『連携プレー』

空を舞う敵メカの装甲は厚かった。
ジョーがバードミサイルで侵入しやすい排気口を破壊した。
敵はこちらがバードミサイルを外したと思って油断しているに違いない。
「よし、竜は待機。他の4人は敵メカに進入し、ジュンと甚平は動力室の爆破、俺とジョーは司令室を探し、カッツェを追い詰める」
「ラジャー!」
健の指示で全員が機敏に動き、トップドームへと出た。
「バードフライ!」
4人は1000mもの高さの空を身軽に飛び、ジョーが破壊して広がった排気口から鉄獣メカ内へと侵入した。
「ジュン、甚平、慎重にな」
「あたぼうよ!」
「任せといて!2人も気をつけて」
と彼らは二手に分かれた。

健はジョーと共に行動を取る時には安心して自分の背中を任せられると信頼していたし、ジョーも同様だった。
お互いの実力が伯仲しているからこそ、互いに認め合っていた。
どちらかがしくじり、ピンチに陥る可能性が一番低い組み合わせであると言えた。
そして、万が一ピンチに陥った時でも、どちらかがどちらかを必ず救い出せるペアであった。
性格は正反対で反目する事すらあったが、良い意味で相手の闘い方の癖を知り尽くしている。
そうして辿り着いた『信頼』だ。
互いに科学忍者隊の最高峰のコマンダーとして、闘いに集中出来る唯一の相棒だった。
「健!雑魚は俺が一手に引き受けるから、構わずに先を行け!俺もすぐに追いつく!」
ジョーがそう言った時には、既に敵兵の気配が感じられていた。
ジョーはそれを承知の上で健にそう言ったのである。
「気をつけろよ!」
「ああ……。おい、おめぇらの相手はこの俺だ!掛かって来やがれ!」
ジョーは既に戦闘態勢に入っていた。
ギャラクターの隊士を引き付けながら、健が先に行きやすいように道を塞いだ。
勿論その先にも敵兵はいるだろう。
ジョーは早く此処を片付けて健の加勢に回るつもりだ。
その細い筋肉質な身体からは重いパンチと蹴りが繰り出される。
短時間の間に彼の周りには多くの隊士がドサドサと山のように倒れて行くのだ。
動きが素早い。
ギャラクターの兵士には彼の動きを見切れなかった。
ある隊士と戦っていたかと思えば、次の瞬間には驚くべき場所で攻撃を仕掛けている。
更には羽根手裏剣やエアガンと言った投擲武器も使うので、効率良く敵を倒して行く事が出来るのが、彼の闘い方の特徴だった。
羽根手裏剣が同時に10本舞い、不思議な事に全て残り余す事なく、敵兵の銃を持つ右手に命中していた。
エアガンのワイヤーで、敵兵の首を絞め、三日月形のキットで纏めて15、6人を薙ぎ払った。
ジョーにとってギャラクターの一般隊士などは敵ではない。
あっと言う間に通路には気を失った敵兵が累々と重なっている。
彼の身体能力は南部博士に見込まれた以上の成果を発揮していた。
これだけの闘い振りを見せてくれるだけに、健も安心して彼に任せる事が出来た。
他のメンバーなら気掛かりを残す事もあったが、ジョーならば太鼓判付きだ。
その太鼓判は健自身が押したものだ。
彼にとってはこれ以上信頼出来るものはなかった。
ジョーはサブリーダーである自分の立場を良く解っていた。
感情が先走る事もあったが、リーダーの健の補佐としてジョーは確実に成長していた。
ジョーは自分の『分』と言うものを知っている。
自分がリーダーの器ではないと言う事も。
だが、サブリーダーとしてなら華麗な働きを見せる事が出来る。
それが彼の分相応な立ち位置なのだ。
だから健には先に行かせる。
自分が敵を食い止める。
そして、また追い掛けてフォローをする。
そう言った阿吽の呼吸が出来上がっていた。
勿論、カッツェをこの手で、と言う野望は捨ててはいない。
だが、自分の分を超えてまで自分が先に先に、と見境なく動く事が決して得策とは言えないと言う事を、ジョーは察するようになったのだ。
これは健が父親の死で我を失った辺りから培われて来たものであろう。
やがて自分の不調を自覚し、生命の限界を知るようになるまでは、ジョーがそれ程大きな暴走をする事はなくなっていた。

敵兵を一通り片付けた処で、ジョーは先を急いだ。
健の気合が感じ取れる。
健もまた敵兵の襲撃に遭っている筈だ。
そこに辿り着いたら、またそいつらを引き受けて、健を先に進めさせる。
ジョーはその役割を果たすべく、風よりも速く通路を走り抜けた。
「健!待たせたな。此処は俺に任せて先に進め!」
「早かったな……」
健は呆れ顔で呟いた。
彼が驚く程、ジョーは八面六臂の活躍で敵陣を切り開いて来たのだ。
「呆れる程の早さだ。じゃあ、此処は任せる」
健は言うが否やブーメランで前方を塞いでいた敵兵を倒して、また走り始めた。
この連携プレーの繰り返しで、彼らはギャラクターの鉄獣メカや基地をいくつも破壊して来たのである。
ジョーには敵の司令室に到着するまで、健の体力を出来るだけ温存しておきたいと言う考えもあった。

そうして、ジョーは再び健に追いついた。
司令室の中での乱闘が始まっていた。
2人は背中合わせになり、最強のタッグを組んだ。
ジョーは羽根手裏剣に小型時限爆弾を差し込んで、司令室の中枢コンピュータに向かって投げつけた。
それは狙い違わずしっかりとコンピュータに突き刺さる。
「健、5分後に爆発するぜ」
「解った!」
「それより、カッツェはどこだ?」
背中を寄せ合いつつ、それぞれの投擲武器で敵を薙ぎ倒しながら、2人は息を合わせて移動した。
「見当たらないようだぜ」
健が呟いた時、スクリーンが光った。
『はははははは。残念だったな。私はそのメカには乗り込んでおらん』
スクリーンから突如カッツェの姿が現われた。
「何?まさか同時進行で別の作戦を?!」
『そう言ったこちらの手駒については教えられんな。ふはははははは!
 その鉄獣メカと一緒に滅ぶがいいぞ、ガッチャマン!』
スクリーンから光が失せた。
「健!こちらの爆弾が爆発する前にこのメカが自爆するかもしれんぞ!」
ジョーが怒鳴った。
「ああ!ジュン、甚平!聞こえるか?」
『こちらG−3号』
『こちらG−4号、どうぞ!』
「この鉄獣メカはどうやら自爆するらしい。任務はどうだ?」
『もち、完了よ!』
「すぐに脱出せよ!」
『ラジャー!』
「よし、ジョー、俺達も脱出だ!」
「む?」
ジョーはギャラクターの1隊士が必死になってコンピュータからデータを書き出そうとしているのを発見した。
「健、先に脱出してくれ。俺はこいつを戴いて帰る」
ジョーは爆音が響き始めた中、小さく呟いた。
「ジョー。無茶はするな!」
「解ってるぜ。データは出来るだけ多い方がいい。ギリギリまで待って頂戴して帰るぜ」
「それなら俺も残る」
「馬鹿言え!おめぇは科学忍者隊のリーダーだ。危険を犯すのは俺だけでいい。早く行け!」
「ジョー……」
「危なくなったら諦める。心配するな」
ジョーは微笑して見せた。
健は安心したように頷くと、「データより生命だ。解ってるな!」とリーダーらしく言い残して、マントを翻した。

「全く立派な根性だな。逃げずにデータを守ろうとするなんてよ。
 他の奴らを見てみろ。とっくに逃げ出してるぜ」
ジョーは最大限の賛辞を与えたつもりだった。
ギャラクターの隊員の首に一撃を加えると、データが書き込まれたディスクが出て来るのを待った。
ジョーが仕掛けた爆弾は後1分半で爆発する。
このメカの自爆装置は後何分か?
生命賭けだった。
『ジョー!早く脱出しろ!時間がないっ』
ブレスレットから健の声が響いた。
「くそっ。此処までか!」
ジョーが身を翻そうとした時にデータファイルが飛び出した。
「よし!ついてるぜ」
ジョーはそれを手に走り出した。
敵の残兵が通路に残っていたが、攻撃を仕掛けて来る物は殆どなかった。
だが、ジョーの左手にあるのが重要機密であると知ると、慌てて追っ手が追い掛けて来た。
「科学忍者隊が持っているのは重要機密だ!絶対に生きて此処から出すな!」
周りを鼓舞する声が響き渡った。
「こりゃあ、益々てめぇ達に返す訳には行かなくなったぜ」
ジョーはニヤリと笑った。
「健!このデータは奴らが目くじらを立てる程の重要機密らしい。
 何としても奪われずに脱出する!ギリギリまで待ってくれ!」
ジョーはデータファイルを腰のベルトにしっかりと挟み込み、追っ手を羽根手裏剣とエアガンで追い払った。
下手に肉弾戦を行なうと、ベルトからデータファイルが滑り落ちないとも限らない。
こいつを死守しなければ…とジョーは思った。
先程侵入して来た排気口の光が見えて来た。
『ジョー!早くしろっ!』
「もう少しだ!」
ジョーは追っ手を牽制しながら、疾風のように走った。
敵が撃ったレーザーガンが右腕を掠ったが、ジョーは構わずに走った。
「竜!頼むぜっ!」
ジョーは腰のディスクをしっかりと手に持ち替え、排気口から跳躍した。
間一髪、鉄獣メカが多くのギャラクター隊員を見捨てたまま爆発した。
末端の隊員にはこうして切り捨てられるのだ。

ジョーが奪って来たディスクは南部博士によってすぐさま解析された。
それは次なる作戦のデータだった。
これで未然に防ぐ事が出来るだろう。
「ジョー、でかしたぞ。だが、危険を犯した事は余り関心出来んな」
博士は眉を顰めた。
右腕の傷は掠り傷だった。
「だが、生命を落とす事もある。諸君、くれぐれも無茶は行かんぞ」
南部は全員を見渡すとそう言って司令室を出て行った。




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