『国際潜入捜査(3)』

王女は良く見ると意志の強そうなキリリとした顔立ちをしていた。
南部博士によると元々は大人しい人物だったそうだが、何かが彼女を変えたのだと、ジョーは思った。
盗聴器の存在には驚いた様子だったが、気丈にもすぐに気持ちを立て直した様子だ。
なかなかの女丈夫だ、とジョーも健も感心した。
スカートを膨らませた中世の姫のような服装だったが、色は比較的地味に抑えていた。
グレイ系のドレスに金糸があしらわれている。
アリス王女は2人に近づいて来てキッパリと言った。
「知られてしまったとしたら、それはそれで仕方がありません。
 私が南部博士と連絡を取った事もその盗聴器からとうにバレている事でしょう。
 とにかく問題を早く解決しなければならないのです」
「その問題とは一体何ですか?」
健が出来るだけ失礼のないようにと気を遣いながら訊ねた。
「父にベルク・カッツェが取り入ったのは、3年前の事です。
 小さな国ですが、実はこの国には膨大なウラン鉱が眠っています。
 恐らくはそれを狙っての事でしょう。ベルク・カッツェは父に世界征服を持ち掛けたのです。
 身の丈を弁えてこの小さな国の国王で満足していれば良いものを、ベルク・カッツェの口車に乗り、世界征服を企むとは、もう昔の父とは思えません。
 私はそれから父に何とか元の道に戻って貰おうといろいろと試みました。
 その為、反抗的な態度を取るようになり、今では『お転婆王女』の異名を取っています」
王女は自嘲的に笑った。
「ベルク・カッツェは、今、ウランを利用した鉄獣を開発しています。
 その鉄獣を扱う者を集める為に、世界征服の為と父を唆(そそのか)し、2人で謀って国際射撃大会を催す事にしたのです」
「やはりそうでしたか…。おかしいと思いましたよ。
 国連非加盟国が何故国際大会を主催したのかが、これでやっと解りました」
ジョーがいつもの癖で腕を組もうとして慌ててやめた。
その態度は王女に対して失礼に当たると思い当たったのだ。
「その鉄獣には、5基の砲台が設けられます。
 それぞれにウラン鉱ビームを取り付け、回転しながら交替で撃つ事が出来るようにしたものです。
 回転するのは、発射回数を多くする為です。
 そして、ウラン鉱の威力が強い為に発射精度を上げなければなりません。
 その為の射撃大会です。腕利きを拉致して集めるつもりでいるのです」
「そう言う事なら、俺…いえ、私がその中に選抜され、拉致された振りをして潜り込みましょう」
ジョーは自信たっぷりだった。
王女が首を傾げると、健が
「この男は射撃の名手です。恐らくは射撃大会出場者の中では随一の腕を持っています」
と口添えした。
「そうでしたか…。それは心強い」
王女が歩み寄り、ジョーの手を取ったので、彼は戸惑ってしまい、一瞬手を引きそうになった。
「貴方がたが頼りです。父の、そしてベルク・カッツェの野望を打ち砕く為に手を貸して下さい。
 勿論、私と私を慕ってくれる兵士や市民達も立ち上がります」
「え?王女様自らですか?」
健が驚いて訊いた。
「私も狩りで腕に自信があります。2日後の大会には変装し、名前を変えて出場するつもりです」
「王女様、それは危険です!おやめ下さい」
健が喰い下がったが、王女は
「自分の国の事ですから。私も覚悟は出来ています」
と頑として受け入れなかった。
この辺りが『お転婆王女』と呼ばれる所以なのかもしれない。

翌日、ジョーは健とともに街中を調べ歩いた。
一般市民に紛れて平服のギャラクターの隊員が居る事はその独特な気配ですぐに解った。
「バスの中から見た時は平和そうに見えたが、実はギャラクターに支配されていたんだな…」
健が眼を背けるようにしながら呟いた。
「ああ…。何て汚ねぇ野郎共だ!反吐を吐きたくならぁ!」
ジョーも小声で怒りを露わにした。
その拳が震えていた。
故郷のBC島に似た雰囲気を一瞬でも感じていただけに、市民の笑顔の裏に実は恐怖心が隠されていようとは思いもよらなかった。
それだけの彼の怒りは大きいものとなった。
ホテルの部屋に戻ってから選手団の壮行会があったが、彼らは出席を見合わせた。
こう言った物には出来るだけ出席しない方がいい。
自分達の存在を印象付ける事になるからだ。
いつ姿を消すか解らない。
不審に思われないようにしなければならなかった。
その辺りは田中が上手く手配してくれるだろう。
「ジョー、射撃大会では相当なレベルでの争いになるに違いない。
 俺は間違いなく予選落ちするだろう。
 お前を相当危険な目に遭わせる事になるかもしれない」
「そんな事は解っているさ。しかし、これが任務だ。お前に出来る事が他にあるだろうぜ。
 覚悟の上で囮になるんだ。心配すんなって」
「俺はお前にばかり危険な思いをさせている気がしてならないんだ」
健は不安そうに眼を伏せた。
「凡そ科学忍者隊のリーダーとは思えねぇぜ。気弱になるなよ、健。
 俺は簡単に死んだりはしねぇさ…」
「解ってるさ。お前の力は俺が一番解っているつもりだ。
 だが、どうも不安に押し潰されそうになるんだ……。
 お前が良く言う『嫌な予感がする』って奴だな」
「おめぇの予感も結構当てになるからな。注意はしておくさ。
 だが、いざとなったら俺の生命より、王女と民衆を守ってくれよな。
 お前なら言わずとも解っているとは思うがよ」
「解っている……。その決断が必要な時はそうするしかあるまい。
 だからこそ、お前自身で自分を守って欲しい」
ジョーには健の不安が手に取るように解った。
「おめぇの方が責任重大だぜ。俺は自分の生命、お前は王女と民衆の生命。
 負う荷物が違うじゃねぇか。………………頼んだぜ、健」
ジョーは祈りを込めて健の肩に手を置くのだった。
そして、ジョーは付け加えた。
「負の部分は全て俺が背負う。
 だから科学忍者隊のリーダーとしておめぇはいつでも凛としていてくれ」

そうして、ついに国際射撃大会の当日を迎えた。
コンサートが開けそうな国際競技場並みの体育館が会場として用意されていた。
ジョーと健はその規模に圧倒された。
「随分と広いじゃねぇか。大仰過ぎて却って怪しさがプンプンするぜ」
ジョーが1人ごちた。
「だな…。競技の種類が15もあるって言うじゃないか。
 それだけの銃器をどれも充分過ぎる程取り扱えるレベルの人間を欲しがっていると言う事だな」
銃器を取り替えるだけではなく、射撃の標的も変わって行く。
それを高レベルの得点で通過しなければ先の競技に進めない事になっている。
最初から高いレベルでの争いとなり、健は本人の予想通り、1つ目の競技で合格ラインを下回ってしまった。
競技が1つ進む毎に選手が振り落とされて行く方式が採られている。
競技自体が予選なのだ。
拳銃は勿論の事、ライフル、マシンガン、バズーカ砲など、一般の射撃選手では取り扱わないような物まで武器が支給されて行った。
ジョーの成績はその中でも秀逸でずっとトップを譲らなかった。
その集中力と正確な腕前は既にギャラクターに眼を付けられているに違いない。
そんなレベルの高い競技が続いている為、脱落者はジョーの予想以上に多かった。
(精々、拳銃やクレー射撃、それにライフル…。
 通常ならそんなもんだろう?やはり如何にも怪しいぜ……)
ジョーと同じように勝ち上がって来ているメンバーの中に、長いブロンドの髪をひっつめにしてサングラスをし、戦闘服のようなものに身を包んだ女性がいた。
ジョーにはこれが王女だと言う事はすぐに解った。
王女はジョーの射撃の腕を感嘆する思いで見ていた。
だが、彼女の腕前もまた大した物だとジョーが感心する程の物だったのである。
ギャラクターは予備人員を考えても最後に10人程度選抜するつもりに違いない。
その中に確実にジョーと王女は残りそうだと、傍(はた)から見ている健は直感した。
となれば、王女も拉致される可能性が高い。
(ジョー、お前自身だけではなくて、王女も守らなければならなくなりそうだぞ…)
健が再び不安を呼び起こした。




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