『国際潜入捜査(1)』

『大鷲の健』と『コンドルのジョー』。
科学忍者隊で二双頭とも呼べるべく並び立つ2人である。
猛禽類の名前が付けられたこのリーダーとサブリーダーの実力は決して大差なく、統率力で健が勝っていると言った処だろう。
ジョーは復讐心だけで動いている部分があったし、南部博士が健をリーダーに任命したのは賢明であると言えた。
彼自身、その事を自覚している。
自分はリーダーの器ではなく、サブリーダーとして健や仲間をサポートし、自由な立場からギャラクターと闘うのが性に合っているのだと。
そして、リーダーが負う事の出来ない負の部分の仕事は自分が全て請け負ってやろうと密かに思っていた。
その彼の決意は誰も知らない。
健は時に任務の為に敵の生命を奪わなければならない時、必ず躊躇するし、また、眼を背けようとする。
しかし、ジョーは違った。
決して眼を背けない。
それがどんなに凄惨な物であっても……。
そう言う物を眼にする存在は科学忍者隊の中で、自分1人居ればいい。
そう思っていた。
彼がバードミサイルを撃つのが自分の役目だと自負しているのは、実はそう言った意味もあった。
ただのミサイル好きではないのだ。
科学忍者隊随一の射撃の名手として、狙いを外さないと言う思いもあったが、健の手を出来るだけ血で汚したくないと言う気持ちもあった。
その機微は誰にも解らないだろう。
誤解されたままで終わっても構わないと、ジョーは思っていた。
ギャラクターへの憎しみが誰よりも深い事は事実だったし、1日も早く跡形もなく壊滅させたいと一番強く思っているのも彼だったからだ。
だから、射撃の腕を磨いた。
羽根手裏剣の精度を上げる為の訓練も欠かさなかった。
そして、人よりストイックにその肉体を鍛え上げ、『自分自身の身体』を武器として磨き上げた。
バードスタイルは防御力とジャンプ力、飛翔能力が高まるだけだ。
そしてマシンの性能が上がり、5人での合わせ技が使えるようになる。
飽くまでも戦闘能力は変身前の力が物を言うのである。
だから、科学忍者隊は変身前の素顔の時でもギャラクターの隊員達と十二分以上に闘えるだけの戦闘能力を誇っていた。
特に健とジョーの身体能力が抜きん出て優れている事は科学忍者隊生みの親の南部博士が一番良く知っていた。

今回の任務はそう言った背景もあって、リーダーとサブリーダーに振り分けられた。
科学忍者隊のメンバーの中で2人だけが南部博士に呼び出された。
「非常に危険な任務だ。2人にはアスリア国の国王を探って貰わなければならない。
 ギャラクターと手を組んでいると言う密告があった。
 決してバードスタイルになる事は出来ない。
 2人は3日後からアスリア国で行なわれる国際射撃大会の出場者として入国し、密告者と密かに逢って情報を得るのだ」
「密告者とは一体誰ですか?」
健が訊いた。
「国王のお嬢さん、つまりはアリス王女だ」
「アリス王女と言えば、『お転婆王女』して有名なあの?」
ジョーが眉を顰(ひそ)めた。
「その通りだ。だがそれは本来の彼女の姿ではない。本当は清楚な王女だったのだ。
 だが父親である国王の変貌に伴って、彼女も変わらざるを得なくなった……」
「女性である王女との接触にジュンを連れて行かなくても良いのですか?」
健が訊いた事はそのままジョーの疑問でもあった。
南部は笑いを含んだ声で答えた。
「王女と言っても、もう30歳を超えておられる。男性との接触を憚られるようなお方ではない。
 先程も言ったように危険な任務である為、今回は特に2人にこの仕事を頼みたい」
「ラジャー」
「射撃大会の出場者の中に君達の名前を上手く潜り込ませた。
 アスリア国に極秘裏に出入国する為に必要な手続きなので、射撃大会自体は放置しておけば良い」
「ちょっとそいつも気になりますがね……」
腕を組んだジョーが呟いた。
「3日後までに事件が解決すれば、出場して来ても構わんがね。
 大会は丸1日掛けて行なわれるので、その間に再び任務が無いとは言い切れんよ」
「俺が気にしている事はそう言う事では無いんですが……。
 とにかくその王女から話を聞き出して、ギャラクターとの悪事を明らかにして来ればいいんですね。
 その時点で解決出来れば、どの道射撃大会は中止になるんじゃないですか?」
「かもしれんな。とにかく出発便は明日の早朝だ。
 出国準備はこちらでしておくから、時間には遅れないようにしてくれたまえ」
「解りました」
健とジョーは顔を見合わせて答えた。

その日の夕刻には『スナックジュン』に5人が揃っていた。
「何だかつまんないの〜。おいら達はお払い箱かぁ」
甚平がスパゲティーを作りながらぼやいていた。
「ほら、料理をしながらお喋りをしない!」
ジュンに窘められている。
「今回の事件は特に危険な潜入捜査よ。
 だからこそ博士も万全を期して健とジョーを選んだんでしょ」
「だが、おらもつまらんのう。全員で行った方が役に立つ事だってあるだろうによぉ」
「アスリア国に潜入するのに、その射撃大会が丁度良い機会だったんだろうよ。
 それには健と俺がお誂え向きだったんだろ?別に気にすんなって。
 普段通りパトロールだってあるんだしよ」
「ジョー。だが俺達も前途多難だぜ」
「ああ、アスリア国は国連非加盟国だ。それが何だって『国際射撃大会』を開くんだ?
 俺にはどうも解(げ)せねぇ。どうやらそこに鍵があるように思えてならねぇな。
 健、おめぇも射撃をしなけりゃならないかもしれねぇぜ」
「腕利きを集めようと言う策略かもしれんな。
 だとしたら、ジョー、お前の腕は確実に狙われる筈だ。
 危険な眼に遭うかもしれない…」
健の憂いを秘めたブルーの瞳がジョーを見た。
「俺には危険の方から喜んで近づいて来るらしいからな。
 ブレスレットは南部博士に預けて来たし、確かに前途多難だ。
 生身じゃあ、どうしても防御が弱くなる……」
「博士から貰った防弾チョッキがあるだろう?」
「あれか…。役に立つといいがな。
 ギャラクターが1枚噛んでるとなりゃ、ちょっとやそっとの防弾チョッキなんか役に立たねぇぜ。
 それにな。あれでは手足は防御出来ねぇからな。
 俺達が手足をやられちゃあ、奴らにも赤子の腕を捻るようなものだろうぜ」
「お互いに相手の事を気遣う余裕は無くなるかもしれんな……」
健も唸った。
「まあ、そう言うこった…。だからこそ、博士も俺達を組ませたのさ」
「身体能力、咄嗟の判断力…。
 そう言った物を総合的に判断して科学忍者隊から2人を選ぶのなら、貴方達しか居ないものね。
 健もジョーも気をつけて。無事に帰って来てね。2人も欠けたら私達が困るのよ」
「解ってるよ……」
そう答えたが、健はジュンの顔を見なかった。
それだけ危険な任務であると言う事が、健は勿論の事、ジョーにもひしひしと感じられていた。

翌日の早朝、2人は南部の別荘から従業員が運転する車に送られて空港へと向かった。
その車を後ろから南部博士と心配そうなジュン、甚平、竜が見えなくなるまで見送っていた。
無事に戻って来るように、との祈りをひたすら込めて……。
車内では2人とも殆ど無言だった。
それぞれに今回の任務について考える処があったのだ。
だが今回の任務は運転をしてくれている従業員に知られてはならない極秘任務なので、話すとしても当たり障りのない事しか言えなかった。
2人は暗号のような話をヒソヒソとしたに留まった。
空港に着いてからは射撃の選手団に紛れなければならないので、なかなか隠れて意思の疎通をする事は難しいかもしれなかった。
何よりも彼らにはブレスレットが無かった。
「まあ、なるようになるぜ…。なあ、健……」
最後にジョーが呟いて、外に流れる風景を見た。
(ユートランドの風景を見るのもこれが最後になるかもしれねぇな…)
ジョーは密かにそう考えていた。




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