありません。
 それを未然に防がなければなりません」
「健。やってくれるか?」
南部が健に手を差し伸べて来た。
健はそれを固く握り返した。
「諸君の成功を祈る!」
南部の声に押し出されるように彼らは各自のメカに乗り、それぞれの担当区域へと別れたのだった。
ジョーはボタンを押して、コックピット内のモニターに地図を映した。
(とにかく行くしかねぇ。後は日頃の訓練の成果に期待するしかねぇだろう。
 自分の戦闘能力を信じて行くしかない!)
一瞬眼を閉じて身体に漲る闘志を呼び起こすと、ジョーはG−2号機のアクセルを踏んだ。
その時、彼はまだ自分が担当する基地が一番大規模で、洗練された戦士が揃っている場所である事を知らなかった。
大きさは健の担当区域と変わらないのだが、実は最高の精鋭部隊が揃っている基地に彼が当たったのである。
南部博士はこの2つの基地のどちらかが今回の作戦の本拠地であると見ていたが、どちらがそうなのかまでは判別し兼ねた。
健とジョーのどちらかを行かせれば、十二分にその能力を生かして、壊滅してくれるものと信じて成功を祈っていたのだ。
だから、その2つの基地に2人を当てたのである。
そして、その当たりくじはジョーが引いたのであった。

ジョーはG−2号機を乗り捨て、慎重にジャングルの中を探って回った。
不思議な事に居る筈の動物達が居なかった。
途中何かの仕掛けがあって襲われるかもしれないし、赤外線センサーが張り巡らされている可能性もあったので、G−2号機で奥地まで入り込む訳には行かないと判断し、彼は徒歩でジャングルを分け入って来た。
「おっと危ねぇ…」
ジョーは口の中で呟いた。
案の定、木から木へ赤外線センサーが張られているのが解った。
これは木と見せ掛けた精巧な偽物だ。
ジョーは難なく赤外線レーザーを飛び越えて先に進んだ。
赤外線センサーは所々に現われた。
やがてギャラクターの兵士が3人程ジープで走っているのに出くわした。
ジープは基地内に入ろうとしているようだった。
どうやらこのジープには赤外線を跳ね返す細工がされているらしい。
ジョーは密かにジープの後部へと張り付いてそのまま基地内へと潜入した。
やがてジープが停まるとジョーは音を立てないように慎重に降り、ジープの車体の下へと潜った。
「科学忍者隊はまだか?」
甲高い声が聞こえた時、それがベルク・カッツェの物である事はすぐに解った。
(どうやら此処が本拠地らしいな。俺が当たりくじを引いたか……)
ジョーはブレスレットに向かって小声で囁いた。
「こちらG−2号。南部博士。カッツェがこの基地にいます」
『そうか。そこで総指揮を採っているのだな。レッドインパルスを応援に行かせよう』
「いえ…。彼らは甚平と竜に付けてやって下さい。
 甚平はまだ判断力に欠ける事もあるでしょうし、竜は実戦には慣れていません。
 此処は俺が何とかします。じゃあ通信を切りますよ」
ジョーは一方的に通信を切った。
長時間話して通信を傍受されるとマズイと判断したからだ。
ジョーは周囲の様子を警戒して周りに人がいない事を確認すると、ジープの車体の下から姿を現わした。
(さて、さっきカッツェの声がしたのは……?)
あれは通信機やモニターからの声ではなく、カッツェの肉声だった。
ジョーは針の落ちる音も聞き分ける訓練を行なっている。
カッツェの声がした方角をジープの下からでも聞き分けていた。
(向こうだっ!)
周囲を見回していた彼が、フッと姿を消した。
彼が見ていた先には通路があった。
赤外線センサーに注意しながらも、素早く移動して行く。
機械音が多くなり、敵の中枢区域に入って来たのが解った。
(ん?)
ジョーはガラス張りになった部分の下が工場になっている事に気付いた。
気配を殺して覗き込む。
(此処にはメカ鉄獣も装備していたのか……。さすがに本拠地にしているだけはあるぜ)
ジョーは下に降りる道を探した。
密かにメカ鉄獣に爆弾を仕掛け、こちらで操作をする事で爆発するようにする為だ。
整備兵が10名程いたが、ジョーはその間隙を素早く縫って、気配を感じさせずに猪型のメカ鉄獣の腹部に当たる部分に無事爆弾をセットした。
遠隔スイッチで爆破出来るようになっていた。
(お次の仕事はレーザービーム砲を探す事だな。
 残念だが、カッツェを見つける前にそっちを抑えておかなければ……)
だが、レーザービーム砲は恐らくカッツェの近くにあるだろう、と言う事もジョーには解っていた。
とすれば、やはりこの基地の中枢部、即ちカッツェの司令室に忍び込む他はなさそうだ。
これは危険な仕事だ。
ジョーもその事を強く自覚していた。




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