『クリスマスイヴの祝勝会』

「ねぇ、ジョー。クリスマスイヴには何か予定があるの?」
ジュンの意外な質問に、ジョーは眼を白黒させた。
こいつが俺にクリスマスの予定を訊くなんて…。
「ああ、その日は丁度週末なんでサーキットで大きなレースがある」
「じゃあ、夜はジョーの祝勝会を兼ねてみんなでクリスマスパーティーをしようぜ」
甚平が割り込んで来る。
「俺が優勝するって決まっている訳じゃねぇんだが…」
ジョーは親指で鼻を掻いた。
これは父親の癖だったが、知らぬ間に彼にも身に付いたものらしい。
「まあ、ギャラクターの奴らが無粋な事件を起こさなけりゃそれもいいだろうぜ」
ジョーは取り敢えず肯定した。
祝勝会はいつもサーキット仲間が催してくれるのだが、クリスマスイヴならみんな予定があるに違いない。
「やったぁ!ジョーの兄貴がオッケーなら、兄貴もきっと来るよ、お姉ちゃん!」
甚平が手放しで喜んだ。
「何で俺が健を釣る餌なんだ?」
ジョーが眉を顰(しか)める。
「だって、兄貴の奴、そんな事は女子供がするもんだ、ってお姉ちゃんに言ったんだってさ!」
「ふん!別に俺だって、クリスマスを祝いたい気分って訳じゃねぇんだぜ。
 浮かれている場合なのか、って健は思っているに違いねぇ」
「それはそうだけれど…。たまには私達だって平和な時間を過ごしてもいいと思うわ」
ジュンが背が高いジョーの肩を優しくポンと叩いた。
ジョーが常に闘いの中に居る事、今年は彼の怪我が続いた事…。
それなりにジュンがジョーの事を気に掛けてくれている事は良く解る。
健に思いを寄せる彼女の為に一肌脱いでやってもいいだろう。
「解ったぜ。餌にでも何でもなってやる。優勝して帰って来ればいいんだな?」
ジョーは気前良く勘定を払うと、後ろ手に手を振って『スナックジュン』を出て行った。

レース当日は快晴。
風もなく、前日の天気も良かった事から、レース場の状況は良好である。
(こいつは自分の腕だけが頼りだな。腕が鳴るぜ)
ジョーはG−2号機の整備を終え、運転席で眼を閉じて精神統一を図っていた。
今回のコースはサーキット場内だけではなく、外も走るコースが採られていた。
一番最初にサーキットに戻って来た者が勝つ事になるだろう。
沿道にも見物客が居る為、彼らを巻き込まないように細心の注意が必要だ。
警備員がいるとは言え、いざとなったら役には立たないに違いない。
ドライバーそれぞれが、事故を起こさないように気をつけるしかなかった。
(ギャラクターの奴ら、今日は来るなよ!)
ジョーは青い空を一睨みするのだった。
その青は科学忍者隊のリーダーの瞳の色に似ていた。

出走から3時間後、ジョーは表彰台の1番高い所に立っていた。
2位に大差を付けての文句無しの優勝だった。
(ジュン…、これで約束は果たしたぜ)
ジョーの眼に観客席に立ってこちらを見ている青い瞳の男の姿が映った。
歓声に沸く観客席の中で、彼の姿だけが浮き上がるようにジョーにはくっきりと見えた。
(いや…まだ『仕事』が1つ残ってたな…)

ジョーはサーキット仲間と早々に別れるとまだ観客席で待っていた健の所へと走った。
「ジョー、相変わらず見事だな!」
健がハイタッチで祝福してくれた。
「今日はジュン達の姿が見えないんだが…」
その事を気にしているらしい健の横に座って、ジョーが答える。
「『スナックジュン』で俺の優勝祝勝会をしてくれるんだそうだ。おめぇも来いよ」
「えっ?」
「それとも何か?お前に他の予定でもあるってぇのか?」
「いや…ない……」
「じゃあ決まりだな。着替えて来るから待ってろよ。G−2号で送ってやる」
(ようし、これで約束は果たしたぞ、ジュン)

1時間後には、『スナックジュン』に科学忍者隊の5人が揃っていた。
「南部博士にも声を掛けたんだけど、会議があって忙しいって言うのよ。残念ね…」
ジュンが言った。
店は貸切になっていて、地味だがクリスマスツリーも飾られていた。
「まずはジョーの優勝を祝って乾杯しましょうよ。アルコールフリーのシャンパンがあるわ。
 それに今日の為に甚平が朝から一生懸命七面鳥を焼いたのよ」
「旨そうじゃのう…」と竜が舌舐めずりをした。
「祝勝会と言う名のクリスマスパーティーか…。
 何だか嵌められたような気がするが、まあ、ジョーに免じて良しとするか…」
健が小声でジョーに呟いた。
「俺が優勝出来なかったらどうするつもりだったんだか…」
ジョーもひそひそと呟き返した。
その時、コンコンとドアをノックする音がした。
「すいません。今日は貸切なんだけど…」
ドアを開けて謝った甚平が見たものは、沢山のプレゼントを抱えたサンタクロースに扮する南部博士その人だった。




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