『擬似キャンプ体験』

今日はトレーラーハウスに甚平が泊まりに来る事になっていた。
気持ちの良い森の中、ジョーは手頃な樹を見つけてハンモックを2つ吊り始めた。
実はトレーラーハウスの中に常備していた。
気候も良いし、甚平を一晩外で寝かせても風邪を引かせる事はないだろうとジョーは判断したのだ。
バギーの走行音が聞こえて来た。
「おっ?来たな?」
ジョーは呟くと口笛を吹き乍ら作業を進めた。
後一息で仕事は終わる。
甚平がこれを見たら眼を輝かすに違いない。
男の子はこう言った事が大好きだ。
ところが、バギーはそのまま通り過ぎて行ってしまった。
ジョーが不審に思って振り返ると、甚平はナビゲートシートに乗り込んだ不審な男に銃を突き付けられていた。
座席の無い後部にも無理矢理男が1人乗っていて、やはり銃を構えている。
此処に来る途中で乗り込まれたのか?
ジョーは素早く作業を中断して、G−2号機ですぐに追い掛けた。
少なくともギャラクターではないだろう。
甚平は素顔だし、G−4号機も変身前の姿だ。
甚平なら自分で上手く交わすかもしれないが、ジョーにはやはり弟分の身柄が気掛かりだった。

ジョーはG−4号機を追いながら、つと眼を細めた。
後ろに乗っている男が抱えている大きなバッグ…。
(さては強盗でもして来やがったか?こりゃあ、面倒な事に巻き込まれたな、甚平…)
念の為に南部博士に報告しておく方が良さそうだ。
ブレスレットに向かって博士を呼び出した。
「こちらG−2号。南部博士、応答願います」
『ジョー、どうした?』
「実はまずい事になりました。
 G−4号機が強盗犯に乗っ取られたようで、甚平は2人の男に銃を突きつけられています。
 今、俺が追っていますので奴らを追っ払う事は可能ですが、警察に突き出すとなると俺達の素性が…」
ジョーが気にしていたのはその事だったのだ。
別に強盗犯を倒す事ぐらい、彼には朝飯前の事だった。
「善意の一般市民として突き出したとしても、調書を取られるんじゃ?」
『そうだな…。だが甚平を助けて奪われた物を返す必要はある。
 男達の身柄は縛るなり何なりしておけば良いが、金品は通り掛かりの者に持ち去られる事も考えられるからな』
「ええ…、それが気になりましてね……。
 博士、バギーは森を抜けて港の方向に向かうようです。
 船で逃走する用意でも出来ているんでしょう」
『健達を応援にやるかね?』
「いえ、それには及びません。却って大事(おおごと)になりますから。
 俺が何とか考えて、犯人を捕縛した後に人知れず警察を呼ぶように手配しましょう」
『解った。何か困った事があれば、すぐに連絡しなさい』
「ラジャー」
ジョーは通信を切ると、慎重に尾行を続けた。
甚平はジョーが尾いている事に気付いているようだった。
ライトを照らしてモールス信号を送って来た。
「ふ・た・り・は・ぎ・ん・こ・う・ご・う・と・う。み・な・と・に・に・げ・る。
 な・か・ま・が・い・る。そ・こ・で・か・た・を・つ・け・る……」
ジョーはそれを読み取ってニヤリと笑った。
「さすがは甚平だ。ただのガキじゃねぇ」
甚平は大人しく犯人達に従っているようだった。
目的地に着くまでは下手に行動を起こさない方が得策だと考えたのだろう。
子供とは言え、やはり科学忍者隊である。
機転が利く子だ…、とジョーは感心した。
そろそろ潮の香りがして来る頃だ。
間もなく港が見えて来る筈だ。
そこに銀行強盗の仲間が待っているらしい。
ジョーは簡潔に此処までの話を南部博士に報告した。
「甚平1人でも充分だったかもしれませんよ」
相手は一般人だ。ギャラクターじゃない。
甚平にとっては、敵ではないだろう。
但し、銃器を持っている。
生身でいる以上は、それをぶっ放されたら危険だ。
「犯人は銃器を持っています。俺はそいつを何とかします。
 後は甚平が活躍してくれるでしょう」
博士にそう告げて、ジョーは港へと侵入した。

港には、密航船と思われる船が停泊していた。
甚平はその船の前にバギーを停めた。
ジョーはかなり手前でG−2号機を降り、遮蔽物を縫いながら密かに近づいていた。
その右手にはエアガンが握られている。
羽根手裏剣で怪我を負わせる訳には行かないし、下手に現場に残すのもまずいだろう、と言う判断だった。
仲間は更に2人居た。
男達は戦利品のバッグの中身を見てニタニタと笑っている。
甚平はまだ2丁の拳銃を突きつけられたままだった。
ジョーは気配を殺したまま、数メートルの処まで近づいた。
まずはエアガンのワイヤーを伸ばし、金が入ったバッグを奪い取る。
敵が慌てている隙に、甚平と2人、戦闘体勢に入った。
「甚平、手加減しろよ。うっかり殺しちまったら大変だからな」
「解ってるよ、ジョーの兄貴」
「何だとうっ?こいつらふざけんな!」
と叫んだ男はあっと言う間にジョーの手刀を浴びて卒倒していた。
ジョーはバッグを肩に背負ったままだったので、敵の狙いは彼に集中した。
だが、彼には拳銃の弾道などは簡単に見切る能力が備わっていた。
高く跳躍して銃弾の直撃を避ける。
銃弾が身体の遥か下を唸りながら通過し、アスファルトを直撃して爆ぜた。
ジョーは次の瞬間身体を捻ってエアガンの三日月型のキットを鋭く延ばしていた。
それで拳銃を1丁巻き上げた。
その間に甚平も自分の横に居た男の拳銃をいとも簡単に掏り取っていた。
これで形勢は逆転した。
ジョーは華麗な動きで残りの2人に軽く膝蹴りやキックを入れ、気絶させた。
甚平も銃を奪った男の鳩尾にパンチを入れ、奪っていた拳銃を海に放り投げた。
「さぁてと。甚平、こいつらを縛れ」
「うん」
甚平はバギーからロープを出して来て、男達を縛った。
科学忍者隊として仕込まれているだけに、簡単には解けないように上手く縛る事が出来る。
これで4人の男達は完全に拘束された。
ジョーはバッグを肩に掛けたまま、港を照らす大きな街燈へとジャンプした。
片手でぶら下がりながら、バッグを街燈に引っ掛けて、ひらりと舞い降りる。
「あんなとこにぶら下げてどうするの?」
「馬〜鹿。警察が来るまでの間に誰かに持ち去られたら困るじゃねぇか?」
ジョーは甚平の頭をぐしゃぐしゃに撫で回して、
「心配したぜ。馬鹿野郎…」
と呟いた。
ブレスレットに向かって、南部に報告を済ませ、ジョーは港から充分に離れてから公衆電話を探して警察に通報した。
これで全てが終わった。

『ジョー、甚平。良くやってくれた。
 万事上手く行って犯人の身柄は警察に渡り、銀行から奪われた金も手付かずで戻ったそうだ』
G−2号機とG−4号機が仲良く並んでトレーラーハウスのある森へと向かっていると、南部博士からの通信が入った。
「ちょっと暴れ足りなかったですがね。
 相手が一般人ですから、怪我をさせずに捕縛出来てホッとしています」
ジョーが笑った。
「それに…。とにかく甚平が無事で何よりでした」
「ジョーの兄貴…。ごめんよ。おいら、目先の楽しい事ばかり考えてたから油断してたんだ」
『まあ、君達の素性もバレずに上手く事を運べたのだから、良しとしよう。
 今、テレビでは、素晴らしい手並みだと君達への賞賛の言葉が盛んに流れているよ』
南部の笑いを含んだ声がした。
話している間に、トレーラーハウスが置かれている場所に着いた。
「博士、お騒がせしました。今夜は甚平は俺の処にいますから、何かあったら連絡下さい」
ジョーはそう締め切って通信を終えた。

「わぁ〜!これ、ハンモックじゃない!今夜はこれで寝るの?」
ジョーが思った通り、甚平の眼が輝いた。
「そうさ。もう少しで設置出来る処だったんだ。手伝えよ」
「うん。勿論!」
甚平は欣喜雀躍と手伝いを始めた。
ハンモックの設置が終わると、ジョーはバーベキューの道具も出して来た。
「食事も外〜!わくわくするなぁ〜!」
ジョーはいつか甚平がキャンプに連れて行って欲しいと彼に懇願した事を忘れてはいなかった。
任務の為、なかなかその約束は果たせずにいたが、せめて似た環境を作り出してやろうとしたのである。
甚平が純粋に喜んでいる表情を見て、ジョーは満足した。
さっきの活劇は腹ごなしには丁度良かったかもしれない。
「ようし、甚平。材料はもう切ってあるから、早速焼こうぜ。
 中に用意してあるから運ぶのを手伝ってくれ」
「はいよ!」
陽が暮れて来た。
ジョーは薪の代わりになる折れた枝や落ち葉を集め、火を付けた。
こうして2人の擬似キャンプの夜は始まろうとしていた。



※甚平は088◆『キャンプ』でジョーとキャンプに行く約束をしています。




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