『秘密基地建造を阻止せよ!(5)』

「あれだぜ、健!」
レーダーを眺めていたジョーがスクリーンを振り返った。
そこには無人島と思しき島が映っている。
「竜、離れた処からそっと海中に入ってみろ。あれがカッツェがいる前線基地の筈だ」
健の指示で竜は旋回してゴッドフェニックスを海中へと潜らせた。
海の中にタワーがあるかのように錯覚するような建造物が海底に伸びていた。
「あれだな、健……」
「ああ。竜、ゆっくりと音を立てずに降下しろ」
「ラジャー。おらに任せとけ」
ゴッドフェニックスはほぼ垂直に海中へと沈んで行った。
「あの小島がこの基地への外からの出入口だな」
ジョーが腕を組んで言った。
「竜、一旦停めてくれ。俺は島の上から潜入してみたい」
「ジョー、1人では危険よ」
ジュンが心配そうに振り向いた。
まだそれ程深くは潜っていなかった為、竜は一旦ゴッドフェニックスを水平に停めた。
「どうする?健……」
「ああ、ジョーの言う通り二手に分かれた方が効率が良いかもしれん。
 俺がジョーと行く。3人は基地本体を見つけたら連絡してくれ!」
「ラジャー!」
まだバードスタイルで耐えられる深度だった。
2人はそのままアクアラングも付けずに島へと泳いだ。

島に上陸すると無人島に見せ掛けてはあったが、ギャラクターの隊員があちらこちらで警戒をしていた。
「おい、良くゴッドフェニックスが見つからなかったものだな…」
ジョーが呟く。
「レーダーは地下の基地に設置されているのかもしれない。竜に注意しておこう」
健はブレスレットに向かって、竜にエンジンを停めて自然に沈んで行くようにと指示をした。
「健、あの古い砦のような建物、あいつが怪しいな」
2人は頷き合うと、息の合った動きで砦の前へと身を躍らせた。
「ガッチャマン!」
敵兵の1人が叫んだ。
「コンドルのジョーも忘れて貰っちゃ困るぜ!」
ジョーがニヒルに笑った。
それを合図にしたかのように、2人は散った。
敵兵の持っている銃は、先程の建設中の基地にいた兵士の物よりもちゃちで、普段の装備と変わりなかった。
健もジョーも遠慮なく投擲武器や肉弾戦で敵を倒して行く。
羽根手裏剣が華麗にピシュッと唸った時、最後の兵士が倒れた。
「よし、ジョー、行くぜ」
「おうっ!」
2人はいよいよ砦の中へと足を踏み入れた。
「海中基地へと続くエレベーターのようだな」
健が巨大なエレベーターを見上げる。
「健、罠が仕掛けられているに違いねぇ。気をつけろよ」
「解っている。ジョー、小型携帯酸素ボンベは持ってるな?」
「ああ、心配するな…」
「よし、行くぞ!」
2人は丁度上がって来たエレベーターから降りて来た5人の隊員を軽々と倒し、入れ替わりに乗り込んだ。

エレベーターの中には特に仕掛けはなかった。
「随分油断してるじゃねぇか?」
ジョーが呆れて呟く程だった。
「表の警戒も甘かったな…」
健も同意した。
「前線基地とは言え、随分お粗末だな。
 新造の基地が破壊された事がまさかまだ伝わってない事はあるまいに」
ジョーが背中をエレベーターの背部に預けた。
勿論警戒は解いていない。
ジョーがそれに気付いた瞬間、健も同時に感じ取っていた。
「上だ!」
2人はエレベーターの上部の隙間からマシンガンの銃口が覗いている事に気が付いた。
ジョーの羽根手裏剣が銃口を抉った。
マシンガンが暴発し、2人はエレベーターの中でマントを楯に伏せた。
エレベーター内はあっと言う間に硝煙臭さで一杯になった。
やがて静かになり、エレベーターが開き、硝煙の臭いが流れ出て行くのが解った。
「ジョー…、大丈夫か?」
「ああ、おめぇは?」
「当然大丈夫さ」
「行こう、健!」
「ああ……」
2人は同時にパッと立ち上がり瞬速で走り始めた。
「とにかく俺達の任務は汚染物質P−557の中和剤を奪い取る事だ。
 それが第一の任務だと言う事を忘れるなよ、ジョー」
「解ってるって!優等生のリーダーさんよう!」
ジョーはニヤリと笑うと、健に背を向けた。
「隊長自らお出ましだぜ」
その時、どーん、と衝撃音と大きな揺れが発生し、ゴッドフェニックスがどこかに体当たりして来た事が解った。
「援軍来たり、だな。健」
「よし、まずは此処を切り抜けるぞ!」
「おうっ!」
2人は力強く跳躍した。
肉弾戦となれば、それぞれが最大限の力を発揮する。
健とジョーのコンビは、相手を守る必要がない分、最高のコンビネーションだと言えた。
安心して持てる力を全て戦闘に注ぐ事が出来るのである。
ブーメランや羽根手裏剣、エアガンのワイヤーが自由自在に飛び、2人はそれぞれに離れて闘いを繰り広げた。
多勢に無勢の方が闘いやすいと言う事もある。
同士討ちを心配する必要がないからだ。
尤もギャラクターは同士討ちも厭わぬ、と言った感じで襲い掛かって来るので決して油断はならない。
ジョーは健の事を気にする事もなく、自分の闘いに没頭した。
身体の全てを戦闘の為だけに使い果たす。
五感のアンテナを精一杯張り巡らし、その血管1本までをも闘う為だけに生かした。
その時、健の呻き声が聞こえた。
運悪くほんの僅かの隙に付け込まれた健は、自分のブーメランで右腕を傷つけられてしまったのだ。
「健!大丈夫か!?」
距離が少しばかり離れ過ぎたか?!
ジョーは邪魔な敵を排除するのももどかしく健の元へと走った。
周囲に倒れているギャラクター隊員のスラックスを破って、それを健の傷口に巻いて強く縛った。
その間にも襲って来る敵がいる。
ジョーは羽根手裏剣を油断なく使っては、敵の攻撃を辛うじて避けていた。
健が受けた傷は決して浅くはなかった。
「くそぅ、出血が酷いな…。
 だが…健!悪いが、おめぇを置いて行かなければならねぇ。解るな?」
「当たり前だ!任務を優先しろ。大した傷ではない。俺も後から追い掛ける」
「健……、死ぬなよ!」
「心配するな。早く行け!」
リーダーはいつもの通り、凛としていた。
ジョーは健の負傷していない左手に羽根手裏剣を3本握らせた。
後ろ髪を引かれる思い、と言うものはこう言うものなのか…、と彼は改めて知った。
その思いを残したまま、振り向かずに前へと進んだ。




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