『秘密基地建造を阻止せよ!(6)/終章』

「こちらG−2号、ジュン聞こえるか?」
ジョーは走りながら、ブレスレットでジュンを呼び出した。
『こちらG−3号、ジョー、どうしたの?』
「健が自分のブーメランで右腕を負傷した。こっちに来れるようなら見てやってくれ。
 無理は言わん。そっちの様子次第で構わねぇ」
「………………………………………」
ブレスレットの向こうで竜や甚平と協議しているらしく低い話し声が聞こえていた。
『解った!行くわ。私に任せて、ジョーは進んで!』
「頼むぜ」
ジョーは我ながら『甘い』と思った。
(これが科学忍者隊のサブリーダーとは笑わせるぜ……。全くざまあねぇな…)
自嘲の笑いを漏らしながら、ジョーは科学忍者隊随一の速さで走った。
通路が現われる度に敵兵が続々と出現する。
ジョーは的確にその喉元を羽根手裏剣で射抜いた。
時間がないので、確実に斃す他なかった。
とにかく汚染物質P−557の中和剤を入手する為には一刻の猶予も無かった。
此処へ来てリーダーの健の戦線離脱は痛かったが、止むを得ない。
自分だって年中戦線離脱をしているのだ。
こう言った時にこそ、サブリーダーは活躍せねばなるまい。
ジョーの重いキックで気を失わない者はなかった。
鋭いパンチで意識が遠のく者もいた。
羽根手裏剣とエアガンでやられた日には、手出しも出来なかった。
「カッツェはどこだっ!?」
ジョーは鋭く叫びながら先へと進んだ。

ジュンと別れた竜と甚平は慎重に確実に敵を仕留めながら敵基地の中枢部へと進んでいた。
「ジョーの兄貴、電力室を見つけたぜ」
『解った、時限装置付きの爆弾をお見舞いしてやれ!』
頼もしいサブリーダーの声。
竜が力任せに敵兵を投げ飛ばしている間に、甚平は時限爆弾をセットし終わった。
「ジョーの兄貴、こっちはOKだよ!」
『よし、そのまま進め。カッツェを見つけたらすぐに報せろ!』
「ラジャー!」
「ジョー、この基地はそれ程広くないぞい。本当にカッツェがいるんかいのう?」
『罠だと…でも、言うのか?』
激しい格闘の音と混じりながら、ジョーの声が途切れ途切れに聞こえた。
「妙に手薄な感じがするけんのう……」
『確かにそれはある。気をつけろ。健がやられた位だからな。手練れの隊員が多い筈だ』
時折気合が混じったジョーの指示が飛んだ。
「ジョーの奴、やってやがるのう。腕が鳴るわい」
「竜、急ぐよ!」
年下の甚平に引っ張られるようにして、竜も先へと進んだ。
その時だった。ガシャーンと音がして、2人は行く手を阻まれた。
鉄格子が降りて来たのだ。
「しまった!ジョーの兄貴!やられたよ!鉄格子に閉じ込められた!」
『何だと!?』
ジョーの声は切迫していた。
こんな時に2人が捕虜になるとは……。
竜が力任せに鉄格子を左右に開こうとするがびくともしない。
「ジョーの兄貴、爆弾は10分で爆発しちまうよ!」
『落ち着け!ジュンをそちらに行かせる!俺は任務を遂行しなければならねぇ!』
ジョーも敵に囲まれ、ピンチに陥っている事は明らかだった。
ブレスレットからの通信音には激しいマシンガンの連射音が響いていた。

ジョーは後転しながら、マシンガンの洗礼を受けていた。
1台ではなく、何基のもマシンガンの標的にされていたのだ。
(此処に来て急に警備が厳しくなったって事は、カッツェと中和剤はこの辺りにあるな…)
とジョーは確信した。
彼が選んだ扉は一番警備兵が多い部屋だった。
勘が鋭いジョーは即座に此処に飛び込もうと判断した。
(罠かもしれねぇ…。だが、任務は果たさなければならねぇ!)
自動ドアからバズーカ砲を持って飛び出して来た兵士をぶつかり様に倒しておいて、ジョーはその部屋に転がり込んだ。
この部屋に科学忍者隊を誘き寄せる、それがカッツェの作戦だったのだ。
ジョーは瞬時にしてそれを悟った。
いや、悟ったと言うよりは最初から解っていた。
しかし…、素早くヒラリと飛び交う彼のマントがレーザービーム砲に捉えられた。
その瞬間先程倒したバズーカ砲の男が体勢を立て直そうとしている。
ジョーの身体は四方八方からのレーザービーム砲によって宙に浮き、自由が利かなくなっていた。
だが、この状況を自分の力で打破しなければ。
健は負傷し、竜と甚平は囚われの身となり、ジュンの助けを待っている。
今、動けるのは自分だけだ。
ジョーは憎っくきベルク・カッツェが立つその脇にミサイルのスイッチがある事を目敏く見つけた。
(あれだな……)
頭が身体が、麻痺して行く……。
意識が攫われそうになるのを、ジョーは耐えた。
右手に握られた羽根手裏剣をわざと強く握り締める。
右手から血が滴り落ちた。
彼は我を傷つける事で覚醒しようと試みたのだ。
意識がハッキリした瞬間、ジョーはその血に塗(まみ)れた羽根手裏剣を力一杯、カッツェの横にあるスイッチへと投げ飛ばした。
中和剤が入ったミサイルのスイッチが押された。
「くっそぅ!コンドルのジョーめ!もっと苦しめてやれっ!」
カッツェがマントを翻して部下に命令した。
レーザービームが最大出力になる。
「ぐ…ぐうっ!」
ジョーは唇から激しく血を噴いた。
その瞬間、健のブーメランがその発射スイッチを1つ1つ破壊して回った。
ジョーの身体はそのままどさりと冷たい床に落ちた。
受け身を取る事すら出来なかった。
「け……健。怪我は大丈夫、なのか?」
「お前の処置が良かった。もう出血は止まったぜ」
「ジュン…。甚平と竜は?」
「無事に助け出したわよ、ほら!」
ジュンが指差した先には、カッツェを羽交い絞めにしてボコボコにしている2人がいた。
ジョーはホッと一息ついた。
「起きられるか?」
健が手を貸そうとしたが、ジョーは自力で起き上がった。
頭がぐらりとした。
血を喀いたせいもあるかもしれない。
今更乍ら右手の掌がチクリと傷んだ。
「あら、ジョー。酷い怪我だわ」
ジュンがハンカチで手当てをしてくれた。
「この傷を自分で付ける事によって、一瞬意識を覚醒させたんだな」
健が呟いた。
ジョーは漸く立ち上がるとカッツェの方につかつかとにじり寄った。
自分が喀いた血に塗れたその表情には凄惨な程の迫力があった。
「くそう。今日こそ、今日こそ!貴様の正体をっ!」
ジョーは力任せにカッツェのマスクを引っ張った。
だが……。
その紫の装束の中は空だった。
今まで痛めつけていた感覚があった甚平と竜が一番ポカンとしていた。
「また逃げたか?紫の君め……」
ジョーが悔しさで傷付いた右手で壁を殴りつけた。
ボキっと骨の折れる音が鳴った。
「ジョー!落ち着け!」
健がその腕を左手で抑えつけた。
「時間がない。脱出するぞ!」
健の命令に我に返ったジョーは4人と共に走り出した。




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