『秘密基地建造を阻止せよ!(2)』

ジョーは甚平に自立を促しつつも、実際には保護者のような気分でさり気なく彼の事を守ろうとしていた。
甚平の自尊心を傷つけないように、飽くまでもさり気なく、だ。
そんな気遣いが出来ている内はまだ戦況に余裕がある、と言う事でもある。
甚平を後方から狙っている敵がいれば、甚平が気付かないように無言で羽根手裏剣を繰り出して行く。
勿論、甚平自身の戦闘能力もギャラクターの雑魚兵士に対して引けは取らない。
また、子供ながらの着眼点で驚くべき闘い方をしたり、知恵を絞る事があるので、ジョーは甚平に一目を置いており、比較的安心感を持って彼を見守っていた。
彼は小さいながらも自分の目線の低さをこれまでの闘いの勘でカバーして来た。
しかし、それではカバー出来ない事も稀にはあったのだ。
本来ならば小学校に通っているような子供だ。
闘いの途中でさえも、注意力が散漫になる事もあった。
ジョーが甚平と共に任務に就く時は、そう言った微妙な部分に気を遣っている。
勿論、時には叱り付ける。
恐らくは健が同行する場合も同じではないか、とジョーは密かに思っている。
科学忍者隊として彼の戦力が立派に役に立っている事を甚平にはもっと自覚させなければならないのだ。
それこそが彼の自立に繋がって行く。
実際の処、実戦経験はゴッドフェニックスでの待機が多い竜よりも多いだろう。
「甚平!こいつらをさっさと片付けようぜ」
「解ってるよ、ジョー」
凸凹コンビは奮闘していた。
それぞれの投擲武器が面白いように、敵をバタバタとなぎ倒して行くが、何しろ建造中の基地が近いだけあってか、敵兵はどんどん増えて来て、いくら闘っても切りがなかった。
ジョーはこの辺りが潮時と判断した。
このまま闘い続けても時間の無駄だ。
「甚平!爆弾を使って一時的に避難するぜ」
「ラジャー!」
ジョーはペンシル型爆弾を取り出して、手榴弾を投げ付けるかの如く、出来るだけ遠くに投げた。
それを眼晦ましとして、2人はマントを開いてジャンプし、姿を隠した。

「健!南部博士の分析結果は出たか?
 ギャラクターは間違いなく近くに大掛かりな基地を作ってやがるぜ!」
「そうだよ兄貴。ギャラクターがわさわさ出て来るぜ。
 おいらのG−4号機が見つかっちまったみたいだよ」
『博士はやはりパパリア島本島のすぐ真下に大掛かりな人工的建造物があると睨んでいる。
 俺達は海域の汚れは建造物を造設している時の汚染物質だろうとの事だ。
 群発する地震もどうやら基地を作る時の振動から来ているらしい』
「随分派手にやってるな。本当に基地を作るのが目的なのか?
 まさか、俺達を誘き出す陽動作戦じゃねぇのか?
 まあ、俺はそれでも構わんがな。思いっきり暴れてやるまでさ。
 ……で?おい、リーダー、どうするよ?」
『博士の指令は、秘密基地建造を阻止せよ!だ。俺達はゴッドフェニックスで海中から乗り込む。
 ジョーと甚平は俺達とタイミングを計って、地上から乗り込んでくれるか?』
「ラジャー!すぐにスタンバイしておくから、タイミングはそっちから指示してくれ」
その時、また大きな地震が発生した。
ぐらりぐらりと眩暈でも起こしているような錯覚を受ける。
「ジョー、この地震はまた暫く群発するだろう。群発地震が10分途切れたら突入する!
 また連絡するから待機していてくれ」
「OK!おい、甚平、メカに戻るぜ!
 敵がメカを囲んで待ち伏せしている可能性もある。充分に注意しろ!」
大きな揺れの中、おっとっと…、と地面をヨロヨロとしていた甚平がキッと唇を結んで顔を上げた。

ジョーが危惧した通り、並んで置かれていたG−2号機とG−4号機の周囲には僅かながら敵兵が残っていた。
が、ジョーと甚平が闘いながら移動したので、殆どがそちらに行ったようだった。
「甚平、音を立てるな。俺がやる」
ジョーの唇には何時の間にやら羽根手裏剣が5本咥えられていて、右手には既に2本が在った。
ピシュっ!と数回音がしただけだった。
敵が7人、どうっと倒れ、辺りを静寂が支配した。
「さすがだね〜。ジョーの兄貴!」
甚平が指を鳴らしたが、ジョーはまだ警戒を解いていない。
周囲に注意のアンテナを張り巡らせている。
「よし、甚平!乗れ!」
ジョーが警戒を解いたのが甚平にも解った。
「健っ!こっちはスタンバイOKだ!」
『解った。地震の間隔が少し広がって来ている。
 これまでのデータでは、そろそろ群発地震が一旦止むだろう。
 合図をしたらすぐに出られるように頼むぞ!』
ブレスレットからは沈着冷静なリーダー・健の落ち着いた指示が流れて来た。

「そろそろだな、甚平……」
ジョーはブレスレットに向かって呟くと、ステアリングを握り直した。
『ジョーの兄貴と一緒だと何だかワクワクするな』
「おい、遊びじゃないぜ…」
ジョーが呆れた時に、健の指令が入った。
『ジョー!甚平!1分後にゴッドフェニックスが突入する。
 そちらは今から動いてくれ!』
「ラジャー!」
ジョーは思いっ切りアクセルを踏み込んだ。
G−2号機のエンジンが唸りを上げた。
G−4号機はスピードに掛けてはG−2号機よりも劣る。
「甚平、先に行くぜ!早く来いよ!」
ジョーは先程貨物輸送機を飲み込んだ火山の山肌に向かって、ビュンと風を切って飛び出した。
ガトリング砲を繰り出し、攻撃を掛けると、見事に偽装されていた出入口にぽっかりと風穴が空いた。
「よし、甚平、行くぜ!」
ジョーはそのまま火山を垂直に近い角度で上り、今空けた穴から中へと突入した。
中は海底基地に向かう通路のようになっていた。
G−2号機はそのまま頭から落ちる形となった。
『ジョーの兄貴、大丈夫?G−4号機で拾って上げようか?』
「馬鹿言え!大丈夫だ!このまま突っ込むぜ!」
ジョーは驚いた事に、円筒形に切り取られたような海底へ向かう無機質な通路に上手くタイヤを着地させ、真下に向かって走り出した。
G−2号機の走行性は大したものである。
甚平はジョーの余りの乱暴振りを口をあんぐりと開けて見ていたが、我に返ってG−4号機を操作した。
こちらは飛ぶ事が可能なので、難なく降りて行く。
「ジョーの兄貴、あれじゃ走ってると言うより落ちてるんじゃないの?
 いや、滑ってるのかな?」
と独り言を言う余裕まであった。

ジョーの方は余裕など全く無かった。
甚平の言う通り、『滑り落ちている』と言った感覚だった。
(着地の時に上手くやらねぇとな…)
ジョーは神経を集中させていた。
下手な落ち方をすると、敵基地にG−2号機を頭から突っ込ませる事になり兼ねなかった。
しかし、早い。
それはそうだ。
最早走っているのではなく、確かに『垂直に落下』しながら滑り落ちているのだ。
ゴッドフェニックスが突っ込んだのか、大きな揺れが来て、火山の岩肌が上からゴツンゴツンと機体に衝撃を与えて来た。
(まだか…?)
さすがのジョーも焦りを感じた時、ついに下が見えて来た。
円筒形の通路が少し広くなって来た。
ジョーはその角度を上手く利用して着地し、事なきを得た。
ギャラクターの隊員達が慌ててマシンガンを手にわらわらと現われて来る。
ジョーは思い切りタイヤを軋ませながら走り回り、敵を跳ね飛ばし、ガトリング砲を唸らせた。
一頻り眼の前の敵が片付いた処で彼はコックピットを開け、ゴッドフェニックスから降りて来た健達と合流した。




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