『10段重ね』

竜がカウンター席でいきなり腹痛を訴えて苦しみ出したのは、食事を始めてすぐの事だった。
「ええっ?どうしよう?この店で食中毒を出したなんて事になったら……」
甚平が真っ青になった。
「違うさ、甚平。心配するな。こいつ、此処に来る前にソフトクリームの10段重ねを喰って来たんだ。
 多分そのせいで腹でも下したんだろうぜ」
ジョーは落ち着いている。
「とにかくそれならそれでトイレに連れて行かないと……」
甚平はおろおろしている。
甚平の小さい身体ではどうにもならない。
「俺だって嫌だぜ」
ジョーはそっぽを向いたが、健は立ち上がった。
「そうは行くまい。ジョー、手を貸せ」
2人掛かりで竜を両側から支え、トイレに連れて行った。

「これは南部博士の処に連れて行った方が良さそうだな」
トイレから出ても苦しそうな竜の蒼い顔を見て、健が腕を組んだ。
「全く世話を焼かす野郎だぜ。博士だって忙しいだろうに。
 そこら辺の藪医者でいいんじゃねぇのか?」
ジョーはとことん冷たい。
何故なら彼は竜に事前に釘を刺していたからだ。
彼自身はソフトクリームは食べずにコーヒー1杯で済ませていた。
健はそれでもブレスレットに向かって南部博士に状況を説明する。
「別荘に連れて来なさい、との事だ。ジョー、頼むぜ」
「俺かよ…?」
ジョーは仕方なく、ガレージに行き、G−2号機を出して、店の前に着けた。
ナビゲートシートを倒し、健と2人で何とか竜を寝かせる。
2人ともその重さに汗びっしょりになった。
「下ろす時も人手が必要だろう。俺が後ろに乗って行く」
健は後部座席のドアを開けた。
「甚平、心配すんな。断じておめぇのせいじゃねぇ」
ジョーは運転席から泣き出しそうな顔の甚平の頭をぐしゃぐしゃに掻き回して、笑顔を見せた。
「ジョー、その笑顔の方が怖いわ……」
ジュンが気付かれないように小さく呟いた。

竜は案の定、ただお腹を壊しただけだった。
だが、ジョーは南部博士にこってりと絞られた。
「ジョー、お前が傍にいながら、どうしてこう言う事になるのだ?」
「や、でも俺は注意したんですよ。やめるように説得を試みたんですから。
 腹を下すぞ、ともちゃんと警告したんです!」
ジョーは自分にとばっちりが来るとは思わず、困惑した。
「博士、たまたま傍にいたジョーを責めないでやって下さい。
 誰が隣にいたって、竜が食べ物を前にして言う事を聞く訳がないではありませんか?」
健が取り成した。
「それもそうだが……。科学忍者隊として健康管理がなっていない!」
南部はお冠だ。
ジョーは思わず健と顔を見合わせた。
逃げよう、と眼と眼で合図する。
「大体君達は仲間の健康管理に関して意識が希薄過ぎるのだ…」
南部が言って振り返った時には、健もジョーも既に姿を消していた。
南部博士は思わず苦笑いをした。
「まだまだ10代の若者だな……」

「とんだとばっちりだぜ!」
「全くだ!」
G−2号機の中でジョーは健と顔を見合わせて笑った。
「バイクを置いて来ちまったろ?『スナックジュン』に戻ろうぜ。メシも喰い損なったしな」
「ああ、そうしよう…。甚平達も心配しているに違いない」
「可哀想によ、甚平の奴、しょ気てやがったぜ」
「竜には後で甚平に何かお詫びのプレゼントでもさせてやろう」
本当は2人とも、竜に何事もなくホッとしていた。
ただの腹下しで良かった。
ゴッドフェニックスのメインパイロットに何かあっては大変だからである。
「とにかく腹が減ったぜ。早いとこ行こうぜ」
ジョーが健にウインクをして見せた。




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