『恋人であり良き理解者』

気分がムシャクシャした。
カッツェの奴にまたしても逃げ仰せられたからか…。
あいつを葬り去るまでは死んでも死に切れねぇ。
いつの日かあいつの被っている山猫のような仮面を取ってやる。
紫の君よ、貴様が生きている限りこの地球が救われる事はないだろう。
俺はG−2号機でいつものサーキットを飛ばした。
俺が悔しい時、哀しい時、辛い事があった時、自分が不甲斐なく感じられた時……、いつもこいつと一緒に走った。
G−2号は俺の全てを見て来た。
誰よりも俺の全てを知り尽くしている相棒だ。
今日はステアリングのキレがいい。
最高の走り心地だ。
こんな時にはスクランブルが入らないで欲しいものだ。
G−2号機と一体になれたと感じた時の爽快さは他にはない。
(恋人と過ごしたりはしないのかい?)
G−2号機は生意気にも笑いやがる。
(お前が俺の恋人だろ?)
酸いも甘いも知り尽くした相手だ。
たまには闘いを離れてお前とただ飛ばすだけ、って言うのも乙なもんだぜ。

ふと、観客席に居る数人の集団が眼に入った。
今日はレースが無い日だと言うのに…?
俺は気にはなったが、G−2号と走る事の方がそれらを詮索するよりも魅力的だったので、そのまま放って置いた。
30周周回して、タイムを聞くと自己ベストを更新していた。
道理で爽快な気分で走り終えられた筈だ。
やっぱりお前は俺にとって恋人以上の存在だな……。
クルーからバスタオルを受け取る。
ミネラルウォーターを飲み干すと、改めて先程の観客席の連中が気になった。
何となくだが、あいつらのような気が……。
「ジョーの兄貴ィ!」
甚平が手を振った。
やっぱりあいつらか。
健、ジュン、甚平、竜。
4人も雁首を並べて何してやがる?
健、たまにはジュンをどこかお洒落なレストランにでも誘ってやれよ…、と言おうと思ったが、奴はオケラだったっけか、と思って口に出すのを控えた。
「やっぱり此処だったわね。カッツェをもう少しで捕まえられる処だったのに強化ガラスに阻まれて、本当に悔しそうだったから、多分此処で憂さ晴らしをしていると思ったわ」
ジュンが風に緑色の髪を靡かせて言った。
「そう言うお前らはこんなとこで何してやがる?」
「ジョーの憂さ晴らしを見ているとこっちも何となくスッキリするんだよね〜」
甚平が口笛を吹く。
こいつら任務を離れたらやる事がないのかよ!?
俺は心底呆れて、彼らの顔を見回すのだった。




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